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「まあ、どうしてもって嫌だって言うなら、あなたの精神を乗っ取っちゃえばいいんだけどね。さっきみたいに」

「……」


 さっきの暗殺話、冗談ってわけではないようだ。残念なことに……


「そ、それは、こ、困る」

「あ、いいのよ。そんなに気にしなくても、人を殺すのが負担だっていうなら、体をちょっと借りるだけで、心は眠らせておいてあげるから」

「そんな問題じゃない!」

「えー」


 今見せている不満顔がちょっとかわいいとは思う。うん、さすがくちづけ姫。でも、正体は魔王なんだよなぁ~


「それよりも、なんで国王様を暗殺したいんですか? それをまず聞かせてください」

「あら? 聞きたい? 聞きたいのかしら? うふふふ ねぇ、聞きたい?」

「なんかうざい……」

「何か言った?」

「あ、はいはい、聞きたいです。ぜひお聞かせください、ミレッタ殿下」


 ったく。


「うふふ。あなたの家もロイヤルファミリーの肖像画とか飾っていたりするんでしょう?」


 まあ、ウエスト王国の各家庭では大抵その通りなので、うなずいておく。だって、家の奥の壁に肖像画を(かか)げておけば税金がいくらか安くなるのだから。


「なら、ユリウス兄さまと今の国王を見比べてみてどう思う? 断然、ユリウス兄さまの方が素敵だって思うでしょ? 何百倍も格好いいわよね? ねっ?」

「……」

「あんなむさくるしいひげもじゃハゲの肥満親父なんかより、スマートでハンサムでおまけに洗礼式の神託(しんたく)で勇者であることが宣言されているお兄様の方が王冠が似合うってものよね」


 俺がどう思っているかの回答は差し控える。ともあれ、


「ほら、お兄様の方が国王にふさわしいじゃない。今の国王にはとっととあの世に旅立ってもらって、お兄様が新国王になるべきだわ。その方が国民も大喜びよ」


 大した理由じゃなかった。


「だからって、王様を暗殺しようとするな!」




「大体、今の王様を暗殺したところで、王太子はヘンリー王子じゃないか。第二王子のユリウス殿下が王位を()げるわけじゃないだろ」

「あら、そのために、身元のしれない暗殺者が役に立つのじゃない。お父様を暗殺した後に、ユリウス兄さまがその暗殺者を自らとらえて、拷問(ごうもん)なんかして自白させればいいのだもの『ごめんなさい、正直にお話しします。おバカのヘンリーの命令でやりました』てね」

外道(げどう)な」

「それでヘンリーなんて破滅するし、王位はユリウス兄さまのもとへころがりこんでくるわ。どう? ねぇ? 私って賢いでしょ?」

「どこがですか? バカなんですか? 魔王って、バカでも務まるんですか?」

「ちょ、ちょっとそれどういう意味よ!」

「大体、そんな得体の知れない暗殺者がなにか証言したところで、誰が納得するっていうんですか? 特に、王太子殿下を支持している大半の大貴族たちがそんなことで納得するわけないじゃないですか!」

「国王を手にかけた犯人が自白するのよ。これ以上の証拠がどこにあるっていうのよ」

「じゃ、その自白が正しいという証拠は?」

「そ、それは……適当にこちらで用意しておいて……」

「いい加減すぎます!」

「で、でも――」

「そんなずさんな計画で王様を暗殺したりなんかしたら、ユリウス王子は王位につけるどころか、むしろ自分の父親でもある国王を殺し、兄の王太子を罠にかけようとした弑逆(しいぎゃく)者として処罰されるのが目に見えてますよ。バカげています!」


 ってか、これじゃあ、俺がこのおバカ魔王の片棒を(かつ)ごうとしているみたいだな。でも、そうでもしないと、俺が暗殺者に仕立てられた挙句、おそらくそのまま犯人として処刑されてしまうのだろう。バカバカしいことに。

 俺は必死の思いをこめて、おバカ魔王を見つめた。


 ――なんとか思いとどまってくれ!


「むぅ~ でも、そんなことになったら、ユリウス兄さまを支持する人たちが蜂起(ほうき)して――」

「対抗して、王太子派だって立ち上がりますよ。そして、おそらく、大半の国軍も王太子側につきます」

「それなら、私の配下の魔族たちをつかって」

「バカですか? 大馬鹿なんですか? 魔族が出てきたら、それだけで問答無用にユリウスさまは全人類への反逆者になっちゃいますよ」

「……お兄様は勇者なのよ?」

「それでもです」

「むぅ~」


 まだ不満顔だけど、俺の必死の説得には不承不承うなずいた。


 ――ふぅ~ なんとかバカげたことに巻き込まれずに済みそうだ。


「なにか他の手を考えなくちゃね」

「ええ、そうしてください。できれば、だれも死人がでないような穏便な方法でお願いします」


 特に俺が迷惑を受けないような方法を!


「わかったわ。とりあえず、あなたの言う通りにするわ。その代わり、しばらく私のそばにいなさい。いいわね」

「さっきも言った通り、俺、無実なので、元いた町へもどりたいのですが?」

「うふふ」


 魔王が実に魔王らしい笑みを浮かべて、俺に微笑みかけてきた。


「あら? なんのことかしら。ミ・ラーイで一番の凄腕(すごうで)暗殺者さん」


 俺の解放はまだまだ先の話のようだ。




明日から二章へ入りますが、(予約)投稿時間を13時から18時の間に変更します。

どの時間がよさそうか、いろいろ試してみます。

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