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第2話 聖女の死

 シュトリーナ教国宮殿。


 壮麗という言葉が似合う白亜の宮殿とは不釣り合いな、重苦しく淀んだ空気が立ち込めている。


 シュトリーナ教国は、宗教国家である。100%の国民が国教であるシュトリーナ教の信者だ。三百年前に実在した英雄、エリアスティーゼを主神とするシュトリーナ教は、100巻に渡る「神聖教典」が教えの基となっている。


 シュトリーナ教国の国民は、この神聖教典に基づいて、戒律を犯さぬように暮らしているのだ。


 シュトリーナ教国の執務室に居並ぶ教主と、司祭達。その表情は一様に重い。


 執務室の壁は黄金で作られており、神聖教典の文章が隙間無く刻まれている。燦然と輝く黄金が、教主達の暗い表情を容赦なく照らす。


 執務室のドアが勢い良く開いたかと思うと、司祭の一人が駆け込んで来た。


「聖女様が! 聖女様が……亡くなられました!」


 半世紀に渡りシュトリーナ教国を支えた聖女が、亡くなった。毎日数百人の貧しい民に会い、聖女スキルの特性で怪我や病を治してきた。


 主神エリアスティーゼの力を十二分に取り次ぐことの出来る聖女は、シュトリーナ教国にとっての象徴でもある。


「すぐに、妊婦達を調べるのだ!」


 大広間にはベッドが無数に並べられている。その全てに、妊婦が横たわっていた。


 聖女スキルを持った者が現れるのは、一つの世代にたった一人のみ。聖女が亡くなった直後に、聖女スキルを持つ者が新たに産まれるのである。


 そして、この三百年は一人の例外も無く、聖女は貴族の娘として産まれてきていた。聖女スキルは絶大な効果を持つが故に、政治的な利用価値も大変高い。


 なので、忠誠心を叩き込む教育を行う為に、赤ん坊の時から宮殿で育てるわけである。聖女が亡くなりそうなタイミングで、王国中の身籠っている貴族の娘を集めているのであった。


 司祭が妊婦を一人ひとり調べていく。しかし、数百人いる妊婦の中で、産気づいている者は一人もいない。


「教主、聖女スキルを持った赤ん坊は産まれていないようです!」


「そんな訳があるか! 聖女スキルの持ち主は、産まれた直後から金色に光り輝くという。見落とすはずがないではないか!」


「むしろ、赤ん坊を産んだ者が、一人もいないのです」


「そんなバカな! もっと時間をかけて見張るのだ! 聖女がいなければ、国益に関わるのだぞ!」


 しかし、丸一日が経っても、聖女スキルを持った赤ん坊が産まれた気配はなかった。


ーーーーーー


 結論、あのクソ女神(仮)は俺の主張を何一つ聞いてくれなかった。


 俺は辺境にある農家に産まれた。財産も地位も教育も望めそうにない。こんな環境で育って、救える世界なんてあるのだろうか。


 まあ救いだったのは、俺が産まれてきたことで、両親がとても喜んでくれたことだ。


「かあちゃん、よくぞお産を頑張ったっぺ! オラは感動したっぺ!」


「とうちゃんのお陰だど。こげな可愛い子が産まれてからに~」


 ちなみに、俺の名前はリカーレとなった。今は農家だが数世代前は貴族だったそうで、姓はシュトライフェルツというらしい。リカーレ・シュトライフェルツが俺のフルネームになる。


「それにしても、かあちゃんは凄いっぺ! リカーレが産まれてくる時に、股ぐらがピカーっと光ったんだべ! かあちゃんは、もしかしたら魔法が使える聖女様かもしれねえべ」


「やだなあ、とうちゃん。オラはとうちゃんだけの聖女でいたいっぺ(照)」


「そっかぁ! それじゃ、今夜もかあちゃんにオラだけの魔法をかけるっぺ。かあちゃんだけを、メロメロにする魔法だっぺ」


 ぐへへへと笑い合いながら、二人は寝室へと消えていった。仲がよいのは良いことだ。


 それにしても、意識は大人のままだが、身体が赤ん坊になってしまっているから歩けないし喋れない。言葉にしようと思っても、「あーあー」しか言えない。何とも不自由な身体になってしまったものだ。


 しかし、ここは落ち着こう。今の状況を整理して、やるべきことを合理的に考えることにする。


 両親の会話から解ったことは三つある。


 一つ。使っている言葉からして、ここは大変な田舎だと思われる。高等教育を受けられる環境ではないだろう。調度品を見ても、貧しさが伺い知れる。


 二つ。この世界には魔法が存在するようだ。練習次第で俺も使えるようになれるといいのだが。


 三つ。聖女という概念もあるらしい。スキルの一種だろうか。両親の会話からすると、生まれ持った才能のようだ。父親の言葉を信じるとすれば、聖女は皆、股が光るのだろうか?


 ともあれ、俺が実際に生まれ変わったところをみると、女神(仮)の力も少しは信じざるを得ない。


 とりあえず、一刻も早く喋れるように、発話の練習をしよう。歩く練習も始めなくては。世界を救うかどうかは、成長しながらゆっくり考えるとするか。


 まだ歩けないので、ひたすら寝返りを繰り返す練習をする。左に寝返りを打ったら、すぐに右に寝返りを打つ。これを、出来るだけ早いスピードで行うのだ。


 少しでも筋肉が鍛えられるよう、ひたすら鍛練に励むのみ。このペースで鍛練を続けていけば、成人した暁には最強の勇者となり、感動した王様から、絶世の美女である姫と結婚するように勧められたりなんかして……。


 俺はニヤリと口元を緩めた。赤ん坊らしからぬ、いやらしい笑みである。


 おっと、お腹が空いてきたな。母親を呼ぶとしよう。


「あー、あー」


 相変わらず、上手く言葉に出せない。両親は営みの最中のせいか、全く気づかない様子である。仕方ないので、ベッドの柵をガンガン蹴ることにした。


「どうしたっぺ? リカーレちゃん? お腹空いたっぺ?」


 乱れた衣服を整えながら、乳房を与えてくれた。ゴクゴク。うむ。悪くない味である。


「美味しいかい? リカーレ?」


「あうー、あうー」


「とうちゃん、まだリカーレは喋れないべ」


「それもそうだな、かあちゃん。いやーそれにしてもリカーレはめんこいな。将来はかあちゃんに負けないくらいの美人になりそうだがや」


 ん、美人だと?


「そうだなあ。睫毛も長いし、肌も白くてツヤツヤだあ」


 ちょっと待て。俺は男だぞ……もしや、あのクソ女神(仮)、俺の性別を変えて転生させやがったのか?


 女神(仮)への怒りが沸々と燃え上がる。俺は自然と口を開いていた。


「く、そ、め、が、み……」


「とうちゃん、リカーレが喋ったっぺ~!?」


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