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69.後輩

 僕は荒れ狂う業火の中にいた。残っている魔力でなんとか体を保護するが炎は時間の経過と共に身体を蝕んでいく。


(もう……エトと会うことは出来ないな)


 別れる間際にエトが見せた泣き顔が頭にこびりついて離れなかった。自分はちゃんと笑えていただろうか。無事に脱出出来ただろうか。不安はたくさんあった。


(あとはイリアとジークが面倒見てくれるよね)


 炎に身を任せる。すでに地獄犬は力尽きていた。あと数分もすれば僕も隣に並ぶ事になるんだろう。


(お父様、お母様ごめんなさい。こんな親不孝もので。お父様達の仇をうつ事も出来ませんでした)


 身体中が一気に熱くなった。防御魔法が解けたらしい。死ぬのは怖くなかった。暗殺者などという職業柄、任務に失敗して死んだ人達を何人も見てきたから。


 こういっちゃなんだけど死ぬのは構わない、でもエトと会えなくなると思うと悲しくなるのは何故だろう。


 炎に向かって手を伸ばしてみる。


「うぐっ!」


 指先から燃え出した。でも声は出さないよう必死になって我慢した。声が外まで聞こえる筈は無いのに……こんな情けない先輩の声を聞かれたくないと思ったから。


(今日は我慢してばっかりだったな)


 目を伏せると頭に映像がなだれ込んできた。


 人は死ぬ時に走馬灯が見えると言われている。僕の場合、最近の事が多かった。エトと暮らした日々、何気ない買い物、二人で仕事をした時、僕は思ったより彼女の事が好きで楽しい日々を過ごしていたらしい。


(こんなに笑ってたんだな)


 初めてギルドに来た時の僕は全く笑わなかった。でも長い時間をかけてイリアはそんな私の心を和らげてくれた。僕も人並みに笑えるようになったのだ。


(次は僕の番だと思ったんだけどな……仕方ないか)


 出来る事ならまだ一緒にいたかった。色んな事を二人でしたかった。でももうそれも叶わない。


 それに僕もエトも同じ復讐者だ。復讐を果たすまでは日常に戻れない、いや復讐を果たしても日常には戻る事は叶わないだろう。


「あ、あぁ」


 涙が止まらなかった。なんで泣いてるかなんて分からない。でも僕は確かに嗚咽を漏らしていた。


「しにたく…………ないよ」


 まだ死にたくなかった。復讐なんて捨てて一人の女の子として生きたい、初めてそう願った。そんな事思ってももう遅いのに。


 炎が迫る。もう時間だ。


 僕は目を閉じた。



「ぎりぎり間に合ったな。手間かけさせやがって」


「え?」


 声のする方を見上げると僕を守るようにジークが障壁を張り、炎を押しとどめていた。


「どうやってここに?」


「ゴリ押しで来ただけだが?」


 首を傾げるジーク。ありえなかった。ジークには火傷一つないのだ。


「ほら、お前を待ってる奴がいるんだ。帰るぞ」


 ジークが手を伸ばす。その手を易々と取れるほど、僕はジークに心を許してなかった。


「……なんで僕を助けるの? 前は僕がどんなに頼んでも見殺しにしたくせに」


「……それはお前のパートナーだったカルアの事か?」


 僕には一年前パートナーがいた。たった三日だけの。


「そう。あの時お前は僕のパートナーを切り捨てたんだ! あの日を忘れた事なんてない!!」


「…………」


「ねえ、答えてよジーク。僕を助けるのはエトの先輩だから?」


 前々からジークがエトの事を特別視しているのは分かっていた。たぶんエトの生まれに関係してる事なんだろうけど詳しくは知らない。でも見過ごせない何かがあるんだろうと言うことは分かる。


 僕の言葉にジークは激しく否定した。


「そんなんじゃない。お前は大切な部下だ」


「それ、本気で言ってる? だったらなんでカルアは……」


 三日間だけだったが、彼女だって立派な黒猫の一員だった。


「一人の為に多くの犠牲を払う事は許せなかった。あの戦いでギルド黒猫は大打撃を受けた。最悪全滅の目まであった。だけどカルアがいたから、カルアの能力があったからこそ今の俺たちがいるんだ」


 僕の、本当の初めての後輩(パートナー)はギルドのみんなを守る為に死んだ。


「―――っでも!」


 ジークが話は終わりだと言うように結界を指差す。


「選べ。生きるか死ぬか」


 ジークが作った結界は炎の熱に耐えきれず壊れ始めていた。


 僕の答えは決まっていた。あの子の笑顔をもう一度見るために。


「そんなの決まってる。僕は生きるよ! 僕を待ってる人がいるんだからね」


「それでいい。アルマ……カルアの仇は何年かかっても俺がとる。だから今はそれで許してくれ」


「……分かった」


 ジークに抱き抱えられ障壁で造られた結界を出る。ジークが進むと炎が自然と避け、道がつくられた。


 超能力?? やっぱりジークは底が知れなかった。


(父が死んで、母が殺されてから二年間ジークの元で暮らしてたけど、未だにジークの心の内が読み取れない。彼にだけは僕の能力が通じない)


 あっという間に炎の中から抜け出した。呆気なかった。僕は一応助けてくれたお礼を言うために向き直る。


「げぼ、げほっ」


 ジークが口から血を吐き出していた。


「ジーク?!」


「気にするな、いつもの事だ」


 口元を抑えながらジークが心配ないと告げる。手には大量の血液が付着していた。


 そしてジークの隣になんの前触れもなくフードを被った男性が現れた。


(僕たちに装備を届けた人だ!)


「ジーク様、力の使い過ぎです!」


「すまんな、心配をかける」


 フードの男がジークに薬を手渡す。


「あの、ジーク……」


 ジークは早く行けと僕を促す。


「ほらあいつがお前を待ってるぞ」


 それだけ言い残すとジークは支えられながら去っていった。


 僕は反対側にいるエトの元へ向かった。


 近くまで来るとエトは炎を見ながら涙を流していた。


「……せん……ぱい」


 エトは僕が死んだと思ったらしい。その瞳から大粒の涙を溢し続けている。


 ついつい悪戯心が働いてしまった。


「エト! 勝手に僕を殺さないでね」


 エトが驚き「ふえ?」と声を漏らす。辺りを見渡し僕を見つけると泣きながら走り出した。


「せんぱーーーーーーーいーーー!!」


 思いっきり抱きつかれた。そして健気に僕の体にすりすり身を寄せてくる。


「ただいまエト」


 エトが僕を真正面から見つめる。目の下が涙のせいで腫れていた。でも最高の笑顔だった。


「おかえりなさい先輩」


 僕の帰るべき場所はここだ。その事を深く心に刻み込んだ。


 彼女にはやっぱり笑顔が似合う。


ここまで読んで頂きありがとうございました!


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 皆様の一手間が更新の励みになります、どうぞこれからも宜しくお願いします!!


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