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09

「そんなことより、聞いたわよ。あなた、そう見えて凄腕(すごうで)の暗殺者なんですって?」

「……!」

「こんな腑抜(ふぬ)けたような馬鹿ヅラなのに、人は見かけによらないっていうのは、本当なのね」

「えっと…… 俺、今なにか聞き間違いをしたみたいなんですが? すみませんがもう一度おっしゃっていただけますか?」

「だから、あなたは有名な暗殺者なんでしょ?」


 何を言っているのだろうか? 一体、俺がなんだって? どこに暗殺者がいるっていうんだ?

 でも、少女はさっきから俺に向かって微笑みかけていて、そして、俺に向かって話しかけているわけで。

 ってことは、少女が言っている暗殺者って……俺?


「いや、いやいやいや!」

「ん?」

「ち、違いますよ! 俺、暗殺者なんかじゃ! 俺はただの酒場の小僧ですよ。そもそも今までだれも人を殺したことなんてありませんよ!」

「あら、そうなの? でも、ミ・ラーイの市長が闇ギルドの中でも一番の凄腕暗殺者の男を捕まえたってお父様に自慢げに報告しに来てたのに」

「違いますよ! だいたい俺なんかが人を殺せるわけないじゃないですか!」

「ヘンね。まあ、いいわ。あなたの言っていることが本当かどうか確かめてみるから」


 その言葉が終わった途端、少女の目が暗く光った気がした。急に俺のまわりの気温が下がったような。

 それと前後して、俺の口と舌がしびれだした。そして、俺の意思とは関係なく言葉をつむぎ始める。


「俺はヒューゴー・グッドウィルです。ミ・ラーイの下町にある酒場『帽子とパイプ亭』で酒場の主人である親父の手伝いをしています。子供のころからの悪友たちと喧嘩ぐらいはしたことがありますし、これまでだれにも喧嘩で負けたことはないです。それに、間違ったことが嫌いな性格なので、これまでだれも人を殺めたことはないし、だれからも盗みをしたこともないです」


 って、なんだ、これ? なんで俺の口が勝手にしゃべっている? 俺の意思とは関係なくなにをペラペラと話しているんだ?


 口を閉ざすすべもないまま驚いている目の前で、少女は軽く首を傾げた。途端に、俺の口は勝手にしゃべるのをやめた。

 少女はどこか不満げに、俺の顔を見つめていた。


「人間が私の魔眼の前で嘘なんかつけるはずないわね。だとすると、本当に違うのか。なんだ、つまんないわね!」

「えっと、今のは一体……」


 戸惑い、困惑している俺に、さらに少女は声をかけてきた。


「いいわ、わかったわ。仕方ないから助けてあげるわ」

「えっ? 今なんとおっしゃいました?」

「だから、牢からでられるように、私がなんとかしてあげるわ」

「ええっ!!!! ほ、本当ですかっ!」

「ええ、もちろんよ。あなたのは冤罪(えんざい)みたいだもの」

「あ、ありがとうございます。ありがとうございます」


 ――た、たすかったぁ~! これで無事にミ・ラーイへ戻れる。アルテナ泣いているだろうな。あんなことになって、すごく悲しんでいるだろうな。でも、待っててくれ! すぐにそばへ駆けつけるから!

 親父やお袋も心配しているだろうな。でも、もうそんな心配もいらない。王女様が助けてくれるから!


 よろこんでペコペコ頭を下げる俺に、少女はにこやかな笑みを投げかけてきていた。ただ、その目はどこか厳しい光をたたえているのだが。

 鷹揚(おうよう)に片手を上げて、俺を制した。


 ――本当に、いい人だ。この王女様は!


「いいわよ。そんな感謝の言葉なんか。でも、そうね。その代わりって言っては何だけど、私の頼みを聞いてくれないかしら?」

「は、はい。もちろんです!」


 ――あなたのためなら、たとえ火の中水の中。


「そ、なら、お願いね。今からそこのドアを出て、廊下を左にすすんで、最初の角を右。突き当りにある大きなドアを開けると寝室になっているわ。でね、その部屋の中央にあるベッドで寝ている男を殺してきてくれないかしら? うふ。ね、簡単なお願いでしょ? ああ、凶器はこのテーブルの上のナイフを使っていいわよ」

「……」

「さあ、とっとと行ってきて、ブスッと刺してきて」

「……な、何を言っているのですか?」

「だから、人を一人ブスッと。簡単でしょ? それともなに、私のお願いを断るっていうの? だとしたら、助けてあげないわよ。あなた、一生、牢屋で過ごすことになるわよ」

「そんなことできるわけないじゃないですか!」

「あら? でも、ちょっとブスッとするだけで、あなたは自由の身になれるのよ?」

「できません!」

「むううう……」


 不満げに頬をふくらますその姿は、とても愛らしく、まさに天使そのものというような様子なのだが、その頼み事というのは、王宮内で人殺しって……


「チョチョイのチョイと王様を殺してくるってだけじゃない。別に難しいことでもなんでもないでしょ?」

「って、あんた、俺に自分の父親の王様を殺させようとしたのか!」

「あ、しまった。口が滑った。てへ」


 悪びれもせず、舌を出す姿はまことに麗しく。そして、とても邪悪で。


「あんた、一体なんなんだ!」

「あら、あなたも知っているじゃない、ヒューゴー。この国の王女ミレッタよ」


 はぁ~





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