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  作者: ぁぃ(。・Д・。)ノ
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6話 『オタ活は、言わば戦なり』

「今日は何買おうかなぁ」


「どうしようかな…」


渚は思案げに顎に手を当てて、何を買おうか考え込んでいた。その表情は心中を表しており、渚はニヤつきを隠せないでいた。それは紗月も同じだったようで、表情には出ていないが、目が光り輝いているのがわかる。


現在渚たちがいるのは、ラジオ会館四階にある『あみあみ』と言われる店だ。

この店はとても重宝しており、かなりコアな作品のグッズまでも取り揃えられているので、オタ活には欠かせない店舗となっている。


視界に広がる光景は黄金に等しい宝の山だ。アクリスタンド、キーホルダー、缶バッチ、フィギュアなどの、様々なグッズが並べられており、何を買うのか悩みに悩んでしまう。


「ほんと何買おう…」


願望としては、店の商品を全て我が物にしたいのだが、軍資金は限られている。

現在の渚の所持金は、先日下ろしてきた諭吉十枚と、英世三枚だ。この少なすぎる軍資金の中で、何とかやりくりしなければならない。

買えるものが限られてくるのは、オタクである渚にとって非常に痛手だ。

ならば───、


「いっそ、強盗か万引きでもするか」


「やめろ」


危ない発想に至った渚を、紗月は即座に静止させる。そのおかげで、何とか渚は犯罪に手を染めずにすんだ。


「こんなのお金がいくらあっても足りないよ…」


「渚は今日いくら持ってきたの?」


「十万ちょっとぐらいかな」


「そんな持ってきてるの!?」


気安く十万円と発言する渚に、紗月は目を見開かせて驚愕する。十万円は大金だ。それも、金欠しかいない大学生にとっては、尚更大金になる。


「そんな紗月は今日いくら持ってきたの?」


渚の所持金に驚きを隠せない様子の紗月に、渚は幾らお金を持ってきているのかを問うと、


「私も十万円持ってきた」


「同じじゃねぇかよ!?」


渚が十万円持っていることに驚愕していたので、紗月は嘸かし軍資金が少ないのだろうと思っていたが、全く同じであった。


「よくそんなお金持ってるね。仕送り?それともバイト?」


「仕送りは貰ってるけど…大体家賃とか生活費で殆ど消えるかな?だから、趣味に使うお金はバイトで稼いでる」


「へぇー、そうなんだ。紗月って何のバイトしてるの?」


「本屋でバイトしてるよ」


「本屋…?」


本屋という部分が引っかかり、渚は小首を傾げた。

接客業となれば、必ずしも人と接しなければならないはずだ。紗月は陰気な性格であるため、人と接するのが非常に苦手であり、接客業などとは無縁だと思っていた。

紗月は人と接するのが苦手なのに、なぜ接客業などをしているのか。訊いてみることにした。


「なんで紗月は本屋で働いてるの?本屋って接客業じゃないの?」


「一応接客業だけどさ…あんまり人と接する機会殆どないし。それに、周りには漫画とかラノベとかがいっぱいあるからね」


「確かに、本屋はうってつけの場所なのかもしれないな」


確かに、本屋ならば比較的人と接する機会が少ないだろう。それに、オタクならば本屋も宝庫と言っても過言ではない。

だが───、


「でもさ、人と接する機会が少ないと言っても、話しかけられることはあるでしょ?その時はどうするの?」


本屋の店員ならば、度々本の場所を訊かれる機会があるだろう。渚も本の在処が分からない時は、たまに店員に本の在処を訊いてみる。ならば、恐らく紗月も客から話しかけられているはずだ。


「たまに…本の品出しとかしてる時…ほんの場所はどこかって話しかけられる時があるんだけど…その時は───」


一旦言葉を区切ったあと、紗月は気まずそうに顔を伏せて、


「────聞こえてないフリして裏に逃げてる」


「─────」


こいつ店員として最悪だ。


「───そう言えばさ、渚」


紗月は渚の引きつった顔を見て、これは非常にマズいと思ったのか、慌てて話題を逸らしにくる。挙動不審になっている紗月を白けた目で見つつも、渚は話に乗ってあげることにした。


「渚もいっぱいお金持ってきてるけど、バイトしてたりするの?」


「あぁ、私も一応バイトしてるよ」


「そうなんだ、何のバイトしてるの?」


そんな問いを渚に投げかける紗月は、自然と早口になっており、異様な食い付きを見せていた。それほど話を逸らすのに必死なのだろうか。


「私のやってるバイトは…口外しゃいけない系のバイトでね」


「え、渚…一体何のバイトしてるの?」


渚は片目をつむり、口に指を当てながらそう応えると、今度は紗月の顔が引きつっていき、お相子になった。


「まあまあ、そんなことよりさ、私これ全部買うー!」


静まり返った空気を打ち破るように、渚は近くに陳列されていたキーホルダーとアクリルスタンドを手に取った。

その手付きは非常に素早いもので、決して獲物を逃がさまいと疾走する猛獣のようだった。


「そんな急がなくても良くない?」


「急ぐに決まってるだろ!他のやつに取られたらどうするんだよ!」


「別に…周りにあんまり人いないよ?」


「いいや、これから百人ぐらいのオタクが私の持ってるグッズを欲して、ここにやってくるかもしれないだろ?だから、そいつらが来る前に、このグッズは私の手元に置いておく。そうしたら、確実にこのグッズは我が物となるんだ」


渚がオタク新入りだった時に、何度も目の前でグッズを横取りされたことがある。

何を買おうか悩んでいる間に、全て横取りされてしまう。あの時の屈辱は今になっても忘れない。

オタクの世界は、言わば戦場なのだ。グッズを我が物とするには手段を選ばず、奪い合いが多発している。そんな戦争に勝ち抜くためにも、渚は修行に修行を重ね、手を素早くしていたのだ。


「───お、おう…」


紗月は渚の熱弁には少し引き気味の様子だった。

だが、渚は引き気味の紗月には全く気付いておらず、手に取ったグッズを優しく包み込んでいた。手元にある数多のグッズを見て、渚の表情は自然と笑みが零れていた。


「よし、紗月!」


「─────っ!?」


突然渚が顔をバッと上げて、大声で紗月の名前を呼んだので、紗月は驚いて肩を跳ねさせた。そんなことを顧みず、渚は続けて、


「戦に出るぞ!」


「だね」


渚の気合いの入った声でそう言うと、紗月は微笑を浮かべながら返事した。

そして、渚と紗月はグッズを買い漁りに行くため、店の中を回っていく。


それなら渚たちは店内を隈無く回っていき、自身の財布と相談しながらグッズを手に取っていった。

キーホルダーやアクリルスタンドの他にも、フィギュアやタペストリーなども手に取っていく。

紗月も同様に様々なグッズを手に取っていき、自然と笑みが零れていた。

ある程度店内を回り終えると、渚たちは会計を済ませて、次なる新天地へと向かう。


「よし、じゃあ次はK-BOOKSだ!」


「いいやつあるといいな…」


というわけで、続いてはラジオ会館三階にある『K-BOOKS』の言う名のお店にお邪魔する。

このお店は中古のアニメグッズを取り扱う店舗となっている。なので、既に販売が終了されているお宝グッズなどが眠っていたりするので、ここもオタ活には欠かせない店舗となっている。


「あー!紗月見てぇ!これ私が買えなかったやつだ」


「あんまり叫ばないでよ…」


店内を隈無く回っていると、突然渚が陳列棚を指さしながら叫んだ。紗月に叫ぶなと注意されるが、渚の耳には届いていなかった。

なぜなら────、


「これ欲しかったんだよ…」


目の前に陳列棚されているのは、渚が手にすることが出来なかった限定タペストリーだ。渚がオタク新参者の時にグッズ争奪戦に敗北して、手にすることが出来なかった限定グッズ。それが今渚の目の前にあるのだ。


これがK-BOOKSの良いところだ。中古品を扱うお店なので、限定グッズが眠っている可能性があるのだ。


渚が手にすることが出来なかったグッズが、こうして目の前にある。これは買うしか選択肢がない。だが───、


「───高い」


先ほどまで気分上々であった渚の顔色が一気に悪くなっていく。


値札に書かれている金額はなんと、四万円!先ほど渚が使った金額は約一万円!つまり、これを買ったら軍資金の約半分が早々に消えてしまうわけだ。うん、この世の終わりだ!


「いや…読み間違えかもしれない」


読み間違えかもしれない。微かな希望を信じて、渚は瞼を擦ったあと、再び値札を見るが、そこには変わらず四万円と書かれていた。


「ねぇ紗月!これおかしいよね!こんな高いわけないよね?」


「現実逃避するな」


「───ぅ」


これは何かの間違いだと渚は紗月に訴えかけるが、逆に現実逃避するなと追撃されてしまう。

残酷すぎる現実に、渚は死んでしまいそうなほど精神的ショックを受けて、唸り声を上げながらその場に崩れ落ちた。

無数の人が踏みしめた床は、幾ら定期的に掃除しているいえ、やはり少しばかり汚れている。だが、渚はそんなことを一切気にせず、床に手をついて咽び泣いた。


「あぁ…誰だよ…こんな値段つけたやつ…」


そして、渚は顔をバッと上げて、再度高額な限定タペストリーを見て、


「これが人間のやることかよぉぉぉぉぉ!」


周囲の状況など顧みず、渚は店の中でそう叫んだ。

この金額を付けたやつは悪意しかないのだろう。限定グッズを見せつけて、興奮しているオタクに対して、法外の金額を叩きつけて絶望させるといった魂胆だろう。人間のすることじゃない。やったのは店長という名の皮を被った悪魔か。

ならばどうする。いっその事、悪魔を殺ってしまえば。


「やめろ」


何か不吉なことを考えていると予感した紗月は、全力で渚を静止にかかる。そして大きなため息を吐いて、


「潔く諦めるか。それとも財布が痛くなるけど、ここで買うかだ。これ以外の選択肢は考えるな」


「くそぉ……なんでこんなに高いんだよ…欲しいのに…」


「そう迷ってたら他の人に奪われるかもしれないよ?さっき言ってたじゃん」


現在は何処にも発売されていない貴重なタペストリーなので、こうして渚がグズグズしている合間に、他の客に奪われてしまう可能性が高い。店に残っているのが奇跡と言ってもいいほどだ。


「うぅ……」


苦渋の決断を迫られ、渚は頭を抱え込みながら苦しみに悶える。自然と頭を抱える手の力が増していく。

人生でこんなに悩んだことは初めてだ。ここで買うのを逃すと次の機会は確実に無いと言ってもいい。

ここで買えば、渚の願望が果たされるが、軍資金の殆どが無くなってしまい、買えるグッズの量が減ってしまう。


「あぁ…どうしよう…」


悩んで、悩んで、悩んで、悩み悶えて、等々渚は結論を出した。


「よし」


そう言うと、渚はその場から立ち上がって、服に付いた埃を軽く払うと、頬を強く叩いて、気合いを注入する。


そして、渚は限定タペストリーを手に取って、辺りを軽く見回して、近くにいた店員を見つけると、


「すいません!」


「は…はい?」


あまりの渚の気迫に、喋りかけられた店員は少々驚いている様子だった。そんなことは気にせず、渚は手に取った限定タペストリーを店員に見せつけて、


「これ高すぎるからちょっと負けてくれへん?」


渚が導き出した結論は、店員に値引きを要求することだった。関西人が値引きしているのをテレビで見た記憶があったので、渚は関西人になりきって、店員に値引きを要求したのだ。

傍から見ても、今の渚の口調は完全に関西人だった。故に、値引きは成功するはずだ。


「───すみませんお客様。値引きに関してはちょっと出来かねます」


「なんでぇっ!?」


完全に勝利を確信していた渚だが、予想外にも値引きを断られてしまい、腑抜けた声を漏らしてしまう。


「当たり前でしょ。渚が関西人になりきってるからって値引きしてくれるわけないでしょ。それ多分、関西だから通用するやつだと思うし。そもそも、全然ニュアンス違ってたからね。傍から見ればモロバレだよ」


「でもでもぉ!でもぉっ……」


そんな紗月の指摘について渚は反論しようとするが、何も言葉が出てこなかった。その声はとても弱々しく、涙声のようにも聞こえた。


「あの…お客様。大丈夫でしょうか?」


そんな渚の様子を見て、店員は心配そうに声を掛けたが、顔は若干引きつり気味であった。


「じゃあじゃあさ!」


と、弱々しくなっていた渚が突然顔を上げて、急に口を切り出す。渚は再び店員に限定タペストリーを見せつけて、


「お金が溜まった時に買うんで、これ予約で!」


最初から予約しておけば良かった話なのだ。飲食店などで予約電話をしておけば、その時間になればスムーズに席に座って食事が出来る。

なので、ここも同じく商品の購入を予約しておけば、誰にも奪われることなくスムーズに限定タペストリーを購入出来るだろう。

この完璧過ぎる作戦に、渚は限定タペストリーを眺めながら勝ち誇った顔をしていると、店員が「あのぉ」と言いずらそうに前置きして、


「申し訳ありませんが……値引きも予約も出来かねます」


「なんでぇっ!?」


「そりぁそうでしょ。渚のお金が溜まるのまで待たなきゃいけない理由はお店側にはないよ。一体いつになるかも分からないし。別に売れてくれればなんでもいいんだから、わざわざ待つ必要は無いでしょ」


渚は興奮して店員に食ってかかろうとするが、紗月は渚の肩を掴んで動きを静止し、冷静にそう指摘する。


「あぁ…ぁ…」


値引きも予約も無惨に断られた渚は、絶望のあまりその場へ崩れ落ちた。

あまりにもこの世は不条理だ。何故自分の思い通りにならない。この店員は渚の希望と期待を尽く破壊してきた。いや、店員だけではない。店長も、日本国民も、世界中の人々も全ておかしい。

渚は世界に対する鬱憤を全て吐き出すため、全力で息を吸って、


「これが人間のやることかよぉぉぉぉぉ!」


「いや、もう龍之介はいいから。えっ?ってことは私がジルってことなの?ってそんなことはどうでもいいから」


と、紗月は自分でボケとツッコミの両方を担当してから周囲を見回して、他の客から注目されていることが分かると、


「渚…私ちょっと他見てくるね。うん…じゃあね」


そう紗月は言い捨てて、まるで渚から逃げるように足取りを早くして、店の奥へと行ってしまった。


絶望に打ちのめされて崩れ落ち、言葉が出でこないでいる渚を見て、店員は非常に気まずそうにして、




「あの…どうなさいますか?」

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