ポンニチ怪談 その25 トリアージ 知性の逆襲 その3
ウイルスに対して利権を優先した政府の後手後手の対策に業を煮やした市民たちが立ち上がり、政権奪取。新政府はウイルス対策を最優先としたが、時すでに遅し。やむを得ず”トリアージ”に踏み切った…
極東のとある島国では新型肺炎ウイルスが蔓延。すでに医療崩壊が起こり、死者が激増。政府の偏った対策に業を煮やした市民連合は、政権を奪取。新政権はウイルス対策を最優先するが、時すでに遅し。やむなく、“命の選別”を始めることとなった。
某都市の病院の一室。ウイルスの重症患者ばかり集められた部屋。
「ううう、なんでこんな…新型肺炎ウイルスは、こ、こんなに、く、くるしいのか…」
中年に差し掛かった男が苦しそうにうめくのをみて、防護服きた付添人が、ヘルメット型フェイスシールド越しに答えた。
「そうですね、オオイズミ元議員。若い方でも重症化するとかなり厄介ですね。まあ貴方は若いとはいえませんけどね、重症化が多い年代でもないですけど」
素っ気なく言う付添人に対し、オオイズミと呼ばれた男は必死になって訴えた。
「た、助かる、んだろう」
「さあ、どうなりますか。なにしろ、治療機器も薬も、我々医療従事者とその補助者も不足してますからねえ」
「こ、子供が、まだ、一歳…で、」
「ああ、小さいお子さんがいる親御さんもだいぶなくなってますからね。貴方と違ってシングルマザーでお金もロクに残せないお母さんが亡くなって、本当にお気の毒ですよ。一生懸命仕事をして必死になってお子さんを育ててたのにね」
「ぼ、ぼく、は、も、もと、ぎ、議員」
「議員なのに質問もロクにせず、大臣になってもポエムしかいえない方だったんですよねえ、それでお高い議員報酬で、実に羨ましい。私なんて、やらなくちゃいけない嫌な仕事なのにお給料、ほんと、少ないんですよ」
「ぼ、ぼくの、ち、父は、元、そ、総理」
「はあ、そうですねえ。“医者がいるから患者が増える”とか謎理論言い出した、あのお調子者の方ですよねえ。ほんと、あの方とお仲間のせいで、酷い有様ですよ。あれから医療とか社会保障散々ですねえ」
「な、なにが、い、言いたい」
「あー、つまりですね。今回のトリアージは、特殊なんです。治療不可能ってのを、選別するだけじゃ足りないんですよ。このウイルス、感染力は強い、変異は早い。ついに重症化しやすい変異株も入ってきちゃいましたからね。それも貴方方、前政権の方の入国検査緩和の決定のおかげでね」
「ううう、け、けいざ…い」
「経済回すったって、病人ばかりで金使うんですか。死人と病人ばかりになったら、経済どころか国がなくなる。こんな根本のこともわからないんですか。まあ素直に議員報酬返上その分国民に金配るとかしてくれりゃあよかったのにね。財界も政界もマスコミもホント目先のことしか考えないおバカさんばかりだからこうなったんですけど」
「う、バ、バカに」
「愚かなことしかしてないんだから、バカにされたってしょうがないとは思いますけどね。もっとも国民だって、政権太鼓持ちのコメンテーターやら、新聞やらを鵜呑みにしてるんですから同罪かな。なにしろ内容と真逆のタイトルつけた記事をロクに読まずに隣国を非難してるんですから。ちょっと調べりゃタイトルがミスリードだってわかることも多いっていうのにね。ああザンケイでしたっけ、第一報がほとんど思い込みか間違いの記事で、あとでコッソリ訂正記事出してたアレ。新聞と言えない内容なのに安いから買う人多かったんですよね。つじつまの合わないことばかり書いてるのに熱心に読んでた読者のほうもどうかとは思いますけど」
「だ、だから」
「あー、すいません。私はどうも前置きが長すぎて、いけないですね。これでよく注意されるんですよ。要は貴方方、与党議員とか、その支持者とか、元首相の後押しした衛星野党の関係者とかが対象になったってことですよ」
「た、対象?な、何の?」
「あちゃ、今度は端折りすぎましたか。特殊トリアージの対象です。だって、貴方方がこの事態を招いたんですよ。学者の言うことも聞かないし、医者の言うことも無視。だから重症化したとき、治療の対象から外すってことです。だって、医療崩壊の原因をつくり、その対策もロクにしなかったのはほかならぬ貴方方、そして貴方方を後押しした人たちだから」
「そ、そん。ひ。酷い」
「はあ?何言ってんです?自分らがやったことの結果でしょう?自己責任ってやつですよ、医者減らせって言ったのは貴方方。医療、介護ケアに従事する者を大事にする政策を行わず、利権に走ったのは貴方方でしょ。それを支持した貴方方支援者だって同罪。そんな方助けてどうすんです。助かって改心する?医者増やして社会保障充実させ福祉向上と化してくれるんですか?そうじゃなさそうですよね、また同じことするんじゃないですか、お仲間の利権重視、エッセンシャルワーカーなんてやりがいだけ感じさせといてお金はやらないつもりでしょ。実質、医療崩壊してもまだなんたらキャンペーンやめなかったぐらいだから。貴方のお父さんから始まった医者減らし、病院減らし。ほんと元与党の方々は保健所すらも減らしましたからねえ」
「そ、それは、ざ、財源」
「はあ?元総理達の官房機密費とか、政党助成金とか0にすれば、それぐらい出せたんじゃないですか?医者とか保健所はまさにこういうときのためにある程度数を確保しなければいけないんですよ。急に増やせるもんじゃない」
「で、でも、け、景気、後退」
「だから、バブルの時に土地なんかバカみたいに買わずに、先を見越して人材投資とか研究投資でもやっときゃよかったんですよ。そうすりゃ、その後の備えになったんですよ。景気だって緩やかに回復し続けたかもしれませんよ、自然エネルギーとか新技術、科学技術と若い研究者、技術者とかに投資してりゃね。ためというか、余裕持たせとかないと緊急事態に対処できない。そういや昆虫界で成功収めたのはアリだそうだけど、働きアリの4割は普段怠けてるんだそうですよ、いざというときの保険でね」
「ご、ふ」
「ああ、また余計なおしゃべりしちゃったよ。だけどねえ、貴方方のせいで、ホント大学うけても性別で落とされるし、全く散々だわ。オッサンどもなんていなくなればいいんですよ。そういえば働きアリって、みんなメスらしいですよ、オスはすぐ死んじゃうんですって、オッサンなんていらないんでしょうね、役立たずで。そういえば育児とかしてたんですか、貴方、育休中夜中におむつ代えたりミルク飲ませたり。してなかったら要らないですね」
「あ。ぐう」
「そろそろかな。ホントはもうちょっと前にモルヒネ打って楽にさせなきゃいけないんだけど。まあ医者になれないのは性別だけってわけじゃないかもね、私。あ、いっとくけど、この作業は今や特別法案で、この緊急時のみに認められたものです。通常医療従事者以外は行えません。特殊トリアージ従事者である付添人のみが、行えるものです。一応言っといたからねえ」
「…」
「あ、逝っちゃったか。まあ注射うったからいいよね。さて、次は衛星野党のあのオッサンたちか。ホント、病院統合だの、やっといて、守るべき市民をトリアージするなんて、ふざけるなよって感じよね。まあそんなの支持した、あの自治体の奴等もだけど。さっさと楽にさせてあげて、本当に救うべき人を救える手伝いをしなくちゃね」
息絶えた男の死体を袋につめながら、付添人の女性はつぶやいた。
とある国では、利権だの、ナンチャラ構想投票強行だので、大変なことになりつつあるようですが、なんで医療とか社会福祉を軽視したんでしょうねえ。医療費増大を懸念するなら、未病とか予防とかに力を入れ、貧困層なくして教育程度高くして、市民に稼いでもらった方が良かった思うんですが、目の前の絵にかいたニンジンだか餅だかにまどさわれたんでしょうかねえ、国民も政治家も。