5話 『愛のある説教』
「よっしゃぁ、じゃあご飯も食べた事だし、感想も語り合えた事だし、お店巡りに出発だ!」
「そうだね、早く行こうか」
昼食も終えて、長々とアニメの感想も語り合えることが出来た。なので、早速渚と紗月はファミレスを出て、お店巡りへとと出発する事にした。
秋葉原は、正しく異世界と言っても過言では無い。そこら中にアニメの看板やポスターが飾られていたり、色んなグッズの展示会が至る所で行われているので、秋葉原に来る度に、新鮮味が増しているように感じる。
「いやぁ…凄いねぇ…」
「だねぇ…やっぱ秋葉原っていいねぇ…」
冒険者にでもなった気分で、渚は目をキラキラさせながら歩いていた。
いつになっても飽きることは無い。そんな場所が秋葉原だ。
「ねぇ紗月、今日ってどこに行く予定だっけ?」
一応予定を再確認しておこうと、隣を歩く紗月に訊いてみると、紗月は空を見上げながら顎に手を当てて、「んーっとね」と考えるように言い、
「今日はね。とりあえず、ラジ館とゲーマーズとアニメイトとかかな?他にもホビ天、らしんばんとかにも行きたいなって思ってるけど…」
紗月はそこで一旦言葉を区切った後、は渚の顔を見て、
「渚が一時間以上も遅刻しちゃったから、行けるかどうか分からないんだけどね」
「──────」
紗月は渚の目を覗きながらそう言うと、渚はその視線から逃げるように、視線を真っ直ぐにして無言を貫いた。終わった話を再び掘り返されるのは流石に堪える。
どうにかしてこの気まずさを消し去るため、何か別の話題を持ってきて話を逸らそうと、渚は周囲を見渡した。
「ねぇ紗月!あそこで何か言い争ってるよ!」
突然渚が前方に指を差しながら叫んだので、急な出来事に困惑しながらも、紗月は渚の指差した前方を見た。
「え?」
すると、そこには店の前で激しく言い争っている二人の男の姿があった。その言い争いは周りを顧みないものであり、その二人の男は変な目を向けられていた。
こういう人達には関わらない方が正しいのだが、話を逸らすのと、何の話題で口論しているのか単純に気になったので、渚は男たちの傍に向かうことに決めた。
「よし!紗月、行ってみるぞ!」
「え、ちょっ!」
紗月の嫌そうな顔も顧みず、渚は手を引っ張って、無理やり、男たちが言い争いをしている場所にへと連れて行く。
その場へ辿り着くと、言い争いの内容がはっきりと聞こえてくる。
「だから!なんで理解してくれないんだ!潮ちゃんが一番可愛いに決まってるだろ!」
「お前こそなんで理解してくれないんだよ!おかしいだろお前の感性!澪ちゃんが一番可愛いに決まってるだろ!確かに潮ちゃんは可愛いけど、やっぱり一番は澪ちゃんだ!」
「うるせぇ!一番は潮ちゃんなんだ!それ以外は絶対に認められない!」
「お前こそ黙れよ!澪ちゃんが一番なんだってなんで分からないんだよ!この分からずやめ!」
「なんだと?お前」
「おめーこそ何だよ。あぁ?」
互いに青筋を立てて睨み合っており、正に一触即発といった状況だ。聞き耳を立てると、どうやらアニメのキャラで誰が一番可愛いのかで口論しているようだった。
渚はアニオタであるため、何のアニメの話題で口論しているのか直ぐに分かった。それと同時に、渚の心の奥底から怒りの感情が湧いて出てきた。
「えっ、ちょっ…渚」
突然、無言で男たちに向かって進み始めた渚を見て、紗月が困惑も示しつつも呼び止めるが、渚はそれを無視して進み続ける。
そして、渚は男たちのすぐ傍に辿り着いた。尚も言い争いを続けている男たちを見て、渚は開口一番。
「しょーもない言い争いをするな!このクズ共め!」
見知らぬ男たちに向かって、渚はいきなりクズだと言い放ったのだ。
周りの状況を顧みずに、激しく口論していた男たちも、第三者である渚の突如の登場に、男たちは呆気に取られて押し黙ってしまう。
「今すぐその場で正座しろ」
「───ぇ?」
「いいから早く正座しろ!」
鬼のような渚の気迫に押されて、男たちはその場に正座した。そして渚は腕を組み、正座している男たちをジロリと見て、
「何を貴様ら、そんなくだらないことで口喧嘩している」
「全然くだらなくなんかねぇよ。サマータ〇厶レンダのキャラの中で一番可愛いのは潮ちゃんなのに、こいつ全然分かってくれねぇんだよ」
「違う!一番は潮ちゃんじゃなくて澪ちゃんなんだ!全然分かってないのはお前の方だって、さっきから何度も言ってるだろ!」
「黙れ雑種風情が!身の程を弁えろ!貴様らに発言権は存在せぬ!」
渚が男たちにそう問うと、二人とも勢い良く立ち上がり、周りを顧みない大声で、相手に対する不満をぶちまけるが、渚が一喝すると、直ぐに正座をし直した。
その男たちの行動を見て、渚は呆れたようにため息を吐いて───、
「確かさ、潮ちゃんも澪ちゃんも可愛いよ。だけどさ、お前らアニオタなんだろ?そんなしょーもない言い争いなんてするなよ!」
渚は正座する男たちに一歩近付いて、再び睨みつける。額には青筋が無数に立っており、怒りが頂点に達している証拠だ。
「あのなお前ら。耳の穴かっぽじってよく聞いとけよ?アニメの中で可愛いキャラは沢山いるよ。中にはヒロインが何人も出てくるハーレム系のアニメもある。けどな、誰々が一番可愛いとかじゃないんだよ!全員が一番可愛いんだよ!」
キャラの一人一人が個性や魅力を兼ね備えている。つまり、ただ一人のキャラに限ることなく、どのキャラも一番だと言う事だ。
「それをなんだお前ら、あぁ?さっきから潮ちゃんが一番可愛いだとか、澪ちゃんが一番可愛いだとか、ゴタゴタ抜かしやがってこのすクズ共が。誰もが一番なんだよ。だから潮ちゃんも可愛い。澪ちゃんも可愛い。他にも色々いるけど、全員が可愛くてかっこよくて、全員が一番良いんだ!だから!互いにキャラを卑しめるような行為は、絶対にするなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」
渚はそう叫びながら言うと、何かしらの衝撃波のようなものが、男たちを魂を隅々まで撃ち抜いた。
これはアニオタである渚の信念と矜恃が働いた、言わば愛のある説教である。
「すまねぇ、潮ちゃんが一番可愛いなんて言って…澪ちゃんも一番可愛いんだ」
「そうだ、俺も…すまなかった。澪ちゃんも一番可愛いけど、潮ちゃんも一番可愛いんだ」
その説教を受けた男たちは、自分の愚かさと醜さを理解して、互いに謝罪し合う。先程まで言い争っていた二人が、嘘のように互いを理解し合って、最終的には手を交わし合うまでになった。
そして仲の深まった男二人は、最後に渚の方を振り返り「ありがとう」と感謝の言葉を残してから、一緒に秋葉原を散策して行った。
「ふんっ。ま…こんなもんかな」
無事平和に事件を解決した事に対して、自信満々げに渚は鼻を高くしていた。
と、言うわけなので、渚は華麗な動作で後ろに振り向き、待たせていた紗月をお迎えに行こうと───、
「─────あれっ?」
渚は目の前に広がる光景に目を疑った。先程まで一緒にいたはずの紗月の姿が見えないのだ。
愛のある説教を紗月に見せつけて、好感度をアップさせようといった狙いも少なからずあったのだが、肝心の紗月がいなかったのだ。
「あっ!」
渚は焦りながら辺りを見渡すと、建物の影と同化して身を潜めている紗月の姿が見えた。紗月を見つけた瞬間、渚は駆け足でその場へと向かう。
そして紗月の元にへと辿り着くと、
「どうしたの?こんな場所まで来て」
紗月が渚から遠ざかった理由を問いただすと、紗月は「いやぁ」と前置きして、
「だって、あそこで渚と一緒にいたら私まで変人って思われちゃうじゃんか」
「私が変人だって言うのか!?アニオタとして当たり前の行動をとっただけだぞ!」
「街中で周りのことも考えずに説教するって変人でしょ」
渚は自身の正当性を訴えるが、紗月の理解は得られなかった。そして、紗月はため息を吐いて、
「もういいから、早くラジ館行こ」
こう話している間にも、時間は刻々と進み続けている。アニメグッズを見ていると、時間の流れはとても早く、一時間以上は平気で経ってしまう。
今話している時間すら無駄なのだ。一刻も早く、アニメグッズを買いに行かなければ、
「そ、そうだな。早く行かなければ」
そう渚は返事して、再び秋葉原を歩き出した。そして、最初にたどり着いたのはここだ。
「着いたぞ!ラジ館!」
ラジオ会館。その中には様々なアニメグッズを取り扱う専門店が入居しており、アニオタ必見の店だ。
多くの人々が出入りしており、いつにも増して活気が溢れているように感じた。
「あれっ!?」
「ん?どうしたの?」
ラジオ会館に着くと同時に、渚は急に大声を出した。紗月が渚に目を向けると、渚はラジオ会館の屋上を、その場で立ち尽くして、目を大きく見開かせながら見ていた。
疑問に思い、紗月はどうしたのかと問うと、渚は勢いよく振り向いて、
「なんで屋上にタイムマシーンないの!?おかしくない!?」
「いや、某タイムリープ系アニメじゃないんだからさ」
興奮状態の渚を紗月は冷静に対処する。ちなみに、この流れは秋葉原へ来た時の恒例行事となっている。他にも───、
「それにしても、人多いなぁ」
「そりゃあね、ラジ館だからね」
「よし、私が群衆を消し去ってラジ館を貸切状態みたいにしてやろう」
そう言って、渚は左目を手で隠して「ふっふっふ」と不気味な笑い声を漏らした後、大きく手を振り払い、隠された左目を大きく見張って、
「水無瀬渚が命じる。貴様ら、直ちに消え失せろ!」
絶対遵守の命令───ギ○スを周囲にいる群衆に向けて下すが、その効果は発動することはなく、ただの変人と化していた。
「なっなんで!?そこはYes,your highnessって言ってみんな立ち去るところじゃないの!?」
「いや、某ロボット系アニメじゃないんだからさ」
勢いよくこちらを振り向いて、大きくてを見張り、驚きを隠せない様子の渚を、紗月は再び冷静に対処する。
「ほら、いいから早く行こ」
このまま渚のくだらない茶番に付き合い続けていると、時間が勿体ないのと、周りから変な目で見られてしまうと感じたので、紗月は数歩前に出て後ろに振り向き、早く来るように渚に伝えてから、ラジ館の中へと進んで行った。
「あ、ちょっと待って」
そう急かされた渚は、急ぎ足で紗月の後を追っていき、二人共々ラジ館の中にへと入って行った。




