序章 短い一生
私の日常は、何の前触れもなく終わりを告げられた。
まさか、あんな事が起きるとは誰も予想だにしなかった。
結構な時間が費やしてようやく鼓動が安定し、少しだけほっとする。
だが、あの光景を一度思い出せば、再び均衡は崩れる。
そうならないよう、私は記憶の奥深くへと強く押し込んだ。
事を終え、私と父を含め全員が脱出したドームの現状に見入る。
そこは、警察によって厳重に封鎖され武装した警察官達が配置についていた。
もう間もなく始まるのだろう。
緊張が高まった現場の中、私は深く深呼吸し心を整える。
事件発生から1時間後、開始の合図が出され遂に火蓋は切られる。
続々と、根城と化したドームに段取りよく入っていく。
これで、事件は解決すると思えば、少しはらk
「あれ、空が......」
自分の目を疑った。何回か目を開閉を繰り返したが、映し出されたものが変わる事はない。
今日まで色一つ変えずに青色のままだった空が、一瞬にして赤色へと染まる。
その光景に私は言葉を失い唖然とする。
不気味だった。まるで悪夢の世界に囚われたかに思えた。
だが、今いる世界は現実である。信じがたい事だけれども、この現状を受け入れるしかない。
「おい、なんだよ。あれは」
辺り一帯混乱する定か、一人の男が何かに気付き声を大に発し空へと指を差す。
男が差した方角に焦点を合わし、まじまじと観察すると、真っ赤な空に光輝く複数の点が浮かび上がった。
まだ、日は昇っているから星ではない。隕石だろうか。
それらはもの凄いスピードで大きくなり、私の視界を奪う光を放つ。
あまりの眩しさに両手で遮ろうとした直後、あまりにも大きな揺れと凄まじい風が吹き荒れる。
ーーーえっ・・・・・・
二つの異常な発生により対応する暇もなく軽々と宙に浮き飛ばされ、くるくると無重力を体感するかのように回る。
冷や汗を額に流れるも、風によって直ぐさま飛ばされる。
父の手から離したのは大きな間違いであった。
土煙によって辺りを見回せず、瞑ったまま我武者羅に動いても止める事は出来ない。助けを呼ぶ声も暴風の中では無貌な行いであった。
対空時間が長引く程、頭に死が強く浮かび上がり私の生きる意志が薄くなっていく。
それと同じように、抗う行動すらも段々と弱くなっていった。
このまま私は独り悲しく死を迎えてしまうのだろうか。誰にも知らずに、ましてや父からも気付かれる事なく終わるのだろうか。
この思考に至った時、私は完全に動かずただ風の吹かれるままに身を寄せた。
手先や足先からどんどんと冷たくなっていく感じがする。
生への執着を諦めてしまい、身も心も死へと一直線である。
鼓動が小さくなっていき、思考も停止し始める。
――あぁ、短い人生だった。
そう心の中で呟き、私の人生は終わりを告げる。
ただ、最期に目から涙が零れ落ちた。
「おい、ぜってぇ死ぬんじゃねぇぞ」