第3話 聖女スキルの発現
俺は生後から半年が経過した。
朝は日の出と共に目を覚ます。野生の生き物も皆そうしている。生物としては至極合理的な生き方である。
朝起きるとまずはストレッチだ。両手の掌を開いて、閉じて。開いて、閉じて。この動作を三十クール。
その後は素早く寝返りを打つ練習に入る。左に寝返りをしたら、すぐに右に寝返りを打つ。その後はすぐに左に寝返りを打つ。これを三十往復。
赤ん坊ゆえか、それぞれ二~三セット繰り返すだけで体力をとても消費してしまう。眠たくなったら眠り、お腹が空いたらおっぱいを飲む。母親を呼ぶ時に泣き叫ぶのはカロリーの無駄だ。最小の労力で済ませる為に、ベッドの柵をガンガン蹴る。
この鍛練を繰り返しているせいか、最近は握力が強くなった気がする。寝返りを打つのもとても早くなった。恐らく、今の俺は世界最強の赤ん坊なのではないかと思う。
魔法の練習も欠かさない。両親や来客の会話から察するに、この世界には魔法とスキルという概念がある。
魔法は才能のある者しか使えない。才能があるのはざっと、千人に一人の確率らしい。魔法はイメージ力と正比例して威力が強くなるらしく、俺はイメージトレーニングを続けている。
スキルは魔法の才能がある者ならば、誰でも一つは持っている特技のようなものだ。戦闘や魔法関連のスキルは実用性が高い為、重宝される。
聖女はスキルの一種であるらしく、一世代に一人しか現れないスキルとのことだ。なんでも、この世界の宗教であるシュトリーナ教の女神から力を借りることで、様々な奇跡を起こすスキルとのことだが……。
女神と言えば、あのクソ女神(仮)のことを思い出すだけで、怒りが込み上げてくる。まるで炎のように、燃え盛る怒りが!
って、あれ? ベッドが本当に燃えているぞ! しかも不思議と俺は熱さを感じない。しかし、次第に火は燃え広がっている。
慌ててベッドの柵をガンガン蹴っていると母親が駆けつけてきた。
「きゃあー! リカーレちゃん、大丈夫だべか? 火事だべ、火事だべ~」
母親が水をかけるが、何故か火は一向に消える気配を見せない。もしかして、俺のスキルが出した炎なのだろうか? 試しに炎を消えるように念じてみよう。
するとたちまち、炎は消えてしまった。母親はあっけに取られている。遅れて駆けつけた父親も、事態が飲み込めていないようだ。
「かあちゃん、どうしたんか!?」
「とうちゃん、大丈夫たい。ベッドに火がついたと思ったら、いつの間にか消えてしまってなぁ。それにしてもこの子は不思議な子じゃけん。産まれた後は全く泣いたことがないしなあ」
「そうさな、かあちゃん。おっぱいが欲しい時も、無表情でひたすらベッドの柵を蹴るだけやもんなあ」
「何か、不思議な力を授かった子かもしれん。この子が産まれたその日に、王宮の聖女様が亡くなられたけん、もしかすると……」
「そんなこと、ないない! 聖女は貴族の娘にしか産まれんけんね」
ーーーーーー
俺は一つの結論に達した。
俺が授かったスキルは、聖女の可能性が高い。
クソ女神(仮)のことを思い出しながら炎をイメージすると、黄金に輝く火が生まれる。また、身体が癒えるイメージを浮かべると、疲労が消えていくのだ。女神(仮)の力により起こった奇跡、ということなのだろう。
まあ、あの女から力を借りるというのは何だか腹立たしいので、無理やり魔力をひったくるイメージを浮かべているが。
同様のイメージで、宙に浮かんだりすることも出来るようになった。股を光らせることなど、いとも容易いことだ。成長した暁には聖女スキルの持ち主であることを示す証拠にもなるだろう。
それにしてもあの女神(仮)は性悪だ。自分自身にすがらせるようなスキルを授けやがって……。
しかし、この聖女スキルはなかなかに便利でもある。修練の結果、俺はピンポイントで物を燃やすことが出来るようになった。
家に入りこんで来た虫などは、俺の炎で抹殺している。また、燃やしたくないものは選別出来るので、家が火事になることもない。『聖炎』と名付けよう。
なぜ聖女スキルが俺に授かったのかは不明だが、 どうせあの女神(仮)が絡んでいるのだろう。余計なことは考えず、俺は『聖炎』の練習に没頭する日々を重ねた。
この時の俺は知る由も無かったが、魔法は若い頃に反復して使えば使う程、威力や精度が増すのである。
十歳になる頃には、俺はこの村では誰よりも強くなっていた。もちろん、それを知る村人はおらず、ただ神のみぞ知る、といったところである。
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