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 ウエスト王国の辺境にあるホロウ遺跡。

 古代文明の巨大遺跡であり、入口が発見されてから日が浅く、まだだれも足を踏み入れたことがない未知の区画がいたるところにある巨大ダンジョンである。

 いくたのモンスターの襲撃をかいくぐり、さまざまなトラップから生きのび、とある二人組の冒険者パーティーがついに最下層へとたどり着いた。


「ここが最下層か」

「ああ、今のところ、ギルドが確認できている最深部だな」

「上とあんまり変わらんな」

「まあ、見た目はな。だが、冒険者ギルドの情報だと、この階層はA級のモンスターが徘徊(はいかい)しているし、かなりやばいトラップもあるって話だ」

「気を引き締めて進まないとだな」

「ああ」


 冒険者たちは、慎重な足取りで廃墟(はいきょ)となっている遺跡内部を進んでいく。途中、何体かモンスターと出くわし、戦闘になったが、なんなく打ち倒せた。


「なあ、モーリス、A級モンスターとか言っていた割に、案外なんとかなりそうだな」

「だな。結構、BやC級のモンスターがいるな。全部が全部A級ってわけじゃないってことか。あ、ロベルト、そこ、落とし穴があるぞ」

「了解」


 冒険者たちは、さらに奥へと進んでいく。

 入ってきたときは、緊張した面持ちをしていたが、最下層にも慣れてきたのかしだいに軽口も飛び出すようになってきた。


「このあたりで、一度休憩しよう」

「ああ、了解」

「しかし、A級モンスターとやらはどこへ行ったんだ?」

「全然、遭遇(そうぐう)しないな。BやC級ばっかりじゃねぇか」

「みんなで昼寝中とか?」

「ははは、かもな。可能性はあるかもな。まあ、もちろん、ギルドの情報が間違ってたってこともあるかもしれんが」

「それはない」

「だよな。あははは」

「あははは」


 薄暗い通路に笑い声が響く。それが不気味な反響となって冒険者たちの耳に戻ってくる。一瞬、警戒を強めるが、襲撃もなく、すぐに緊張をほどく。

 モーリスはロベルトに水筒を渡した。


「ギルドっていったら、最近噂になっているのを聞いているか?」

「噂? どんな噂だ」

「ピクシーナイトとかいうヤツのことさ」

「ピクシーナイト? なんだそりゃ? 知らんな」

「そっか」

「モンスターか?」

「いや、冒険者らしい」

「ほう」

「なんでも、最近、近辺のダンジョンの深層に頻繁(ひんぱん)に出没しているんだとさ」

「そいつ、強いのか?」

「それがよくわからないんだ。深層に出入りしているのだから、それなりに強いのは間違いないのだろうが……」

「ん? どういうことだ?」


 疑問顔のモーリスにロベルトがギルドで耳にした話を始めた。


「ヘイローじいさん覚えているか?」

「ヘイロー? ……ああ、ドワーフの自称王族の。何度かギルドで見かけたことがある」

舞勇斬(ダンシングブレイブ)のキング・ヘイロー。あのじいさんのパーティーが、こないだ、西のレジーナ洞窟の奥で出会ったらしい」

「ほう、それで」

「出会った当初、そいつはダンジョンの入口で転移罠にひっかかって、奥へ飛ばされた間抜けなノービス野郎って雰囲気だったらしい。実際、見つけたときにじいさんと一緒に行動している魔法使いがこっそりレベル鑑定を試みたら、本当にレベル1のノービスだったんだと」


 世界に散らばる各ダンジョンにはトラップが仕掛けられているものがある。そして、その中でも転移罠はその極悪さで最たるものだろう。

 トラップにかかった冒険者たちを強制的にダンジョンの奥の方へ転移させるのだから。

 ダンジョンの入り口付近で探索する駆けだし冒険者(ノービス)たちにとっては、生死にかかわるトラップなのだ。だから、罠解除の能力をもつ冒険者たちは見つけしだい解除しなければいけないというのが冒険者ギルドの決まりになっている。

 だが、上級冒険者たちにすれば、奥までショートカットできる便利な近道でもある。だから、わざわざ解除しておいた罠を再起動させておく不届き者がでたりするのだ。そのため、不運にも転移罠にひっかかって、ダンジョンの奥へ飛ばされるノービスたちがでてしまう。

 上級冒険者たちには、そんなダンジョン奥に現れたノービスたちを保護することが推奨(すいしょう)され、ギルドからは人命救助としての特別報奨が支給される。


「だから、じいさんもそのノービスを保護したんだが」

「うむ。それで?」

「剣の振り方も知らないようなノービス野郎だ。じいさんが戦斧を簡単に振り回しているのを眼にして、自分でも楽に扱える得物(えもの)だと興味をもったんだろうな。じいさんに戦斧の扱い方を教えてくれと言ってきたんだと」

「じゃあ、じいさん戦斧の扱い方を教えたんだ」

「いや、そのときは、じいさん、ノービスでは怪我するのが関の山だから、やめとけと(さと)したらしい」

「ああ、戦斧はな。あんな重くてごっついもの、俺でも扱いきれん」

「あんなもん、ドワーフ並みの体力がある奴しか無理だな」

「だな」


 ロベルトは苦笑をうかべた後、水筒の水を一口飲んだ。


「それでも、じいさん、予備に持っていた戦斧をそのノービスに持たせたんだと。初めてじゃとても扱えるものじゃないと(さと)ってあきらめるだろうと思ったんだろうな。水筒サンキュー」

「おう」


 モールスも一口飲み、バックパックにしまった。




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