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というわけで、とぼとぼと牢へもどる。
ベッドの傍らに『刺繍入門』と昨日のやりかけの刺繍が転がっているが、それを手に取る気力もなかった。俺はそのままベッドに横になり、目をつむった。
昼前に目が覚めたが、もちろん、俺の能力値は朝見たものと同じで、これが夢だったなんてこともなく。
「く、くそっ!」
体の中からあふれて来る衝動にかられて、後先考えず、むちゃくちゃに暴れたくなる。実際、手近にあった卵を手に取って、振り上げるところまでした。でも、それを壁にたたきつけて壊したところで今の状況がどうなるってわけでもない。そう認識した途端、すっと頭に上っていた血が引いて行く。
ふと見ると、卵からは光があふれ出し、その中に俺の能力値が表示されていた。
どれも二十台に達している数値。昨日あのバカの部屋で一番最初に確認した十台ばかりの数値ではなく、どれも寝る前に視た数値。
「……」
これって……?
確かめるために、もう一度『刺繍入門』を手に取り、針と布切れを手に、刺繍を始めた。
昨日とまったく同じ作業。同じ工程。だが、昨日はつっかえつっかえで時間をかけてクリアした作業が、今回はスムーズにすすむ。指は憶えていないが、記憶はある。記憶を頼りに作業を進めると、驚くほど短時間で、昨日到達したところまで進んだ。
さらにチェーンステッチを習得し、いくつか他のステッチを学んだところで、日が暮れた。
寝る前に卵で俺の能力を確認してみると、レベル15、お針子見習い(レベル7)、各能力値はどれも三十を超えている。
そして、次の日。
もちろん呪いが発動しており、やはりレベル1、囚人(レベル1)、スキル欄は空欄。だけど、能力値は――すべて三十越え。寝る前の数値。
――やっぱり!
それからは毎日夢中で針をチクチク刺し続けた。
もちろん、毎日、一からの学び直しの日々。だけど、日に日に上達速度が増していく。その日の終わりまでに到達するレベルが高まっていく。そして、俺の能力値も急上昇していく。
知力が上昇したおかげか、五日もそんなことを繰り返してしいれば『刺繍入門』の内容をすべて暗記した。
朝起きて、石造りのベッドから起き上がる前に頭の中で最初からざっと暗唱し、それに合わせて指の動きをイメージするだけで、記載されているすべてのスキルを身につけられるようになっていた。
そして、俺の全能力値は100を大きく超えていた。
「どう? 満足した?」
「くっ、おバカ魔王のくせに……」
「あら? あの呪いを解除してほしいのかしら?」
「くっ……」
「ふふふ。もうあれなしじゃ満足できない体になってしまったのね。うふふふ」
「呪いの話だよな? わざわざ気持ち悪い言い方をするなよ!」
「でも、そうなんでしょ?」
「くぅ~~~~ こ、殺せ!」
「あはぁ~ん あはははは」
てか、そろそろ『刺繍入門』以上の教本が欲しいところなんだが……
のんきにそんなバカな会話をする日々がつづいていた。のだが、そんな日々は唐突に終わったのだった。




