ミシェラの悲劇
ミシェラさん視点です。
俺の名前はミシェラ、しがない料理長さ。俺はとんでもない事をしてしまった。貴族に出す食材に毒を盛ってしまったのだ。別に恨みがあってやった訳ではないアルティー様に言われて仕方なくやったのだ。
俺の家はアルティー伯爵家に多大な恩がある。食堂を経営していたが、いよいよ客が来なくなり家族で首を吊るしかなくなった時に彼女はやってきた。そして彼女のコネのお陰で料理長にまで上り詰めた。
今、俺が彼女に逆らったらすぐに元の貧しい生活に戻ることになるだろう、そうなったら幼い娘達を養えなくなってしまう。経歴にも王家の料理長をクビにされた跡がつき、どこに行っても雇って貰えなくなるだろう。
最初は王女様に毒を盛るのかと思ったが違った。アルティー様は自分に毒を盛れと言ったのだ。毒は猛毒ではないと説明された為、大量殺人にはならない言い、自分も死ぬ事はないから心配するなと言われた。
誰も死ぬ事はないと言われたので俺は大人しく従った。だがそれが悲劇を起こした。
暫くしたら、毒……薬の効果が分かった。俺はアルティー様が死んだ事になった時にすぐに意図が分かった。これを俺が伝えていれば、カーノルド家のお嬢さんも苦しむ事はなかっただろう。決して口外するなと言われてはいないかったが誰かに話したらどうなるかは想像がついていた。
よくてクビにされ、悪くて消されるだろうと。
俺は悔やんだ、貴族に出した料理にも同じような毒が入っていたらどうなるのかを国中が混乱するだろう。夜中、俺がこの事を王族の方々に処刑を覚悟で伝えに行こうか迷っていた時、そんな俺の心の内を読むかの様に奴等はやってきた。
「お前が料理長のミシェラだな」
「あなた方は?」
「お前が知る必要もないが、ローラ様の部下とでも言っておこう」
「……そうですか、私はどうなるのですか?」
二人の男は大きな麻袋を持っている。なんとなく想像はついていた。
「これが気になるか? これはお前用の袋だぜ」
「あぁ、そしてこうなるのさ」
男達は俺を強引に麻袋に入れると、何発か蹴り、俺が大人しくなった所で担ぎ何処かへと連れて行った。
正直遅かれ早かれこうなるとは思っていた、罰を受けるのだと考えれば納得できた。しかし幼い娘達だけが心残りだった。
今から思えば、アルティー様は帝国と最初から繋がっていたのだろう。
俺はどこかジメジメした場所におろされた、そこが死体安置所だと気付くのは暫くしてからだった。
どこかで聞いたような男の声が聞こえてきた。いや聞き間違がえる筈がないこれは近衛騎士団団長の声だ! まさか彼が黒幕だったのか?!
暫く話を聞いてると、どうやら裏に帝国の第一皇子がいると言うことが見えてきた。俺は何とかしてこの事実を誰かに伝えなくてはともがいたが、アルヤスカ様が燃やせと命令し俺の上に重い何かがのしかかってきた、それが死体だと気付くのにはさほど時間は掛からなかった。
「どっちかは俺について来い、もう一人はここがしっかり燃えるのを見届けてから来い」
「「了解致しました」」
暫くすると火が放たれた。俺の所にまで火が届くのは時間の問題だ。暴れていると麻袋が破けた、しかし外には部下が見張っている、どうしたもんかと思いポケットを探ると調味料である胡椒が入っていた。どうやら入れっぱなしにしてしまっていたらしい。
そこで俺は考えた、この胡椒を上手く使えば逃げれるかもしれない。火の手はすぐそこまで迫ってきている。
今しかない!! 俺は飛び出した。
「なっ! 死に損ないが!!」
「死んでたまるかーー!」
俺は無我夢中で胡椒を投げつけた。
「うえっ、げほっげほっ」
命中し男はむせた。
「ううっ目に入った。ゲホッ」
残念ながら俺もくらってしまったが。
這いつくばりながら俺は上へと上がる階段までなんとかやってきた、煙も充満してきている、ここもそろそろ限界だ。
「待て!」
男が階段の前に口を抑えながら立ち塞がり、腰の剣を構えた。
俺には武術の心得はない。
「くそ、すまない……父さんは帰れそうにない」
俺は死を覚悟した。と同時に死をすんなり受け入れる事ができた。それはこのまま生きていても罪悪感にいつか押し潰されると思ったからだ。それなら潔く死んだ方がましだ。
男が剣を振るおうとした次の瞬間、男の体が崩れ落ちた。
「大丈夫か?」
優しく声をかけてきたのは、三十くらいにみえる貴族風の男性だった。
「貴方は?」
「俺はルシア・ディクトリスという者だ。訳あってここに来てるんだが一体どうなってるんだ」
「それは……」
俺は自分の知りうる限りの情報を教えた。自分の罪も含めて。
「そうか、あんたは悪くないよ。悪いのはこの計画を企てた連中なんだから。しかし不味いな、俺の教え子達がだいぶ巻き込まれているようだ」
教え子? もしかしてアルティー様が言ってらっしゃった先生?
「教え子と言うのは、エト様達の事でしょうか?」
「お前知ってるのか?!」
「はい、少しご縁がございまして」
「よし、詳しい話はひとまずここを出てからだ」
「分かりました、上はどうなっているのでしょう?」
「乱戦状態だな、上手くあいつらを見つけられるといいんだが」
階段を上がるとルシア様の言った通り、あちこちから怒号や悲鳴が聞こえた。
なんて事だ! 俺が毒なんか盛ったばかりに。
「もう一度言うがあんたのせいじゃねえ。俺はここの地形に詳しくねぇからあんたがエト達の所に案内してくれ、そこに王女様達も居るはずだからな」
「分かりました。貴方は貴族様なのですか?」
「俺か? 俺は貴族じゃねえぞ。ただの通りすがりの冒険者さ」
一見貴族に見えたお方は貴族ではないようだ、だが、漂う高貴な風格はどう見てもただの強い冒険者とは思えなかった。
「護衛は俺がする、お前は案内に集中してくれ」
「私は城は案外できますが、王女様達がどこにいるかまでは見当がつきません」
「んっ、そうか。だったら居そうな場所を……」
「私が案内します。ルシア・ディクトリス様」
突如、後ろから声をかけてきた少女は第一王女様の専属メイドの一人だった。
「お初お目にかかります。カノン様の専属メイドであるフリーダ・ジェロシーです」
ルシア様は急に現れたメイドに少し目を見開かせて驚いた。
「そうかお前が……どうやら俺の教え子と喧嘩して負けたみたいだな」
フリーダ様の体のあちこちには、雷で焼かれた様な傷跡が残っていた。
これはエト様によるもの?
「えぇ、酷くやられました。でもそのお陰で何が大切かを思い出しました」
「そうか……ならお前が案内してくれるんだな」
「はい、任せて下さい」
「よし、ミシェラさんは結界の抜け道から逃げてくれ場所は教えておく」
「待ってください、私も償いがしたいのです!」
「だが危険だ。連れて行くわけには」
「ではミシェラさんは、逃げ遅れた同僚方を結界の外に避難させて下さい。こちらの方がまだ危険は少ないでしょう」
「あぁじゃあそうするか。頼んだぞミシェラさん」
「お任せ下さい。一人でも多くの人を救ってみせます」
「頼もしいな、よし行くかジェロシー」
「はい案内はお任せ下さい」
ルシア様とフリーダ様はあっという間に見えなくなった。
俺もこうしちゃいられない、一人でも多くの人を助けなくては。
俺は夜の城に飛び込み、逃げ遅れた非戦闘員の避難誘導を行った。夜が明ける頃には、半分くらいの雇われメイドや料理人が結界の外に脱出する事が出来た。
しかし半分は巻き込まれ手遅れになっていた。
城は不気味に静まりかえっていた、ルシア様達もあれから戻って来ない。一体誰が勝利したのだろう。 俺達は崩壊し、あちこちから煙を上げている城をただ見上げていた。
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