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過去の終わり…現在へ

―――――試合後、会場は騒然としていた。

リング上で、意識を失くしたラリーの様子がおかしい。


意識を覚まさないのだ、察したのか…ダマトのおっさんが「担架を!!早く!」

試合後、救急車で搬送され、近くの病院の集中治療室に運ばれた。

担当の医師からは、「出来る限りの事はやりますが…覚悟をしていてください、今、今夜が山場になると思いますので」

集中治療室のランプが点灯し、俺は、ダマトのおっさんと共に、集中治療室の前のベンチに座ると手術の成功を祈っていた。

どれくらい時間が経ったのだろうか…23時25分に搬送されてから…5時間経っていた、そして…手術室のランプの点灯が消えた。

治療室から、医師が出てくると…俺は「先生!?ラリーは…ラリーはどうなりましたか!?」


医師は、眼鏡をかけ直す仕草をし…残念そうな顔つきで…「万全は尽くしましたが…患者の意識は戻りませんでした…残念です」

ダマトのおっさんは…下を俯きながら、声にならない声で嗚咽が出た…マークは…呆然とした様子で現実を受け止められない様子でいる。


「患者さんの遺体はこちらにあります、関係者の皆さんは、こちらへ…」

医師が集中治療室の中へ案内すると、そこには手術台で目を瞑ったまま、安らかに安置されている、ラリーがいた。

目の前に光景が…信じられなかった…何時間前までは、試合を繰り広げて…その前も俺と話してて…あんなに元気だった人が…一人、この世を去ったのだ。

今でも!?ドッキリでした!! とおふざけで、ガバッと起きるんじゃないか…とか思ってたりして…現実だ、現実なんだ、人が亡くなるって、こんなにも喪失感があるんだ…。


「ワシの責任じゃ、11ラウンドの時にタオルを投げていれば…」


ダマトのおっさんは、俯いたまま、悔しそうに言った。


「ダマトさんだけの責任じゃないですよ、俺やスカーだって…あの時、ストップの事さえ考えられなかった…みんなで背負いましょうよ」


マークの言う通りだ、あの時、《《止める》》って選択を持っていれば…こんな事にならずに済んだんだ。

俺にだって…責任はある。

ダマトのおっさんは、「お前たちが背負う事はないよ、これはトレーナーの責務なんだから…」と力なく言った。


―――世界ミドル級王座防衛戦12回戦――

結果

ジェームス・ロビンソンのKO勝ち、対戦者ラリー・フィールドKO負けの後、脳内出血で死亡を確認。


勝者ジェームス・ロビンソン 年齢31歳

戦績50戦50勝50KO


敗者(故人)ラリー・フィールド 年齢28歳

戦績33戦25勝25KO1敗7引き分け



※※※



翌日、葬儀が行われた。

ジムの練習生達、プロに在籍している者も、ジムのメンバー総出にラリーのファンの方も喪服に身を包み、ラリーを名残り惜しそうにしていた。

葬儀屋の執り行いで、葬儀は進み、火葬場で焼かれる遺体…骨になっても、これが現実だとは思いたくなかった。

骨壷を納めた棺が墓石の前に埋められる。

墓石には、【偉大なるボクサー、ラリー・フィールドここに眠る】と記されていた。


俺はここに、誓う!必ず世界王者になってみせるって!!


※※※


―――現在。

5月になっていた。


「ハッ!ハッ!!ハッ!!!」


「大丈夫かよ、そんなに飛ばして練習中にぶっ倒れるんじゃないか? 」


タケシが、そういうもんで、そっちこそ、大丈夫なのかよ? と聞く。


「何でだよ? 俺なら大丈夫だぜ」


「1ヶ月前に、ぐったりしてた時期あったりしてたろ? 何か悩みでも抱えてるんじゃないかと…」


そう1ヶ月前に、憔悴しきった時期があって、あれから時間が経ち、傍から見たら、元気になっていた…という風に、見れるが実際の所を聞いて起きたかったのだ。


「別に、誰かに話して解決する問題じゃないし…」


「でも、あるんだろ? なら話しちゃいなよ」


「いいんだよ!! 俺の悩みは…それより、このチケットなーんだ!」


タケシは手に持ったチケットをヒラヒラさせて、俺に見せると「なーんと、フォゲット・ミーノットさんのライブチケットなんだなぁ、欲しいだろ、1週間後にあるんだぜ」


「何だと…いつの間に手に入れてたんだ…」


「敏腕マネージャーを甘くみちゃいけないよ、お前が欲しいと思って俺の分合わせて、2枚入手した」


「だが、練習をせねば…試合は2ヶ月後なんだろ、ここで気を緩める訳には!」


「スカーフェイス、休息だって必要だぜ、日帰りで、観にいこうや!!」


渋る俺にタケシは、「練習は必要さ、だけど、さっきも言ったろ、休息も必要だって、根詰めるなら、観たあとでも出来るって…それに…愛しい彼女のライブを見れないって…彼女も可哀想だぜ」


「なっ!?お前、俺と彼女の関係を知っているのか!」


それに、チッチッチッと指を振る。


「そりゃなぁ、選手の状態を把握するのも、俺の仕事だぜ、ていうか…お前の態度は分かりやすい」


何だが、恥ずかしい…本当に何なんだろうな…。


「なっ!行こうぜ、ライブ、俺も同席するが、彼女も喜ぶぜ!!」


結局、タケシに押され、ライブを日帰りで観に行くことになった。

それが、この時、事件に巻き込まれるとも知らずにいた、俺だった。


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