プロローグ
王国歴415年、花の月5日。
小春日和の暖かな太陽に澄み渡る青い空、まさに私の前途洋々たる未来を表すに相応しい一日の始まり。
昨夜はあくる日への期待からかなかなか寝付けず、ようやく眠りにつけた時には日付が変わっていたかもしれない。
それでも起きられたのは、まるで私を祝福するかのように窓から差し込んできていた暖かな日差しによるものか、それとも今日という日への期待、楽しみ、ワクワクといった感情が眠気を完全に吹き飛ばしてしまっているからなのか。
いや、その両方かもしれない。
とにかく今日は私、ここラギオス王国の中でも指折りの名家、ルテイン公爵家の第2公女、シルフィア・ルード・ルテインの7歳の誕生日なのである。
え?
誕生日なんて毎年あることだし何をそんなにワクワクしているかって?
それはこの国で7歳という年が意味するところを分かっていないお人が言うことですよ??
そう、ここラギオス王国において7歳の誕生日は特別な日。
それは貴族に限ったことではなく、平民にとっても同様である。
なぜならこの日この時、それぞれの運命が決定づけられてしまうと言っても過言ではないのだ。
そう、この国では7歳になると神託により神様の加護が与えられ、それぞれの進むべき道が示されることになるのだから・・・
私の家であるルテイン公爵家は、元はラギオス王家の末裔である。
救国の英雄の血筋を引いているだけあって、公爵家の者はみな強力な加護を受ける。
これはこの400年以上の歴史が証明してきた純然たる事実であり、決して身内よがりな贔屓目によるものではない。
特に私、シルフィアのことはお父さまやお母さま、それに屋敷に仕える皆にとっても期待の的だった。
それは私に備わる圧倒的な魔力量によるところが大きかった。
魔法適性に関しては神託で与えられるためどうなるかはまだ分からないが魔力量は産まれた時から測定できる。
公爵家にはお抱えの鑑定士がいるため、この家に産まれた以上は産まれた時からその辺の情報は皆に筒抜けなのであった。
「お嬢さま、おはようございます。今日は一段と良い天気でございますよ。」
そう言いながら私付きの専属メイド、アイシャが部屋に入ってくる。
そしてあれよあれよという間に慣れた手つきで着替えさせられ、髪型をセットされる。
これから神託を授かり、その後には私の誕生パーティーが予定されていることからいつも以上に綺麗な服装にきちっとした髪型にセットされる。
とは言ってももちろん神託の直前、パーティーの直前にはそれぞれ改めて着替えやセットは行われるわけなんだけど・・・
「ありがとう、アイシャ。」
私はお礼を言う。
対してアイシャは朗らかな微笑みを浮かべながら、
「昨夜あまり眠れなかったようですね?」
と見抜いてきた。
さすが、産まれた時から私の世話をしてくれているメイドである。
アイシャは今年で16歳、私のメイドになってくれたのは若干9歳の時だったそうな。
もちろん始めは先輩メイドのお付きからスタートしたわけだが私とはやや年の離れた姉妹くらいの年齢差ということもあり、本当の姉妹のような、もしくは何でも話せる数少ない友人のような関係を続けてきた結果、現在の専属メイドの立場になったのである。
「やっぱりアイシャにはわかっちゃうかぁ・・・」
と、いつも通り、何気ない、取り留めのない会話を開始した時のことであった。
「っ!つうっ!・・・」
突然、私を割れんばかりの頭痛が襲い掛かる。
「どうされましたかっ!?」
あまりの頭痛に鏡台の椅子から転げ落ちそうになった私をアイシャはしっかりと抱きとめてくれた。
そんな最中にも私の頭にまるで洪水のように押し寄せてくる何か。
これは、誰かの記憶?
人は人生の最後に走馬灯といってこれまでの人生を思い出すとかって誰かに聞いたような気がしたけれど、これがそうなのだろうか。
だとしたら、私は死んじゃうのかな??
その走馬灯云々という話も前世の記憶の一部であり、私がシルフィアとして生きてきた中では誰からも聞いたことのない知識であることはこの時の私には分からなかった。




