呂律と頭が回らない大将 3-4
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アリー「俺は幹部になる前、とある依頼でアフガニスタンの紛争地へ向かったんだ。大将たちに連れられてな。現地武装勢力の排除の依頼だ。まあ政府軍だろうが反政府勢力だろうが、ロクな連中じゃなかったな。俺たちは依頼場所で戦闘をしてな。あ、俺は後方支援だったぞ。なにせお荷物だからな。それでなんで連れてきたのかと訊いたら、現実を見てほしいと言われた。理想だけじゃどうにもならない、大きな壁ってやつをな。テロ組織と違って、反政府勢力ってのはバックに大国の支援がある。この場合はアメリカだな。いや、アメリカだけじゃねえ。反政府ゲリラと呼ばれるやつらは沢山いる。そいつらを支援する組織も沢山ある。ISI、これはパキスタンの軍統合情報局と言ってな。他にも中国の支援を受けた連中がいたさ。それがアフガニスタン紛争なんだが・・・。その名残はまだあるんだ。ムジャヒディン。まあムジャーヒディーンともいう。分かるよな?イスラム教徒なら。お前らも前いた組織で聞いたことがあるだろう。ムジャーヒド、ジハードを遂行する者。聖戦を遂行する者って意味の複数形だ。かの有名なウサーマ・ビン=ラーディンもそこの出身だ。裏で様々な組織が暗躍したせいで余計に戦いが続いてたんだ。俺らはそんな複雑な戦場に揉まれたんだ。1900年から現在まで、戦争や紛争がなかった年なんてほとんどない。必ず世界のどこかで争いは起こってる。だから傭兵ってのは絶対需要があるんだ。皮肉にも・・・俺たちがこうして生活ができるのは、なによりも俺たちが嫌う戦いだ。全く・・・どうしようもない世界だ・・・。」
「っ・・・。」
「確かに・・・俺たちって、他の国とおんなじ事してねえか・・・?」
「むぅ・・・。で、でも、大国よりかはマシだろ・・・?」
「そ、そうだよな・・・?」
「・・・だといいが・・・。」
アリー「おっと話がずれちまったな。それで、俺たちは現地の反政府ゲリラをつぶしてくれという依頼を達成するために現地へ向かったんだ。戦闘は・・・勝ったよ・・・。多くの血が流れた・・・。大将たちはもうそれは凄い勢いで戦ってたよ。敵は装甲車とかも持ってたからね。対物ライフルや携帯兵器で破壊しまくってたよ。大将たちが使う武器ってちょっと特殊じゃん?まあ大将たちが考案したものだけどね。銃弾も銃も全部オリジナル。単価が高いけど性能はいい。クライアントから買った弾薬も使えるから、彼らの火器は優秀だよ。そんで大将たちは次々と敵を倒してね。被弾しても頑丈な装備でほとんどケガはなし。その上本人たちも滅茶苦茶強いから敵を一網打尽。敵は戦意喪失して逃走、または撤退した。さすがに背を向けて逃げる敵は撃たない、かと思ったら違うんだよね。少しでも敵陣営に戦闘データを残したくないと言って、全員殺したよ。」
「え…」
「えぐいな上官たち…」
「戦意喪失したやつも殺したのか…これが戦争か…」
「でも、撤退か逃走か分からないしね、まあ…分からなくもないが…それでも…」
アリー「降参したやつもいたが、捕虜にしてもクライアントに引き渡したら拷問されるだろうし、困ってね。当時の俺たちには捕虜を収容する移動施設がなくてな・・・。いや、あったんだが・・・持ってきてなくてな。現地は何があるか分からない戦場。だから動きが鈍い輸送トラックとかは持ってきてなかったんだ。全部が歩兵戦闘車だったんだ。しかも戦地を転々とするから、ずっと保護する事も出来ない。もう仕方がないから、現地の人権団体に引き渡したよ。まあ精神的に参っていたから、もうテロリストになる事はないと思ったんだ。」
「良かった…殺さなくて…」
「さすがに降参したやつは殺さなかったか…」
アリー「そこでの任務が終わった後、やっと大型トラックを改造した移動施設が手に入ったんで、仲間にしようとまたアフガニスタンへ向かったんだ。まあ罪滅ぼし・・・というか心配してたんだな。それで保護を依頼した人権団体でそいつらを探したんだが・・・何人かはPTSDで自殺。何人かは逃走。残ったやつは・・・。確か10人くらいだったな。まあその10人もまともな精神状態のやつは半分くらいだったがな。」
「分かる。俺も最初滅茶苦茶怖かったしな、トラウマになったよ。」
「残った数少ないな…」
アリー「元々、確か80人くらい居たから随分と減ったよ。80人って多いように見えるだろ?実は違うんだ。俺たちは実にいくつもの依頼をこなしたんだ。大将たちは凄かったよ。弾薬が尽きると煙幕手榴弾や閃光弾、そして爆音弾を使って敵を一時的に麻痺させてな、そっからは凄かったぞ?大将たちは近距離武器で敵を次々と倒してな。倒した・・・というより斬ったり刺したりしてたな。大将なんか人間とは思えない奇声を発しながら一番前で戦ってたぞ。」
「そういや近接戦闘もするなあの人たち…」
「俺は大将のビリビリいう剣でやられたな…でもアフガンじゃ斬ったりしてたのか…アフガンに行ってなくて良かったぜ…」
アリー「俺たちはアフガンでの戦闘で実に何千人も殺したよ。弾薬が尽きるなんてしょっちゅうあったから、本当に最前線で戦ってたよ。そのうち、一番目立ってた大将なんか100人斬りなんて呼ばれてたな。もう何日戦ったか・・・何人殺したか・・・そんな事が考えられなくなるぐらい戦ったよ。後方支援の俺さえそう思ったんだ。自分が人間とは思えなくなったな・・・。これが戦争かと思ったよ・・・。明日の事よりも、今日を・・・いや、今日は・・・違うな。今日死なない事を考えてたな。ただ、今日絶対死なないために生きた・・・。今みたいな短期決戦じゃなかったし、補給も今ほど手厚くなかったから、本当につらかったよ・・・。正直、前いたテロ組織の方がまだ楽だったって大真面目に考えてたよ。戦場には、目的も、主義も、理想も・・・なーんもなかった・・・。敵も味方も、ただ生きるために戦ってたよ・・・。」
「「「・・・。」」」
その場にいた誰もが表情を凍らせた。話だけでも分かる当時の緊張感。想像したくてもしきれなかった。そんな者が多くいた。