爆弾魔
コーベットはアーロン・ウィプマンがいる場所を特定する為、無線で連絡している。
「よし、分ったぞ…あの野郎…大胆にもアリーナ席に陣取ってやがった」
「何処だよ、早くいかなきゃ」
「D3だ、奴が妙な気を起こす前に、爆弾の場所を聞き出すぞ」
俺たちはアリーナ席に戻り、D3の席へ行くと、制服警官姿のコーベットを見るや逃走する。
会場は、彼女…フォゲット・ミーノットの歌に聞き酔いしれ、熱狂し、俺たちの捕物ごとには、関心を示さなかった。
アーロンは走り疲れたのか、入口の11番ゲートでようやく捕えた。
「元ユースティティア構成員、アーロン・ウィプマン!! コンサートへの威力業務妨害の罪で身柄を拘束する! さて…爆弾は何処に設置した!」
「離せ!! 知ってて話すと思うかよ!」
コーベットは、抵抗するアーロンを手錠をかけ拘束し、その上で尋問する。
――――――だが…
「お前ら共々、めちゃくちゃになれば、いいのさ、なあ、警官さんよ! 」
そう呟くアーロン。
俺からもアーロンに聞いた。
「お前は、元々ユースティティアの構成員だろ? 何でこんな事やる、何か思っての復讐か…!」
「復讐? まあ、そうだな…あんたの事知っているぜ、スカーフェイス…いや、ガーベラさんよ…あんた…熱愛だってな…ミーノットとよ、俺は彼女に惚れていた、なのに…ユースティティアは解体され、好きだった女は…ガーベラさん!よりによって、組織を解体に追いやった男と惚れ合ってよ! こっちは何もないんだ、なら、せめて…俺の存在を示してやろうと!」
何もかも失った男に、俺は決めた。
「アーロン、お前…俺のマネージャーにならないか? 」
「……あんたは俺に何を言ってるのか…分かってるのか…あんたには組織も女も奪われたんだぞ」
「分かってる、だけどよ…こんな事しても、誰かに存在を知らしめてもよ、お前もみんなも不幸になるだけじゃないか」
「それで…いいんだよ、あんたみたいに勝ち組の言う事なんて聞きたくない!!」
アーロンは、コーベットの拘束から無理矢理、振り解き、俺達から距離を取り、自暴自棄になったのか、手錠で拘束されてる状態で、ポケットの中からスイッチみたいな物を取り出し…
「これを押せば!コンサートの中心…フォゲット・ミーノットがいる所が爆発する…へっへ、そうすりゃ、お前らの絶望した顔が見れるってもんよ」
「やめろ!? そんなに気に食わないなら、俺を狙えばいいだろう」
「嫌だね!俺は無性にあんたが絶望する顔を見たくなって来た…」
パンッ
奴がそれに、手をかけようとした時! 乾いた発砲音がした。
コーベットがスイッチだけ狙い、アーロンの手から遠ざけた。
なんていうエイム力なんだ、俺が感心してるとコーベットが「何をしてる!捕らえるぞ!!」と聞き、ハッ!!っとした時、コーベットはアーロンに「動くな!」と射撃体勢に入り、威嚇していた。
「なあ、アーロン…もう一度言う、こんな事やめて、俺の所で働かないか…マネージャー業だって、悪くないぜ」
「あんたは…あんたはそれで良いのか…俺がいつ、あんたの寝首をかくかも知れないぜ」
「構わんさ、それは、了承の返事でいいんだな」
「好きにしろ…変わった男だ」
「話は済んだか? 貴様はコンサート観に来てるんだろ、ならさっさと観に行くといい」
「犯人確保の為とはいえ、付き合わせといて、偉そうに…まあ、何事もなくてよかった」
腕時計を見ると、コンサート開始から一時間半も過ぎていた。
俺は急いで戻り、コンサートを聴いた。
マネージャーのタケシは、俺が戻ってくると、「どこ行ってたんだ」と聞いてくるので「秘密」とだけ伝えた。
素晴らしい歌声が響くコンサートは、無事終わった。
※※※
こうして、爆弾騒ぎはコンサートの中、静かに?に幕を閉じ、アーロンをコーベットに引き渡した。
罪状は威力業務妨害で、普通なら執行猶予はつかないのだが、ある事をしようと、俺は彼女の事務所まで出向き、アムールに事情を話し、嘆願書を書いて貰う事にした。
「ありがとう、アムール」
「いいのよ、ガーベラ…恋心も拗らせると、こんな風になるのね、私、余り憎めないわ、この犯人…」
「そうなのか…君は…自分の命がかかっても、そう言えるなんて強いな」
「あら、別に強くもなんともないわ、ただ、貴方がくれたのよ」
「俺が?」
「そう、貴方が、【君は言ったじゃないか、多かれ少なかれ他人に迷惑をかけるもんだって! 所詮、そいつ等は、君を操り人形にしたいだけなんだよ、それこそ…知ったことかって我を通せばいいよ 、それに君の歌は、心にくるし、聴いてて心地よい】って覚えてる? 」
以前、BARルーストで言ったかな…あまり記憶にうっすら、覚えてるような気がした。
「あーー、もう!忘れてるって顔をしてるーー、あれで他人の操り人形になってたまるか!って思えたの、今回だって結果的だけど犯人の思惑通りにならなかったから!一層、そう思えるようになったの!」
「そうか、そう思えたら助言したかいも、あったかな」
「そうだよ、あったんだよ…ねぇ、ガーベラ…目を瞑って…あと少し体を前のめりにしてくれたら嬉しいな」
彼女の言う通りに目を閉じ前のめりに体を倒すと、唇に何か重なった感触があった。
俺は驚くと、彼女は自分の唇を指差し…「お礼…」とだけ伝えた。




