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 ターレはパンをちぎって口に運び、温めたスープを飲む。

 途端に、目を見張った。


「なんだ、これは? とんでもなくうまい! い、いや、久しぶりにまともな食事だから、とびきりうまいと感じているだけか?」

「お父さん、これとてもおいしいよ!」


 ターレもフロンも夢中になって食べている。気づいたら、二人とも『おいしい、おいしい』と言いながら涙を流している。


「まだ、たっぷりあるから、お腹いっぱいになるまで食べてくれ」

「す、すまない」「おかわり!」

「おう、食え! 食え!」


 お代わりをよそおってやると、むさぼるようにして食べた。と、


 トントン――


 ターレ家のドアが叩かれた。


「はい。ちょっと待っててくれ。今、開ける」


 ターレが立ち上がり、ドアのところへ行く。顔を出すと、知り合いだったようで、なにやら立ち話を始めた。やがて、戻ってくると、神妙な顔で俺に(たず)ねて来る。


「すまない。窓の外から家の中の様子が見えていたようで、俺たちが食事をしているのが近所のやつらに見られちまった」


 視線を窓の方へ向けると、何人もの黒い人影が見えている。


「あいつらも食べるものがないみたいで、その……」


 顔色をうかがってくる。もちろん、笑顔で返してやった。


「ああ、食べ物はたっぷり持ってきた。欲しい奴はみんな連れてこい」

「い、いいのか?」

「かまわん」

「お、恩に着る!」


 そうして、ターレは飛ぶような速さで外へ駆け出していった。

 あっという間に、ターレ家は人であふれかえった。老若男女。それぞれが、自宅から食器を持ち寄り、床に座り込んで、温かい食事を分け合う。

 口々に自分たちが奴隷にされていた間の生活を話し、この場にいない者たちのことを心配しあっていた。もちろん、例のはぐれ勇者のことを話題にしている者たちもいる。

 フロンはそんな人たちの世話をして回り、ターレは隅で何人かの人間たちと話し込んでいる。チラチラと俺の方をうかがっている様子だ。

 と、ターレが二人ほどの仲間を引き連れて、俺のもとへ来た。


「なあ、ロジャー。()いてもいいか?」

「ん? なんだ?」

「あんた何者だ? フロンの話だと、旅の神官だそうだが、なんでこれだけの食料をもっている? それに、魔族の技も使っているみたいだが?」

「フロンにも伝えたが、俺は旅の神官ではない。ある人の依頼でとある相手にちょっとした届け物をしにきただけだ。言ってみれば、ただの配達人だな」


 まあ、もっとも、依頼者も届け先も魔王なのだが。


「食料は? 食料はどこから調達してきた?」

「今日、一日、いろいろあって今日行った届け先で分けてもらってきた」


 うん、本当に、いろいろあった。本当に、いろいろ(・・・・)


「しかし、この食料、どれも最高品質のものばかりじゃないか? 魔王城でしか扱われるのを許されないような」


 ターレの隣に立っている女性が口を挟んでくる。


「君は?」

「奴隷にされるまでは魔王城の厨房で働いていたわ。ブロンティよ」

「ああ、どおりで」

「どうして、あなたがこんな食料を手に入れているの?」


 ターレたちの眼の中の警戒の色が濃くなっている。安心させるようと極力明るい声を出す。


「心配することはない。まさに、その魔王城で分けてもらってきたからな」

「なんですって!」


 悲鳴に近い声を上げるものだから、その場にいた近所の住人たちが一旦食事を中断して、一斉に俺たちの方を見上げた。


「なんでもない、みんな食事をつづけてくれ」

「お、おう」


 ターレのとりなしで、再び食事を始める。ブロンティは声をひそめた。


「どうして、あなたが魔王城から食料を分けてもらえるの?」

「詳しい説明はできないが、ちゃんと合法的な方法で入手したものだから、心配はない」

「で、でも……」

「なあ、もしかして、ロジャー、あんたは今日魔王城にいたってことでいいのか?」


 さっきから黙って俺たちのやり取りを聞いていたターレのもう一人の仲間の男が口を開いた。


「ああ、その通りだ」

「だったら、一体、今日魔王城で何があったんだ? 今日の騒動と俺たちが解放されたことになにか関係があるのか?」

「まあな。で、あんたは?」


 答えたのはブロンティ。


「この人は、私の夫のアーズよ。奴隷にされる前までは、魔王城で魔王様直属の警護隊副隊長を勤めていたのよ」

「ってことは、トドロキの?」

「トドロキを知っているのか? 俺の同僚だった」

「ほお」


 あごに手を当てて少し考える。そうして、


「そっか、三人とも元は魔王城にいたのか。ならいいだろう、詳しいことは奥のフロンの部屋で話そう」


 フロンの部屋へ移動した俺は、早速、三人に今日魔王城で起きた異変について、俺が見聞きしたことを話すことにした。図らずも、俺が巻き込まれたことも。まあ、もっとも、魔王から王位を譲られたことまでは話さなかったが。

 話し終わり、見回すと、三人とも信じられないという様子。


「なんてことだ……」

「魔王様が従魔に……」

「そんなことが……」

「とにかく、いずれ魔王城から公式発表があるだろうから、それまではここだけの秘密にしておいてもらえると助かる」

「「「ああ、了解した」」」





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