呂律と頭が回らない大将 2-3
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演説より数時間後の事、大将が司令官室にていかにもやる気のなさそうに執務をしている時のこと。司令官室を訪ねる人間が1人。
コンコン・・・。
「ボス、イルハームです。」
大将「あいよ~どうぞ~(´▽`)」
ガチャ、キィー・・・。
イルハーム「失礼します、ボス。少々お話が・・・。」
大将「あいよ、どったの(´ω`*)」
イルハーム「自分は前潰されたテロ組織支部の元幹部です・・・。」
大将「お、そうなん?ちょいと待ってな、調べるよ。」
ガサゴソ・・・。カタカタ・・・カチッ。
書類とパソコンを使って資料を探す
大将「おーあったあった、これね。あー・・・前潰したところか・・・。所詮支部だったからな。親玉のいるとこも近いうちに探しだして潰すが・・・。そういやお前は随分と情報提供に協力的だったらしいな。自分たちを潰してくれと秘密裏に俺たちに依頼したのもお前だもんな。しかも依頼の仕方がこっそりメールを送るってな。仲間にばれねえようにな。肝が据わってやがる、俺たちがあんま殺しをしねえってのを知ってかの行動らしいな。取り調べじゃあ、今までの行動に随分と責任を感じてたようで。まあ改めて話を聞こうじゃないか。」
イルハーム「はい・・・。俺たちは何度も酷い事をしてきました。宗教のためのジハード(聖戦)なんて言いますが嘘です。洗脳をしてやりたい放題です。逃げる者には容赦なく処刑をします。組織がかなり弱体化した今、世界各地でテロを起こしています。そこに信念なんてありません。ただ、殺しをしているだけです。それを少しでも止めたいのです。今まで何も疑わずにいましたが、あなたがたの理念を知って自分の組織に疑問を持ったのです。・・・遅すぎたと思いますがね・・・でも所詮幹部といってもそこまで上の地位ではありませんから、何にも出来ず、どうにか組織を抜ける方法を探してました・・・。その時、あなた方と交戦した仲間の情報から、殺されずに無力化されたとの情報をもらったので自滅を思いつきました・・・。まあ、捕まったらどうなるか分からなかったので、ちょっと怖かったですけどね・・・。でも・・・どうにか罪を償いたくて・・・。ネットであなた方の事を見て、一か八かで依頼しました。なるべく不殺、仲間は大事に・・・。偽善まみれに見えた仲間は多かったですが、私にはほんのささやかな希望に見えました。これでやっと償いの道が開くと・・・。でも本心は、ただ生きたかっただけかと思います。もう戦ってるのが馬鹿らしくなってしまって・・・。ただ、逃げてるだけです・・・。自分は卑怯な人間です・・・。恐らく、いや、神様は絶対許してくれない・・・。地獄行きですね、はは・・・やだなぁ・・・。」
大将「フム、全滅させずにある程度逃がして情報を流す作戦は上手くいってたか。心変わりねえ・・・それでこれか。んまあ取り調べでもただ死にたくなかった。死んでも地獄だから嫌だって言ってたらしいな。そんで生きる理由が罪滅ぼしか・・・。偽善だな・・・まあ取り調べでもそう言われてもなんにも言わんかったから、黙認ととらえたが・・・。」
イルハーム「はい・・・偽善です。でも、それでも・・・生きたかった・・・。償いなんて二の次です・・・。もう言い訳しません、あなたがたには何もかもお見通しですから・・・。」
大将「ほう、でもいいさ。償いたいという心があんならそれでいい。地獄にだって落ちんさ、しっかり償えばな。しかし!罪は消えねえ。今あんたの仕事は、過去の罪以上の成果だ。しっかり社会貢献すれば、きっと神様も何かしらの恩恵を与えてくれるさ。」
イルハーム「そうですか・・・。神をあまり信じないあなたがそう言われるとは、少し意外です。」
大将「別に、それは俺自身の話だ。他人が信仰してるもんまで否定はしねえよ。そういや、ここにはどういった用で来たんだ?今の話だけとは思えん。まあ正直俺は暇だったから別にいいんだけどさ。人と話をしてる方が面白れぇ。(´▽`)」
イルハーム「あ、すみません・・・その・・・自分が元テロ組織幹部ってことを皆さん知っているのに、扱いがその・・・普通でして・・・。責任を問われて少し待遇が悪くなるのかと思ったのですが、そんなことなくて・・・。我々より早くに入隊した元戦闘員でさえ私を周りの元部下たちと同じように扱ってくれて・・・。なぜかと聞いても、過去なんて関係ねえと言われまして・・・。その・・・何でしょう・・・気になってしまって・・・。多分あなたとお話がしたかっただけかと思いますが・・・。」
大将「あーなんだそんなことか。あんたが言った通りさ。過去なんて関係ねえ。元幹部だからって冷遇したりしねえよ。まあ大物だったら少しは何かすると思うが・・・。極力公平でいきたいしな。ここは色んなやつが集まるから、いちいち気にしてたら負けよ。だから気にすんなって。…ん?ちょっと待て。俺と話したかった?(*’▽’)
いいねえ!俺も話すのが好きでさあ、まあそのせいで他の事がおろそかになってコターさんとかに怒られちゃうんだけどね(´ω`*)」
イルハーム「そうなんですか?でも仕事の邪魔をしたら・・・。」
大将「いいってことよ~。気にしな~い気にしな~い(´ω`*)」
イルハーム「は、はぁ・・・。」
その後、ただでさえちょっと評判になっていた大将とのお喋りがこの件をきっかけに更に評判になった。部下とのコミュニケーションも大事といってサボろうとする大将は無事、他の幹部たちに怒られた。その後大将とのお喋りは予約制、それも大事な話のみとなった。無論、大将は不服と抗議したが、即却下された。これがこの部隊の司令官よ。でも、威厳がなく接しやすいのも人気の理由だ。
夜、深夜。自室にて今日の事を思い出す大将。
大将「・・・。過去・・・か。」
その時脳裏に記憶がよぎる。
がやがや・・・
「過去は変えらんねえ、償ってもダメだ。テメーらは永遠に犯罪者なんだよ!この、国家の恥さらしが!テメーのせいで何人死んだ?えぇ?何千万だ!しかも最後は自殺!ふざけんじゃねえ!このクソッタレが!」ドゴッ
殴る野次馬
「ゴフッ!」ドサッ
倒れる囚人
「良かったぜ!ここは最高だ!現世で上手く逃げ切ったやつをここで裁けるなんてなぁ!罪を犯しても上手く逃げて捕まんなかったやつ。裁きを受ける前に死んだやつ。本当はもっと罪が多いのに、少ない罪で裁かれたやつ!ハハハハハ!天は全部見てやがった!ザマァみやがれ!ここでテメーらは一生俺たちのオモチャだ!せいぜい良い声で「ないて」くれよ!アーハッハッハッハッ!あ!転生なんてさせねえからな!バーカ!ハハハハハ!」
大将「・・・。罪人は裁かれる。必ずな。だから、なるべく現世で罪を軽く・・・。いや、罪は消えん。償いをしねえと・・・。さもなければ死んだ後悲惨な目に遭う。死より恐ろしいことが・・・。死の概念がねえあそこじゃあ死より恐ろしいことがおこる。楽にもなれねえひでえ日々だ。時間は狂わされ、凝縮され、実に100年以上言葉で出来ねえ目に遭った。そんなことさせるか。ぜってー変えてやる。」
個室に沸々と再燃する信念。彼、いや彼らは変えるために戦う。背負うものは非常に大きく重い。実にマイナスからのスタートだった・・・。猛批判のなか強行されたこの計画。少しでも失敗すれば後はない。死してもなお罪は消えることはなく、許されることもない。ただ、永遠に批判され、軽蔑される。そんなこの世界を変える。偽善でもなんでもいい。それが彼らの行動理由。みんな、後がない。掃き溜めの国に生まれた掃き溜め人たちは、今日も生きる。必死に、しかしそれを表に出すことなく・・・ただ、平然と振る舞う。
救いなんて、ない。それがこの世界
そんなもの御免だね。無ければ作ればいい。出来なければ、出来るようなればいい。