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05

 これまでにも何度も味わってきたアルテナの唇。ぷっくりと弾力があって、そして、かすかに甘く……

 そんな余韻(よいん)を味わっていた時だった。


 バタンッ――


 神殿のホールの奥の扉が激しい音を立てて開かれる。


 ザッザッザッ――


 式に参加していた全員が何事かと振り返る中、何人もの衛士たちが武器を構えながらホールの中へ流れ込んできたのだ。


「いたぞ! 捕まえろ!」


 衛士長が指揮棒で差す先は祭壇の前。つまり俺たち。

 驚いて棒立ちになっている人々を乱暴にかき分けて、衛士たちが祭壇前に殺到してくる。

 俺は背後にアルテナをかばいながら前にでる。

 狭い町ミ・ラーイ。親父がやっている酒場の常連でもあり、顔見知りでもある衛士長のサムの前に親父が立ちふさがった。


「これは一体なにごとですか、サム?」


 サムは親父の顔をじろりとにらみ、前に立ちふさがる親父を指揮棒で打ちすえた。


「親父ッ!」

「なにすんだっ! てめぇ!」


 離れた場所にいる俺に代わってサムにとびかかったのは親父の近くにいたハーレンだった。だが、そのハーレンもサムが振り回す指揮棒の餌食(えじき)となっただけ。

 打ちすえられ、親父とともにサムの前で尻もちをついている。

 その間にも衛士たちは祭壇へ殺到してきた。


「こわい……」


 俺の背後でアルテナは震えながらつぶやいているのへ、


「大丈夫だ。きっと何かの間違いだ」


 勇気づけるように声をかけた。


 一体、衛士たちはだれを捕まえようというのだろうか?


 今祭壇にいるのは、俺とアルテナ、そして、司祭。

 もちろん、俺には衛士たちにとらえられるような覚えはない。おそらく背後で震えているアルテナもそうだろう。だとすると……

 俺は気づかれないように司祭から半歩距離を取った。司祭の手が届かない範囲にアルテナの体を誘導した。

 だが、衛士たちが真っ直ぐに向かってきた先は――俺。司祭のいる方向ではなかった。


「俺がなにをしたっていうんだ!」


 驚きの声を上げる中、直後に衛士たちに後ろ手に縛りあげられた。俺はそのまま祭壇ホールの外へ向けて引きずられていった。


「ヒューゴー! ヒューゴー!」


 アルテナの俺を呼ぶ悲痛な叫び声がこだまする中を。




 衛士詰め所まで引きずられるようにして連行され、冷たい牢の中に押し込められた。

 だが、衛士たちからなにか尋問されるわけでもなく、牢に入れられたまま放置。三日もの間、冷えて硬くなった黒パンと薄いスープの食事を運んでくる下級衛士ぐらいしか、顔を合わす相手はいなかった。

 しかも、その下級衛士、つねにブスッとして愛嬌もない。俺が話しかけようとしても、牢の鉄格子を乱暴に蹴り上げるだけで、一言も話そうとしない。

 おかげで全くなんの情報もはいってこなかった。


 あのあと、アルテナはどうなったのだろうか? 結婚式は?

 家族は面会に来てくれたのだろうか? でも、衛士たちに追い返されてしまったのだろうな。

 そもそも、なんで俺はこんなところにとらえられているんだ?


「俺がなにしたっていうんだ!」

「うるさいっ!」


 ガシャンッ――


 下級衛士は鉄格子を蹴り上げて、去っていった。


 なぜなんだ? なぜ俺がこんな目にあっているんだ?


 疑問ばかりが頭の中を駆け巡る。


 牢に入れたなら、事情を確かめるために尋問ぐらいするもんじゃないのか? なぜ、だれも俺を尋問しようとしない? 尋問さえすれば、俺がどんな容疑で逮捕されて、とらえられているか分かるのに。そして、その罪が何であれ冤罪(えんざい)であり、俺が無実であることを釈明できるのに。なのに、なぜ、誰も尋問しようとしない?


 答えのない疑問ばかりで俺の頭の中ははちきれそうになっていた。




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