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「それはそうと、魔王、聞きたいことがある」

「はい!」

「貴様がかどわかした姫さまはどこにいる?」

「かどわかした姫?」

「アナスタシア様だ!」

「……知らない。誰だ? いや、誰ですか、そのお方は?」

「なに? 貴様、姫をかどわかしておいて、あくまでもシラを切り通すつもりか!」

「ひぃ~~~~!!」


 見かねて、口を挟む。


「たぶん、その魔王は姫様の居場所を知らないと思いますよ」

「なに?」

「その魔王と、姫様を誘拐した魔王とは別人のはずなので」

「そ、そんなはずは……」

「そもそも、あなたはどこの生まれですか?」

「私か? 私の故郷はタマロヘニア王国だ」

「魔王、この国の名は?」

「偉大なる魔王ブレイブサンダーが統治する大カッワ・サキー魔王国と名乗っています!」


 ん? いろいろ突っ込みたいところがあるが、いまはそれより。


「タマロヘニア王国という名に聞き覚えは?」

「ないです! 初めて耳にしました」

「それは嘘ではないな?」

「ウソではございません。そもそも従魔契約を結んでいるので、あなた様自身のご命令でもない限り、あなた様にウソをつくことはできません!」

「だ、そうだ」

「……」


 金色鎧の男、俺と魔王とを交互に見比べていた。だが、結局、


「そうか。わかった。おぬしを信じよう」

「ああ、そうしてくれ」


 金色鎧の男は剣を鞘に戻した。

 その姿を目にし、魔王、その場で床へとへなへなと座り込む。


「た、助かったぁ~」

「とりあえず、もっとまともな国名に変更した方がいいな」

「ああ、俺もそう思った」




 さてと、それじゃあ、始めるか。


「あ、そうだ、アナスタシア姫とかいっていたか。もしかすれば……」


 俺がそうつぶやいた途端、案の(じょう)、金色鎧の男が俺の肩をつかんで迫ってくる。


「おぬし、姫を、姫を知っておるのか?」

「いや、直接は知らないが、もしかして……」

「なにか、なにか手がかりを知っているのか?」


 俺は意味ありげに首をひねりながら、玉座から立ち上がる。何か重大なことを口にしようとでもするかのように振舞いながら、重々しい態度で金色鎧の男に正対した。


「すまぬが、ちょっとジッとしといてもらえるか? それがどうしても必要なことだから」

「わかった。姫の情報が手に入るなら、何時間でもジッとしてよう」

「そんなに時間はかからないさ。すぐに済む」


 そうして、俺は金色の兜に手を伸ばし、口元の留め金を開く。


「なにを?」

「まだジッとしていてくれ。これはどうしても必要なんだ」

「わかった……」


 開いた口元からのぞいているのは、真っ白な下あごの骨だった。おそらく、鎧の下には全身、骨しかないのだろう。そう、金色鎧の男はアンデッドになっているのだから。

 このはぐれ勇者は、魔王にかどわかされた姫を探して、あちこちの世界をさまよったあげく、とうとう見つけられないまま、寿命が付き、その無念の思いがこの勇者をアンデッド化させたのだろうか。

 金色鎧の男から見えないように、瓶を取り出し、開いている兜の口元から中の液体をぶちまける。


「なにを……?」

「大丈夫だ。もう心配いらない」


 液体がかかった場所から白い湯気が立ち上る。下あごを伝い、のどの骨を濡らし、背骨や肋骨(ろっこつ)、骨盤、大(たい)骨――

 鎧の下からもうもうと湯気が立つ。そして、


 カラカラ、カラカラ――


 鎧の中で骨が崩れる音が聞こえてきたのだった。それがはぐれ勇者の最期(さいご)だった。

 金色鎧はそのまま横倒しになった。

 ついに、幾多の世界を荒らしまわった悪名高きはぐれ勇者はその魂が成仏し、天の国へと昇天していったのである。


「なんだ? 何がおこっているんだ?」


 魔王は目の前で起こっていることが把握できず、ただ呆然としている。


「今、勇者はあの世へと旅立ったところだ」

「……!?」

「この者に、神のみ恵みが与えられんことを! この者が探していた姫君の魂と天の国で再会できんことを!」


 俺の祈りの声が謁見の間に静かに広がっていった。





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