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「我が名はヨウラル。タマロヘニア王国の近衛騎士団所属上級騎士にして勇者でもある」

「そっか、俺はロジャー・スミスだ。よろしく」

「うむ。我は卑劣なる魔王によってさらわれたアナスタシア姫をお助けするためにこうして旅をしておる」

「なるほど」

「姫は今頃、魔王城の(ろう)の中で、助けに来る我を信じて気丈に恐怖に耐えていらっしゃるにちがいないっ!」

「な、なるほど!」

「今、助け参らすぞっ! 姫君!」


 ヨウラルは、月のない空に向かって吠えていた。


「たとえ卑怯なる魔王の幻術にかかって、あんなことやこんなことを強いられていたとしても、我は一向にかまいませんぞ! 我はどんな風に姫が開発されていようとも、一()に愛し続ける所存!」

「……」

「いや、むしろ、そのような姫とともに末永く生きていけるならば、本望!」

「……」

「姫ぇーーーー!!!!」


 興奮して叫ぶ姿は、そう、月が地平線から顔を出してきそうな勢いだ。


「うん、うるさいな。すこし黙っててもらえるかな?」


 なんなんだ、この自称勇者は?

 トラウマばかりではない原因で痛くなりそうな頭を抱えつつ、焚火(たきび)であぶった肉串(街道で出くわして、仕留めてきたこの世界の野生動物の肉)を差し出す。


「ほら、いい具合に焼きあがったから、ぜひ食べてみてください。さっきの助けていただいたお礼です」

「これはかたじけない。ただ、我はこの勇者の鎧の効果もあり、食事をとらなくても生きていけるようになっておる。申し訳ないが、お気持ちだけ頂戴(ちょうだい)する」


 断られてしまった。

 そして、早々に毛布にくるまって横になってしまった。


 ってか、横になるときも、その金属鎧も兜も付けたままなのかよ!


 呆れつつ、自分一人だけ肉にかぶりつく。

 うん、案外、ここの野生動物の肉もいける。多少臭みはあるが、それはもっとちゃんとした調理設備があれば、何とかなりそうだ。

 ひとり味わいつつ、どんな調理方法がこの肉に合うだろうかと記憶にある調理の究極指南書の内容をあれこれ思い起こしていた。職業:調理師(レベル63)になった。

 そんなこんなで、焚火にむかって、ひとりで食事をとっていたのだが、


「姫は子供のころからとても可憐で、無邪気で、愛らしいお方であった」


 金色鎧がポツリとつぶやいている。


「幼馴染みだったのですか?」


 思わず、アルテナへ思いが飛んでいくのだが。


「いや、我がちょうど三十のときに、姫はお生まれになった」

「ロリコ――」


 言わない方がいいような言葉がつい口からでそうになる。肉と一緒にグッと飲み込む。


「姫は子供のころから我とともに遊ばれるのが大好きでな」

「へぇ~ そうだったのですかぁ~」


 ついつい返事が平板な感じになるのもいたしかたないだろう。


「とくにかくれんぼはいたくお気に召されていて、長じなされてからも、たびたび我と遊びたがられていた。我がお城へお伺いするたびに、我にせがまられておられた」

「それって……」


 いや、なにも言うまい。この男のこれまでの言動からして、必然でしかないのだろうから。


「一度なぞ、騎士控え室にお隠れになられて、我が見つけるまで騎士見習いの若者を困らせていたものじゃ」

「……」

「かわいそうに、あの騎士見習いの若者、姫様の振舞いにすっかり困惑して、顔を赤らめていたの。なにしろ、若者の前で、着ているお召し物を全部脱がれて、我の目から逃れようと騎士の扮装(ふんそう)をしようとまでなされておられた」

「……」

「魔王め! 絶対に許せん! あのように無邪気で可憐な姫様をかどわかすなどと……!」


 もはやなにも言うまい……


 ――ってか、それって、本当に魔王が誘拐したのかよ?

 ――あんたが姫様を探して旅に出ている間に、騎士見習いのその若者と……


 いや、なにも言うまい。





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