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37.エトの1日 暗殺者編

3章プロローグに挿絵追加しました。

 暗殺者ギルド【黒猫】に入ってから一ヶ月経ちました。今、私はアルマ先輩と同じベッドで寝ています。


「うーん。むにゃむにゃ、もう食べられないよー」


 アルマ先輩がまた寝言を言いながら、寝返りをうちました。


 ゴロン、ズシッ。


「げふっっ! く、苦しい、そして痛い」


 ご覧の通り、先輩は物凄く寝相が悪く、私はおちおち眠れません。


 何故、こんな生活を送っているのかというと少し時間を遡ります。


 ◇◇◇


「改めまして、エト・カーノルドです」


 私はジークの部屋に呼ばれ、これから私の教育係になる者と顔合わせをした。


「僕が君の担当のアルマだよ、これからは先輩って呼んでね」

「はい、アルマ先輩」


「うん、いい響きだね!」


 先輩は私に呼ばれてとても嬉しそうだ。

 とてもさっきまで嫌だ嫌だと癇癪を起こしていたとは思えない、尻尾が生えてたらたぶんフリフリしていた事だろう。


「よし、挨拶が済んだ所でこれからの事を説明するぞ、まずお前が住む場所は今アルマが住んでいる所だ」


「えっ? つまり同居って事ですか?」

「まぁ、そうなるな。お前だけの家を探してやりたいが暗殺者が住むのに丁度いい家はすぐには見つからないから、ひとまずアルマの家で過ごしてくれ」


「分かりました」


 ジークは椅子に座り、葉巻を吸いながら話す。その煙が私の鼻や目にかかる。げふっ!


 ちょっと!! 私は、葉巻から出てくる煙が苦手なんだからやめてほしい!


 私が抗議の目で見つめていると、すまん、すまんと言いながら葉巻をしまってくれた。


 よし、許そう。


 横からチョンチョンとアルマ先輩が脇腹を小突いてきた。

 くすぐったい。


「私の家に居候するんだから、家事全般やってよね」

「え? は、はい分かりました」


 私が返事をすると「やったー」と飛び上がって喜んだ。


「あぁ、それがいいな。エトはメイドやってたんだから、そういうのは得意だろう。こいつ、まじで家事が出来なくて家をゴミだらけにするからな」


 それって結構やばくない?


「はぁ、そうなんですか」

「あと、俺に対しては他に人がいない時は敬語じゃなくて構わない、その方が楽だろう」

「じゃあそうさせてもらうね」


「僕も敬語じゃなくていい〜?」

「お前は敬語じゃない方が多いだろうが!!」


 ポカンとジークに頭を叩かれた。


「痛っーい! エト、なんかこのクソ野郎に言ってやって」


 えぇ、今のは自業自得だと思うけど。


「ジーク、女ノ子ニ暴力ヲ振ルウノハヤメタラ」


「なんでカタコトなの!!」


「安心しろ、暴力じゃない、教育だ!」

「あぁ、それなら仕方ないね」


「ちょっと諦めるの早くない、僕、先輩だよ、もっと崇めて敬ってよ」


 なんだろう、この小動物感は……プンスカ怒る先輩の事を全く敬えない。


「こいつ、小動物に見えるだろう?」

「それは同感」


「僕を馬鹿にするなー!!」


 そんなこんなで私はアルマ先輩と同居することになった。


 先輩の家は町外れにある、2階建ての一軒家で外見は派手過ぎず、地味過ぎず、存在感があるようで無いような家だった。


 家に初めて入った時は、凄かった……まず物の散らかりようが異常で、家の片付けに三日、掃除に五日、整理に一週間かかってしまったが、なんとか人が住める空間にはなったと思う。


 よくこれで生活できていたなと感心してしまう。


 ちなみに私が片付けをしている間、先輩は椅子に座っているだけだった。


 先輩もゴミと一緒に捨ててあげようかと思ったが、小動物虐待として、ギルドメンバーに捕まりそうだったからやめた。


 そんなこんなで住みやすくなったが一つ問題が発覚した。


「なんでベッドが一つしかないんですか……」

「うーん、節約?」


 そんな小首を傾げて可愛く言っても無駄だよ。


「買いに行きましょう」

「お金は誰が払うの?」


「それは勿論先輩ですよ、私お金持ってませんし」


 だって家潰されちゃったもん。


「やだ! 第一ここは僕の家なんだし、家に住ませてあげるんだからベッドくらい我慢したら? 図々しいよ後輩のくせに」


 その後輩に家の片付けをさせて、自分は呑気に紅茶を飲みながら読書してたのは誰でしたっけね? 

 その紅茶を注いだのも私なんですよ。


 私が笑顔で先輩を脅迫する。


「と、とにかくエトが一人前になってお金を稼ぐまではダメだからね。ちゃ、ちゃんとベッドを置くスペースも用意してあるからいいでしょ?」


 そのスペースを作ったのも私なんだけどなー。


「……分かりました。その代わり一人前になったら覚悟して下さいよ」


「そう簡単に一人前になれるとおもうなよー!」


 その日から私は暗殺者としての訓練を開始した。ジークの言っていた通り、普段はダメな先輩でも訓練となると全然違った。


「だめだめ、全然足音消せてないし、魔力漏れもしてる、そんなんじゃすぐに見つかっちゃうよ。はい、もう一回」


 私の朝は気配を消す練習、昼はチラシ配りなどの正規の簡単なお仕事、夜は先輩と実践練習、深夜はジークが書いた暗殺者としての心得の本の暗記を行った。そこには暗殺者として不測の事態に陥った時こそ落ち着いて行動する事が大事などの様々な事柄が書かれていた。


 心得っていうより教本みたい。


 私は本を閉じ、先に寝ているアルマ先輩の横へと入り込む。


 先輩……また境界を破ってる。



 これは初めて同じベッドで寝る時の話だ、それまで宿で寝泊りしていた為、初めて先輩の家で寝る。


「僕は先に寝るけど、ベッドのこっからここまでが僕で、こっちからここまでがエトの分だからね」


「あの、あんまりじゃ無いですかそれ、そのスペースじゃ座る事しか出来ませんよ」

「だったら座ればいい!」


 ははっ、ぶち殺してやろうか?


「そうですか……」

「わっっ! ビリビリは禁止、分かったよ半分こにしよう」


「最初からそう言えば良かったのに……」

「だってこのベッドは僕のベッドだよ、僕に優先権があると思うんだ」


「グチャグチャになってたシーツを取り替えたり、ベッドのメイキングをしたのは誰でしたっけ?」


「ぐっ、そういう事なら仕方ないな半分だけ譲ってやろう」


 だからなんで先輩はこんなに上から目線なんだろう。



 これがその時あった話し合いだ、ちゃんと決めたにも関わらず、今日も先輩が私の領域に侵入してきている。私は意を決して先輩をどかし潜り込む。



 あぁ、先輩の温もりであったかい、これならすぐに寝れるな。



 明日はジークが私の仕事着を持ってきてくれるらしい、どんな物か今から楽しみだ。そしてディカイオンの情報についても……。


 その時ゴロンと先輩が寝返りを打った、またかと思いつつ、先輩の足をどける。すると何を思ったか、先輩が後ろから抱きついてきた。


「ふにゃーーん。むにゃむにゃ」


 うーん、完全に寝ぼけて私を抱き枕か何かと勘違いしているらしい。


「うーん、いい匂いがするぅ〜」


 先輩が私の背中にすりすりしてくる。


 やめてよ先輩の甘ったるい匂いも、私の保護欲を誘ってくるから思わず抱きしめたくなっちゃう。


 すると先輩の腕が私の肩から胸に伸び、がっしりと掴まれた。


「んんっっ!」


 私は必死に声を堪えた、先輩は私の服を弄り、私の肩が丸見えになってしまった。


 この人、わざとやってるんじゃないのと思ってしまう程、動きが手慣れていた。


 もしかして、この癖で相棒がいないとか? まっさかねー。


 ……でも否定も出来ない、明日ジークに聞いてみよう。


 私は胸や肩、太腿を触られながら、シズルとお風呂に入った時の事を思い出した。


 シズルもこんな気持ちだったのかもしれない、今になって私はあの時のシズルの気持ちを理解するのだった。


「今、何してるのかなシズル……。生きているとはジークが言ってたけど酷い仕打ちを受けてないといいな」


 私は置いてきてしまった親友の事を思い浮かべ少し涙してしまった。


 いけない、いけない、暗殺者に私情は厳禁、感情を殺さないとな。


 私も寝返りをうち、先輩と向き合うとちょっとだけ髪を撫でてから眠りについた。


 その夜は先輩の腕から解放される事はなかった。


ここまで読んで頂きありがとうございました!!


 暫くほのぼの回が続くかと思います。ほのぼのタグは伊達じゃないと言う事ですね、はい。


ブックマーク、評価、感想、レビュー、紹介、リンクなど、もろもろ全て歓迎致します! 


 皆様の一手間が更新の励みになります、どうぞこれからも宜しくお願いします!!

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