3話 『馬鹿』
渚と紗月が秋葉原に合流した事により、ようやく秋葉原巡りを開始出来るのだが、それは胃袋を満たしてからの話だ。
腹が減っては戦ができぬという事だ。秋葉原は言うなれば戦場だ。
毎度興奮して体力を大幅に消耗してしまう為、今のうちに胃袋を満たさなければ、体力が持たない。
ということで───、
「ねぇ紗月さん、お昼ご飯食べない?」
「そうだね、お昼ご飯何も食べてないから何処かで済ましちゃおっか」
「出来るだけ安く済ませないと…お金が…」
現在財布の中には、諭吉が十枚と英世が三枚程と、後は小さい小銭が幾つは入っている。
今回の軍資金は十万円なのだが、正直なところ、三千円もアニメグッズに使用したいのが本音だ。
服に金を掛けるならグッズに、食事に金を掛けるならグッズに、借金をしてでもグッズに金を掛ける。
お金は全てアニメグッズに掛けるというのが渚の信念だ。
なので、食事にはあまりお金を掛けたく無いのだが、安い金額だと、それなりの量と質の物しか出てこないのが難点だ。
「安くて量が多いってところか…やっぱファミレスとかかな?」
「ファミレスか…それがいいね」
ファミレスだと安くて量も多いし、質も保証されているので、それなりに満足出来るだろう。そして神は渚たちに味方しているのか、すぐ近くのビルにファミレスの看板があるのだ。
「神は私たちに味方しているのだろうか」
「はいはい、そんなことはどうでもいいから、早く食べに行こう」
神の恵みを受けて、感動して涙を流している渚の事を気にも止めずに、紗月はビルに向かおうと急かしてくる。
だが、一向に渚は感動したままなので、痺れを切らした紗月が無理やり腕を引っ張って、ビルにへと連行して行った。
ღ ღ ღ
ビルに到着し、エレベーターで四階に向かい、等々ファミレスの中にへと着いた。
店員に席に誘導され、二人共々着席したところで、最初の難点がやってくる。
「何食べよっかな…」
机の隅に置かれているメニュー表を呆然と眺めながらそう呟く。
ファミレスには中華や和食、イタリアンなどの様々な品が揃っている為、必ずしも懊悩してしまうのが典型的な流れだ。
それとついでに、出来るだけ安いものを選びたい。出来れば千円以内で食事したい。そして尚且つ、満足出来るものと言えば───、
「やっぱり肉かな」
肉を食べれば満足出来るのは確実だ。なので渚は、メニュー表にある安い肉料理を血眼になって探す。
そして見つけた待望の品は───、
「チーズINハンバーグ…」
「それいいね、私もチーズINハンバーグ食べようかな」
価格も非常に安くて、尚且つ確実に満足出来る品だ。そして特に注目すべき点としては、このチーズと言う部分だ。
渚は大のチーズ好きであり、必ず冷蔵庫にはチーズを完備しており、自炊した時には大体チーズを使用している程、大好物なものなのだ。
「そしてセットでドリンクバーですね」
「私もー」
ドリンクバーで同じく大好物なコーラを飲みまくって元を取ろうといった魂胆だ。よく巷では、ドリンクバーで元を取るのは不可能だと言われているが、恐らく嘘だ。期待で何とかいける。
大好きな肉とチーズとコーラをここで摂取しまくって、戦いに備えようと、渚は早速注文する。
呼び出しボタンを押して、店員を呼ぶ。すると店の奥から、ハンディを片手に持った店員さんが急ぎ足でこちらにやってきた。
「チーズINハンバーグとドリンクバー二つください」
「はい、分かりました。あちらの方にドリンクバー御座いますので、ご自由にお取りください」
メニュー表を指差しながらそう言うと、店員がドリンクバーの置いてある方向にへと手を向け、軽い説明をした。
「はーい」
渚は軽い説明を受け、適当に返事を返した。そうして店員は再び店の奥にへと戻っていった。
つまり、注文が完了したというわけだ。ならば───、
「いくぞ紗月!」
「えぇ…?」
いきなり席を立ち上がり、大声で名前を呼ばれた事に、紗月は困惑した様子を見せたが、既に渚が席を離れてしまっていたので、慌てて後ろを着いていった。
勿論、行き先はと言えば───、
「よし、頑張って元取るぞ!」
「いや…絶対に無理だぞ…」
ドリンクバーで元を取るのは不可能だと言われている。コーラ一杯を原価で換算すれば、凡そ三十杯近くを飲まなければならないのだが、そんな事は到底不可能に近い。なので、紗月は諦めさせようとするが、当然聞く耳を持たない。
「いけるって、気合いがあれば何とかなるって」
「すごい脳筋だな……昼ご飯もあること忘れてない?」
飲料だけなら、少々可能性は高くなると思うが、加えて昼食分の残量を残しておかなければならないのだ。
「た…確かに、忘れてたわ。畜生…今回は諦めるしかねぇようだな」
そう心底悔しそうな表情をおもむろに見せてから、渚は近くに置いてあるコップ置き場からコップを取り出して、コーラを注いだ。
「こういうのってあれだよね、そのコーラの原液となんか白いやつ出てくるけど、原液だけ入れてみたいよね」
「いやまぁ、分からなくもないが…」
誰しもが一度はやってみたいと思うであろう行為だ。紗月も子どもの頃にやったことがある。なので、渚に忠告する。
「それさぁ、そのコーラの色のやつが原液で、白いやつが炭酸水じゃないっけ?その二つが上手いこと組み合わさってるからいつものコーラが出来るんであって、原液だけだったら幾らコーラであっても飲めたもんじゃないから辞めといたほうがいいよ?」
原液と炭酸水が上手いこと組み合わさるからこそ、美味しいコーラが出来るのであって、原液だけだと味が濃すぎるので、到底飲めたものでは無いのだ。
「物は試しだ!よし、やってみよう!」
そう紗月は忠告したはずなのだが、それを聞いた渚はコップに注がれたコーラを一気飲みしてから、タイミングを見計らって原液だけを注ぐ。
「よし!出来た!」
そして濃度100パーセントのコーラが完成した。一応周りのことも考えて、一旦席に戻りってから、一気に喉にへと原液を注ぎ込む。
「う……」
原液の味は非常に濃く、味覚が狂わされる。徐々に渚の顔は青ざめていき、強烈な吐き気を催し、口を手で抑えた。
「だから言ったじゃん…辞めといた方がいいって」
紗月は完成されたコーラを一口飲み、ため息をつきながら机にコップを置いた。
「トイレで吐いてこれば?」
「──────」
紗月は呆れた様子で吐くことを促すと、渚は口を抑えながら席を立ち上がり、ゆっくりとした足つきでトイレにへと直行した。
一歩一歩進んで行くにつれ、吐き気が増してくるが、何とか気合いで耐えて、やっとの思いでトイレに到着したのだった。
「ほんと馬鹿だな…」
そんな愚痴を零しつつ、再び紗月はコーラで喉を潤して、渚と昼食の到着を待った。




