12
あれから数か月が経った。
今も俺はコーナン監獄の牢の中で寝起きしている。
だが、あのおバカ魔王に王女や聖女としての公務がないときには王女の居室へ呼び出されていた。そして、おバカ魔王が無い知恵をしぼって考え出したユリウス王子擁立計画を全力で叩きつぶす日々を送っていた。
つうか、なんでいつも大勢の死人がでそうな血なまぐさい計画ばかり考え出すんだ、このおバカは?
はぁ~
そんなにユリウス王子を血に染まった国王にしたいのだろうか?
「あら、全身返り血にまみれたユリウス兄さまって素敵じゃない! それに闇おちしたお兄様を私が優しく抱きしめて慰めてあげるなんて、背徳感があってゾクゾクするわ。ぐへへへへ」
危ない顔してそうのたまうわけで。
「いや、抱きしめたら大爆発起こすだろ!」
「おのれ、神とかいう名のイカれ頭め! ぐぬぬぬ……」
まあ、いつもこんな調子。
いつか天罰くだるぞ!
とはいえ、おバカ魔王はさすがに王族なだけあって、毎日なにかしら公務があって忙しいようで、俺が呼び出されるのは、さほど多いってわけでもない。
かといって、呼び出しのない日には俺自身牢の中でヒマだったわけでもない。俺の方にも大事な仕事があったのだ。
そう、俺がこんなところへ入れられた理由を探るって仕事だ。
だが、俺が収監された理由を探るには、どうしてもミ・ラーイへ行って調査しなければならない。転移魔法のおかげで王宮内へ移動できるようにはなったとはいえ、俺自身が牢を抜け出し、ミ・ラーイへ出向いていって、逮捕の経緯を調べるなんて、さすがにできない。だれか他者を使って調査をゆだねることしかできないのだ。
幸い、あのおバカは結構チョロいところがあって、ユリウス王子を国王にするには必要だとかなんとか、適当な口実で口車に乗せれば、簡単に配下の魔族を借りることができた。
「ああ、疲れた。疲れた。あんな遠い町まで行って、魔王様の命令とはいえ、あんたなんかのために調べものをするなんて。ああ、本当、疲れた。だれか私の肩をもんでくれないかしら?」
牢の床に座り込んで、ミ・ラーイのあちこちからこっそりかき集めてきた資料を読み込んでいたら、そばの石造りの寝台に腰掛けて、俺の背中を盛んに蹴ってくる魔族の女がいるわけで。
「ああ、疲れた。ああ、疲れたなぁ~ こんなに働いてやっているのに、気の利かない男がいるのよねぇ。ああ、もう頼まれても探し物しないでおこうかなぁ~ ああ、疲れたなぁ~」
「だぁ~! わかったよ。肩もめばいいんだろ、肩」
「おっきいのあると、こっちゃうのよねぇ~」
「おっきいの?」
うん、たしかに大きい。
以前、アルテナの友人が肩がこるという話をしていて、人を殺しちゃいそうなすごい目でアルテナがその友人を睨んでいるところを目撃したことがあったな。
アルテナも結構あった方だと思うのだが?
そんなことを思いだしたり。
――今、アルテナどうしているかな? 会いたいな……
「ちょ、ちょっとどこ見てるのよ。バカ!」
「えっ? あ、わりぃ。つい」
「変態! こっちのことじゃないわよぉ~ こっち。角の方よぉ~」
「角?」
「他の魔族よりも角が大きいから首や肩がコるのよぉ~」
「いや、今のわざとだろ?」
「あら、そういえば、ふくらはぎもなんか張ってるような気がするなぁ~ 歩き回ったしなぁ~」
「背中のコウモリの羽で飛び回ってるくせに……」
「なんか言ったぁ 聞こえないなぁ もう探し物頼まれても協力しないかもなぁ」
「ったく! 分かったよ。ほら、サヌ、マッサージすりゃいいんだろ! さっさとそこに寝て」
「マッサージすりゃ? するんだぁ~? させてもらうんじゃないんだぁ~?」
「マッサージさせていただきます。よころんで、マッサージさせていただきます」
「こんなピチピチの若い女の子の肌に触れたいんだぁ~ ぷぷぷ 変態さんだぁ~」
「どこに若い女がいるっていうんだよ。何百年も生きてる婆さんじゃないか……」
「なにか言ったのかなぁ~ 聞こえなかったなぁ~ こんなに疲れるなら、二度とあんな遠い町までいかないなぁ~」
「くっ そのスベスベでピチピチの肌にすこしでも触れさせていただけたら、俺、感激で涙がとまらないです。ぜひ、触らせてください。お願いします」
「きもっ!」
「言ってて、俺も思った……」
「あはははは」
「たははは……」
「仕方ないから私に触らせてあげるわ。ありがたく思いなさい」
「ははぁ~」
というわけで、毎日、血の涙を流しながら、あのおバカの配下の魔族・サヌにマッサージをするのに忙しかった。もっと資料を読み込む時間をくれぇ!
「あ、なんか腰も痛いなぁ~」
「よ、喜んでっ!」




