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マイハニー

 仲良く肩を並べて歩く男女にハチミツに浸したモップを振りかぶり、バチャッと一閃する中年男性がいた

「うわっ!?」 「きゃぁ!」

ベタベタと不愉快な粘性に驚きながらも男女はモップを持つ男に振り返る


「意味分かんねーよ! 何なんだよアンタ!」


理不尽に怒る男性に彼は一言だけ呟いた


「蜜です」


「はぁ!? マジで笑えねーよ! おい、警察呼ぼうぜ」


「待って 私わかるよ」


「は?」


呆気に取られる男に女はしんと落ち着いた声で静止する


「“俺にとっては甘過ぎる モップに浸した舐められない甘味…無視したくても、べっとり張り付いて剥がれない不快さなんだ”って言いたかったんじゃないかな?」


「ちょっかいかけた理由が分かったからって何になんだよ…」


ため息をつく男の前で、中年男性はただ俯き、重い沈黙が流れる


「それしかなかったんだよ、この人には 何を言っても自分が負け犬だってわかってるから、表現するしかなかったんだよ この一瞬を 自分の気持ちを」


男は項垂れ続ける


「意味分かんねえ… お前って時々変だよな コイツを許すとかマジねえって」


理不尽さに奥歯を噛む男に歯切れよく女は答える


「ううん、違う 許してないから説明したの このおじさんにとってはつい表現してしまった自分の弱音が自分以外の誰かにバレるのがきっと一番嫌だから みっともない本音だから」


「行こうぜ! な?」


しびれを切らした男は強引に女の手を掴み、引っ張った 女は掴まれた手に一瞥もせず、ただ無言で俯く中年の男に視線を向けて、静かに続ける


「ただ…蜜が欲しいと思うならば、幹の中を削れば良いんですよ 私とあなたは、関係ない」


女はそれだけ言うと、二度と振り返らなかった

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