表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/71

08

 少女は何事もなかったかのように、カップに口をつける。


 ってことは、あのカップが将来の王女の夫になるのか……


 なんて馬鹿なことを考えつつ、恐怖とともに見守っているしかないわけで。

 けど、今はそんな現実逃避をしている場合なんかじゃなくて。


「あ、あの。質問してもいいでしょうか? お、王女殿下?」

「ええ、いいわよ。許すわ」

「ありがとうございます。あの、その、一体ここはどこですか?」


 少女は花が咲いたように微笑んだ。


「決まっているじゃない。王宮の中よ。王宮内の私の居室」

「王女殿下の?」

「そう」

「ど、どうして……? お、俺、いや、私はコーナン監獄の塔の中の牢に入れられていたのじゃ」

「ええそうよ。あなたの後ろの壁と牢の壁が転移魔法でつながっているのよ。ついさっきあなたはそこから転がりでてきたの」

「……!?」


 慌てて振り返ってみるが、そこには汚れのない真っ白な壁があるばかり。まったくさっきまでいた牢とつながっているようには見えない。

 ためしに腕を伸ばして壁を触ってみると、ズボッと腕が壁の中にめり込んだ。でも、なんの抵抗もなく、腕の先に感じる空気はこの部屋のものと違ってつめたい。牢の中の空気のように。


「どう、納得した?」

「え、ええ…… えええええええ!!!!」

「なによ、いまさら驚かなくてもいいじゃない」

「い、いや、驚きますって! な、なんで王女殿下の居室と牢が転移魔法なんかで……」

「あら、そんなの決まってるじゃない」

「はい?」

「あなたを呼び寄せるためよ」

「お、俺を!?」


 少女は真っ赤な舌で唇をなめた。もう少し年上の妙齢の女性(たとえば、アルテナのような)であったら妖しくセクシャルな雰囲気を(かも)し出す仕草(しぐさ)なんだろうけど、まだ十三の少女。楽しいいたずらを考えている子供のようにしか見えないわけで。


「あら、失礼。唇の端にジャムがついていたものだから」

「はい、でしょうね……」

「ね、今のドギマギした?」

「……」

「ドギマギしたわよね?」

「えっと……」

「ドギマギしたわよね?」


 なんだか、さっき耳元を何かがかすめたときと似た表情で睨まれているのだけど。なんだか、その視線が俺の心臓のあたりを見つめている気がするのだけど。少女の手が新しいナイフをつかんでいるのだけど……


「は、はい。ドキドキしました。ええ、今でもとてもドキドキしています」

「そう、でしょ。うふ。そうよね。そう。うふふ。今度、お兄様にも試してみなくっちゃね」

「は、はあ……?」





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ