14
なんだか釈然としない日々が続いた。
さらにいくつか季節がながれ、冬も近づいたある日のこと。
いつものように、おバカのクーデター計画をけちょんけちょんにつぶし終わった後だ。涙目のおバカ魔王を残し、牢へ戻ろうと歩き始めたら、
「あ、ちょっと待ちなさい。今日は寝る前にこれを飲みなさい」
「これは?」
「私が調合した薬よ。牢の中って夜は寒いでしょ? 眠れないでしょ。でも、これを飲めば、朝までぐっすりよく眠れるわよ」
たしかに、おバカ魔王の言う通り、最近の牢の中は夜間にまともに寝ていられないほど寒い。
「ああ、ありがとう。助かる」
「どういたしまして」
そうして、ニッコリと天使の笑みを浮かべたのだ。
次の朝、俺は目が覚めたのだが、なぜだか体がこわばっている。
まるで寝返りを打つことなく長時間同じ姿勢で眠っていたような。そんな感覚だ。それに体の節々が痛い。
「寝すぎたかな? だが、窓から差し込む太陽の光はいつもの起床時間よりもすこし早めみたいだが?」
俺は首の後ろを手で抑えながら、首をコキコキ鳴らした。途端に、腹の虫が盛大に鳴った。
グゥーーーー!
牢の壁に音が反響して、うるさいぐらい。猛烈に腹が空いていた。
しばらく待っていると、いつもの時間に朝食の配膳がはじまる。
鉄の扉にある食器用の出し入れ口に黒パンとうすいスープのはいった皿が並べられた。
配膳しているのは、背の曲がった老人で、いつもなら扉越しに俺が話しかけても一切返事をしてこない。
だが――
「生きとったのか。中でくたばっちまったのかと心配したぞ」
最初、その低くくぐもった声がどこから聞こえてくるのかわからなかった。そして、誰の声かも。
でも、すぐにそれが扉の向こうの配膳の老人の声だと気が付いた時、俺は、自分の耳が信じられなかった。
「じいさん、しゃべれたのか? 耳が聞こえないのか、話せないのかだと思っていた」
「ふん。わしゃ、年のわりに耳はいいし、口も回るぞ」
「そうだったのか」
「おぬし、大丈夫じゃったのか? この三日、ロクに食べておらんかったが?」
「三日?」
「そうじゃ」
老人の話では、三日間、俺の牢へ朝晩の食事を届けにきても、前に届けたまま取り出し口に食器が置きっぱなしになっていたし、食事に手をつけた形跡もなかったという。
「わしでは中を確認なんてできんし、看守に相談しても、この牢は捨て置けというばかりじゃったしな。そんな扱いを受けるとは、おぬし、シャバで一体どんな悪さをしたんじゃ?」
「いや、なにも」
「かなり若いんじゃろ? 入るときにチラッと見かけたが。なのにこんな極悪人しかいれられない監獄へ収容されるなんてな」
「さ、さぁ……」
「若いうちから悪さばかりしてると、ロクな死に方をしないぞ。ま、言うまでもないがな。さて、おぬしにはどうでもいい話じゃったな」
そうして、老人は話を切り上げて扉の前から去っていった。
しかし、三日間俺は何も食べていない? なに言ってんだ? 俺は昨日牢の中で夕食をとって、それから眠って、しばらく前に起きたところだ。そんなわけないだろう?
けど、今日はやけに腹が減るな。さっきから腹がグーグー鳴りっぱなしだ。まるで、本当に三日間何も食べていなかったみたいだ。
グゥ~~~~ グゥ~~~~
腹減った……