第2話 「お返し」
整理された石造りの道路の上で一人ステップする。
まだ早朝である為、活気ある通りはまだ舞台を整えていない。
石造りの店に明かりはついておらず、人の通りは少ない。通る人がいてもそれは、いつもジョギングしている顔見知りしかいない。
「よぉ、ピュラスさんとこのお孫さん。頑張って学校行ってこいよ」
「はい、いってきます」
不意に、鼻の中へ良い匂いが、耳の中へ急ぐ音が運び込まれる。
従業員が、ふかふかなパンをせっせと運んでいたのだった。他の店内からも音が鳴り、皆開く準備をいそいそと始めていた。まるで、私と同じく今日楽しみにしているイベントがあるかの様に。
「ーーーーーーー!」
後方から誰かが僕の名前を呼ばれた。
「彼奴だな」
後ろを振り返ると、ギコギコと音を鳴らしながら必死にペダルを漕ぎ高速でこちら側に向かってくる人物がいた。どんどんと距離が狭まるにつれ、声の主の正体に確信を持つ。
なんで、私と友達になったのかいつも不思議に思う。
目前に差し迫った時、友は少し速度を落とし私の横を通過、その後車体を横滑りにさせながら残った速度も落とし停車した。
そんなアニメ風にかっこよく登場した友に、呆れた顔で挨拶をかける。
「おはよう、ピューラー。今日は馬じゃないんだ」
「あぁ、いつも面倒見てくれる先生が熱出たらしくてね。自転車通学でござる」
ゴーグルを外しまばゆい顔を見せつける。
長いポニーテールを付けた綺麗な金髪に、まるで宝石をはめ込んだかのような蒼眼。整った凜々しい顔から下に服装を着ていてもわかるぐらいスマートな長身が生えている。
まるで何処かの有名なモデルに間違えられる程の存在だ。
「そうか、ところでピューラー」
ささっと、距離を詰め、手刀の構えでピューラーの頭に軽く叩いた。
「いつも、そんな止め方をすんなって言ってるだろうが」
静寂に近い空間に、私は声をあげた。
「ごめんでござるよ~~。つい...」
「ついもあるもんか。マジでお前が横を通る度にヒヤヒヤするんだよ」
「悪かったって、ぽんで。ほら、これに免じてさ」
何かの覚悟を決めたかその場に座り込み鞄の中を探し始める。
なにかを発見したのか、鞄の中からそれを取り上げる。短刀であった。
それを見て私は、次にピューラーがする展開に察知し心の臓をドキッとさせる。自分の鞄を放り投げ慌ててピューラーの両腕を押さえ込む。
「やめい、やめい。何しとんじゃ~」
「日本には、謝罪としてにこれをやるって本に書いてあった。だから、拙者はやるんだーーーー!」
「ばかーーーーー!」
ピューラーの馬鹿力に圧倒され、そのまま腹に差し込まれていき......
「はい、ドッキリ大成功!!」
とびっきり元気な顔で、短刀の刃を指で押し込んだり離したりするのを見せつけてきた。
唖然としたが、私もまた笑顔で返した。そして、発生した憤怒の感情は拳へと変形させ、美形の顔目掛け殴りつける。
今まで溜めに溜めてきた怒りの補正があったのか、ピューラーの身体は軽く吹き飛んでいく。
ーーーーほんとにピューラーは世話がかかる奴だよ
心の中にあった鬱憤を全て排出した事により、今とてもすがすがしい気分だ。
自分の鞄を拾い、ピューラーに手を差しのばす。
「さっ、早く行こ。遅れるぜ」
「おっ......おう」
痛ててと、頬を押さえながら私の手を掴むと同時に、起き上がらせる。
「次は、あんな事するなよ」
軽く注意をピューラーに促し、それに応えたのか頭を小ぶりに動かす。
本当にわかったんだろうか。
「そうだ。今日なんか良いことあったのか」
さっきの事が嘘かのように、再び眩しさを取り戻し聞いてくる。
「あぁ、それね。今日じぃちゃんがご馳走を作ってくれるからさ。しかも俺の好物の」
「まじでござるか。それは拙者が直々に、毒味をしにいかないとござるな」
両腕を組みふんっと、威勢良く鼻を高らかに上げるその行動に、私は微笑する。
「なんで、毒味なんだよ。お前も来いよ」
「今日の夜は拙者、家族と食べないといけないござるから。また、誘ってくれでござる」
その答えに少し、残念に思ったが......
「あんな止め方しないなら考えるよ」
「わかったでござるよ~~」
私の返しにあたふたし始める。私はそれを見て、悪役に思える笑みを溢した。
そんなたわいもない会話をしながら学校へと向かう。




