48.休息
暫く、ほのぼの回が続きます。
初めての任務から一週間ほど経ち、町のほとぼりも冷めた頃。私と先輩は、帝都で一番美味しいと噂されているパンケーキ屋に向かっていた。
帝国の一番街と言われる程、栄えているここ〈ヘスア〉では、人や物で溢れかえっており、他国の観光客も大勢来る。
そして町の至る所に様々な屋台が立ち並び、お客をおもてなししている。
そんな大通りを歩く私達に売り子が近付き「新鮮な果物はいりませんか?! 美味しいですよーー」などと言いながら執拗に言い寄ってくる。
新鮮なんだから美味しいに決まってるじゃん。と言ってやりたいが、瞳をうるうるさせながら、服を引っ張る年下の少女を見ているとそんな気も失せてしまう。
これが店主達の狙いなんだろうが……全く汚い大人達がいるもんだ。
「えへへー。可愛い子だねー。お姉ちゃん達にお店を案内してくれるかなぁ」
これに引っかかる大人もどうかと思うが。先輩は少女の頭を撫で撫でしている。
少女は嫌がる様子もなく、逆に喜んでいるようにも見える。可愛い。
一応十五歳で成人してるんだから、そういう所をもっとしっかりして欲しいと思うが……まぁ、子供の誘惑には勝てないよな。私も少女のほっぺたをふにふにしてるんだから。
私は、みにょーんと伸びる少女のほっぺたを心ゆくまで堪能する。
なにこれ、本当に人間の皮膚なの? 手触りもよいし、それに凄い柔らかい。
私も子供の頃、近所のおばちゃんによく可愛がられてたっけ。確か、ほっぺたも触られてた気がするな。私はお菓子が貰えて万々歳だったけど。おばちゃんもこんな気持ちだったのだろうか……。
「こんな時代もあったんですねー」
「なに、年寄り染みた事言ってるの? たぶん僕よりエトの方が重症だよ」
私の両腕には、売り子ちゃん達によって買わされた串焼きや雑貨類など沢山の種類の食べ物が山のように抱えられていた。
「仕方ないじゃないですか。次から次へと寄ってくるんですから」
「エトが全部買っちゃうから、寄ってくるんだよ! 僕も人の事は言えないけどさ」
ジークから貰った依頼達成のお給料、パンケーキ屋に行くまでに無くなっちゃうよ。と付け足した先輩に私は笑顔で肩を叩く。
「勿論、パンケーキ屋は先輩の奢りですよね? それに私のベッドも買って下さりますよね??」
「うっっ。考えておくよ」
そんなこんなでその後、四、五軒売り子ちゃん達に振り回される羽目になり、給料の半分が飛ぶ事になった。
ちなみに買った物は、量が量なので流石に持ちきれない為、アイテム袋に収納した。やっぱり便利だよねアイテム袋。
売り子の子供達には、少しお菓子をあげつつ、もう持ちきれないという理由でなんとか逃れた。
途中、いかにもヤンチャそうだが、顔は整っているお兄さんが話しかけて来たが、私も先輩も全力で無視した。
無視され堪えたお兄さんは、肩を落とし、しょぼしょぼと帰っていった。まぁ、すぐに別の子に声掛けてたけど。
「随分寄り道しちゃったけど、なんとか辿り着いたね〜」
「そうですね。すぐには入れそうにないですが」
パンケーキ屋は、民家の一階と二階を使って営業しているが、私たちの想像以上に大盛況なようで、中に入るのにも簡単にはいきそうにない。
外まで並んでいる長い行列の遥か後ろの方を見ると、最後尾はこちらと看板を持った若い店員が立っていた。
「げっっ。これは相当な時間がかかりそうですよ。どうします? 帰りますか?」
先輩の事だから、どうせ「帰る!」とかいうのだろうと予想し、半端諦めかけていると。
「いいや、ここまで来たから並ぼう!!」
「珍しく、先輩がやる気を出してる?!」
そして、先輩は遥か後方に見える店員を指差し。
「ここは後輩のエトが、偉大なる先輩である僕に代わって並んどいてね! 僕は適当に時間を潰してからくるから」
とんでもない事言いやがった。先輩はもう回れ右して、その場から早々に立ち去ろうとする。
「ふ、ふざけないで下さーーーい!!」
「わっ、街中でビリビリはやめてーー!」
その後、大人しくなった先輩と仲良く並び、やっと店内に入るとが出来た。
「大変お待たせしましたーー! 今、席にご案内しますね」
店員のお姉さんが忙しなく動き、私達を案内する。その後ろ姿は今にも倒れそうだ。こんなに人気だと人手が幾らいても足りないだろうなー。
私と先輩を席へと案内すると、お姉さんはすぐさま次のお客の所へと向かっていった。
「ここの店員大変ですね。同情します」
「僕もここで働いてたから、あの人の気持ちはよく分かるよ」
「そうなんですか……えっ! ここで働いてた? ぐーたらな先輩が?!」
「……僕をなんだと思ってるのさ。まぁいいや早く注文決めよ」
「はっ、はぁ」
まさか先輩が普通の店で働いていたなんて……信じられない。
私たちはテーブルに置かれていたメニューを開き、私と先輩は、オススメと大きく書かれているパンケーキを選択する。
注文してから数分後。出来立てほやほやで、ほんのり甘い香りが漂うパンケーキが運ばれてきた。ほどよい焦げ目がつけられており、温度調整もばっちりなんだろう。
パンケーキを取り分け、口に放り込む。ハチミツやバターなどをつけていないのにも関わらず、口の中一杯に甘さが広がり、パン生地はふんわり溶けるように柔らかい。外はサクサク、中はアツアツで食べ応え満点だった。
「先輩、長時間並んだ甲斐がありましたね。このパンケーキ凄いおいしいです。先輩はどうで……」
「あふっ。あふっ。みずーぅぅ」
先輩はゴクゴクと水をかぶのみしていた。どうやら先輩は猫舌らしい。
「ふーー。ここのは相変わらず熱いなぁ。賄いで出るのは冷たくて丁度いいのに」
「成る程。つまみ食いして仕事をクビになったんですね」
「違うし! それにエトも明日から、ここで暫く働くんだよ」
「へっ?」
私は口に運んでいたパンケーキをぽろっと落としてしまった。
「なっ、なぜ?」
「そろそろエトも本格的に始めないとね。表の仕事って奴を」
何故かドヤ顔の先輩だった。
来週まで、週一更新となります。
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