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【本編完結済み】普通のメイドだったけど王女を失って暗殺者になりました  作者: 水篠ナズナ
2章 絶望と惨禍の始まり

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34.氷の姫と奪う者

矛盾点はない筈です……筈。2/2

 城では一人の少女が帝国兵や宰相側の王国兵を凍てつかせながら兄を探していた。


 そう、カノン様だ。


「アレン兄様ーー! 返事をして下さい」


 カノン様は焦っていた。少し前から兄アレンの魔力反応を感知出来なくなっていたからだ。その時カノン様にとっては聞きたくない声が聞こえて来た。


「もう、アレン君は返事をしないと思うよ氷のお姫様」

「ユアン・バルドニア・アルター! 第一皇子である貴方まで来ているの?!」

「うーん、厳密に言うと今の僕は皇帝だよ。まだ正式じゃないけどね」


「皇帝?ッ! 貴方まさか……自分の父を……」


 おやおや物分かりが良いとユアンは愉快そうに笑う。


「ふふっ、兄妹を全員殺して第一皇子になり、父を殺してさっさと皇帝になる。ここまでは予定通りだったよ。それにしても今回はイレギュラーが多いね、エト・カーノルドや君が五体満足で生きているだなんて」


 ユアンの答えにカノン様は首をかしげる。


「今回とはどういう意味? エトを知っているの?」


「あぁよく知っているとも、二回目の時に何度も邪魔されたからね」


 今回……二回目……カノン様はユアンの言葉の意味を図り一つの答えに辿り着いた。


「貴方……まさか別の時間軸の人間?」

「正解だよ、カノン・シュトラス・ディスペラー。僕はこれで四度目なのさ」

「――――!!」


 ユアンは丁寧に説明した。これまで繰り返して来た歴史の中で、起きた事全て。その内容はカノン様を震撼させるものばかりだった。彼は事細かく説明した、いつどこで誰が死に、何が起きるのか。それだけで聡いカノン様は全てを理解してしまった。


「私は……騙されていたというの」


 カノン様はガクッと項垂れる。


「騙されていたというより、そういう風になるように自分でも気付かない内に思考誘導されていたというのが適切かな」

「…………エトは? 貴方がこれまで体験した三度の人生の中でどうなったの?」


 ユアンは楽しそうに答えた。


「エト・カーノルドは時と場合にもよるけど三回とも死んでいる。一度目は僕も知らないけど、今回のを見ていた限り、フリーダ・ジェロシーに殺されていたんだろう。二度目は僕が殺した」


「そんな………三度目は?」


 カノン様は恐る恐る聞いた。


「三度目は―――によってみるも無残な姿にされていたのを見たよ、四度目の今と同じような状況でね」


「まさか―――が裏切っていたというの。それで近衛騎士団が……」


 カノン様はここに来て全てを理解した。


「近衛騎士団は、彼が毒入りポーションを飲ませた事で全滅したんだろうね。信用していたんだろうし無理もない」


「何故あの人が……」

「一応教えておくとね、彼は元々狂っていたんだよ、そしてウルティニアちゃんの暴走の時に影響を受け完全に狂ってしまった。三度目の時に彼を調べたんだけどエト・カーノルドの母と因縁もある事も分かった。加護の影響もあって、二重人格のようになっていたんじゃないかな」


「そんな事知らな……」

「知らないのは当然だよ証拠は全て消されていたんだし、僕が拷問して吐かせたんだから」


 ユアンは拷問という言葉を軽々しく口にした。


「なっ、拷問」

「今の彼とは仲良くしてるから平気だけどね」

「よく一度自分が拷問した相手と普通に接する事が出来るわね」

「まぁ、三度も繰り返してるからね。僕も相当イカれているんだよ」


「自覚はあるのね」


 ユアンは苦笑した。


「今回は宰相とも手を結ぶことにしたんだ。彼だけだと思うよ、この国の現状を理解して行動していたのは。だから僕はそれに乗っかっただけさ、いつ事が起きるかは知っていたからね」


 カノン様は自分はとんでもない思い違いをしていた事に気付いた。まさか自分が疑っていた人こそが国のために動いてくれていたからだ。


「そんな……彼が独自に動いていたのは知っていたけど私達、いやこの国の為だったなんて」


「皮肉だね。少し歯車が噛み合えば、彼と共闘する事が出来ただろうに」


「……あなたの身に、いやこの世界に起こった出来事は分かったわ。なら貴方の目的は何なの?」


「それはね、僕が彼女の力を制御してこの世界を支配する事だよ」


 ユアンは両手を上げて大袈裟にアピールする。


「ろくでもない考えね。そんな事になったらそれこそ世界の終わりよ。いつから貴方はこの時間軸にきていたの?」


「丁度8歳の頃かな。僕が時間を指定したからでもあるけど……あいにく時の魔術師から奪った力は後一回しか使えないのでね。知っての通り固有能力は同じ能力を持っている者はいない、似たような能力ならあるだろうけどね。だから失敗できないのさ」


「この国……世界を乗っとるつもり?」


「この国自体にはそんなに用はないさ、―――に渡す筈だったけど三人で話し合った結果、宰相がこの国を支配する事になったよ。ガルディア王国としてね。シュトラス王国はおしまいだよ」


「そんな簡単に―――が諦めたの?」


「彼は国を動かす気がなかったからねーー。それなら僕にも都合よく動いてくれて戦争に役に立つ宰相の方に国を動かしてもらったほうが良かった。彼もカーノルド家を自由にしていいと言ったら喜んで受け入れてくれたよ」


「成る程ね。なおさら貴方を生かしてはおけないわね。貴方は史実通りになるように動いている。それは文字通り世界の破滅を意味するわ。そうなったら一体どれくらいの犠牲者が出るか計り知れない。私が貴方を倒して、貴方の知っている未来にもさせない」


「「覚悟しなさい」だろ」


「えっ?」

「同じだよ、この会話は三度目の時にも経験した。うんざりするよ何の為に話してやったんだか」


 まさかこの会話もすでに彼は経験していたのかと今更ながら思い当たる。


「どういう事?」


「僕はね本当に君の事が気に入ってるんだよ、だから僕と一緒に世界を支配しないか? 自分が世界の頂点に立てるんだよこんな素晴らしい事他にはないと思うよ」


 どうやら彼は本当にカノン様の事が気に入ってるらしい。


「私の答えは三度目の私と変わらないと思うわ、お断りよ」

「そうか、やはり変わらないのか……この力を使えば全ての魔物を意のままに操れるというのに」


 そんなの願い下げよとカノン様は告げる。


「貴方は魔物の王にでもなるつもり?」


「魔物の王……あぁそれはいいな皇帝なんかよりずっといい。この力を操れるようになったら魔王とでも名乗ろうかな」


 カノン様はため息をついた。


「私と同じ一族ならわかるでしょ? その力が到底、人間には支配できるものではないと」


 それに対しユアンは激しく反論する。


「だから僕は三度も繰り返してた準備して来たんだ!必要な能力も全て用意した今更やめる気はない」


 ユアンにはもう話が通じないと分かったカノン様は戦闘態勢を取る。


「もういい、貴方とは話したくないわ」


 カノン様の魔力が高まる。


「分かったよ、話は終わりだ」


 ユアンがパチーンと指を鳴らした。


 ブシュッ。ズブ、ズブズブ。


「がはっ、げほっ」


 突如カノン様の体を後ろから長刀が深々と貫いた。気配を完全に消し、物陰に潜んでいた暗殺者だ。上を見上げると何人もの刺客に取り囲まれていた。


「話に気を取られすぎだよお姫様」


「うっ……くっ、あ」


 刀は内臓を突き破り、体の中で大量に出血している。口から血を吐き苦しそうにもがく。


「安心しな、エト・カーノルドにも死んでもらうから一人じゃないよ」


「エト……にも他の子……にも手を出さないで」


 ユアンはうーんと唸り考える。


「他のメイドは宰相に渡しちゃったし見逃してもいいけど、エトはだめだね。あの子には忠実通り死んでもらわないと困る。まぁ止めは刺さないから残った時間を有意義に使いな」


 ユアンが立ち去ろうとした時、女暗殺者が進言した。


「ユアン様、アレをお忘れですよ」

「あぁそうだったね、ありがとうイヴ。君の氷の能力頂いていくね」


 ユアンがカノン様に触れた、その刹那カノン様から光が漏れユアンに吸収されていく。


「最後に一つだけ教えてあげる、僕の固有能力は『奪う者』さ。最後に話せて良かったよ」


 ユアンが時を超えたせいでこの時間軸のユアンは固有能力を持てなかった。


 そして8歳になり今のユアンが乗り移った事で能力が発現した。事実は蓋を開けてみれば簡単なものだった。 そしてユアンは自分の固有能力で他者の能力を奪い自分の力にしていく。


 彼の底力は計り知れない。


 ユアンは今度こそ立ち去った、力を失った能力者は補助効果がなくなり間もなく死ぬ事になるだろう。カノン様は目を瞑った、最後に思い出す顔は自分の姉であるウルティニアだった。


「お姉ちゃん……ごめんね、ごめんなさい」


 カノン様はいつまでもいつまでも大粒の涙をこぼし謝り続けた。黒い影が二つ近づいて来ているのに気が付かないほど。



ここまで読んで頂きありがとうございました!!


 2章は残り2,3話の予定です。


ブックマーク、評価、感想、レビュー、紹介、リンクなど、もろもろ全て歓迎致します! 


 皆様の一手間が更新の励みになります、どうぞこれからも宜しくお願いします!!

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