33.逃走劇
今日は2回投稿予定です、二度目の投稿は夜を予定しております。1/2
私はティナ様と共にジュペル森を走っている。アルフレディア公国に向かうならこの森を抜けるのが一番早い。
「エトちゃん。待って、もう走れない」
ティナ様は長時間激しい運動などした事がなかったようなので三十分程走り続けて地面にへたり込んでしまった。それでも三十分も走り続けたのは頑張った方だろう。
「はぁはぁはぁ、ちょと休憩ーー」
ティナ様の呼吸は荒く、体中から汗が滲み出ている。辛そうにしながらも泣き言一つ言わずゆっくり呼吸を整えている。
かくいう私は戦闘系の固有能力で基礎体力が向上している為、少し息が上がって額から汗が流れる程度で済んでいる。
だからといってこんな所で止まっている訳にはいかない。
「ティナ様!!」
私はしゃがみ込み、ティナ様に背を向けた。ティナ様はどういう意味か分からず小首をかしげている。
「乗って下さい」
「あぁそういう事ね。私おんぶなんてしてもらった事無かったよ」
よいしょっと背中に柔らかい感触が伝わる、でも今は堪能している場合じゃない。
「舌、噛まないで下さいね」
「うん!」
私の全力ダッシュに口を閉じなかったティナ様は当然のように舌を噛んだ。
「痛たた……」
忠告したのに……バカなの?
「ふぅっ、ふうっ」
私はティナ様を背負い森を走った、幸いな事に魔物とは直に出くわす事はなかった。私が気配を察知して回避しているのもあるけど。
草木がまばらになってきた、森の出口は近い。
「抜けたー!」
私は森を抜けた。私の記憶が正しければアルフレディア公国が見え、公道に出る筈だった。筈だったのに目の前に見えたのは断崖絶壁の下に広がる広大な森林だった。
「え…嘘、道を間違えた? そんなはずはない! 何度もこの近道は会談の付き添いの時に通っていた道なんだから」
「確かに嬢ちゃんは道を間違えなかったよ」
「誰?!」
後ろを振り返ると立派な髭を生やし甲冑を着た老年のおじさんと武装した兵士に囲まれていた。
(さっきまでは誰もいなかったのに!)
その兵士の姿に見覚えがあった。私はティナ様を下ろし、後ろに下がらせ臨戦態勢を取る。
「嬢ちゃんと逢うのは初めてだな。自己紹介をしよう。儂はアルフレディア公国の騎士団隊長のゴルゾ・マックレイじゃ」
「私はエト・カーノルド。カノン様付きの専属メイドよ。その様子だと助けに来た訳ではなさそうね」
「あぁその通りじゃ。つい先程、帝国のエルバス皇帝の訃報が届いての。それを機に新帝国となった帝国に我が国も帰属する事になったんじゃ。 そして新しい皇帝となったユアン様の命令によってウルティニア第二王女様を捕縛しにきたのじゃよ」
ふぉっほほ、ゴルゾと名乗った老人は朗らかに笑った。その笑みは無害そうな老人そのものだ。
それにしてもエルバス皇帝が死去? せっかく平和の条約を結んだというのに……どちらにせよティナ様を渡す訳にはいかない。
「しかし、まだ正式な皇帝ではないとはいえユアン様はとても聡いお方だ。ウルティニア第二王女様とメイドがここを通ると分かっていたのだから、危うく取り逃がす所じゃった。まぁ公国に辿り着けたとしても結末は変わらんかったと思うがな」
ユアンに私たちの行動が予測されていた? それにこの魔力の流れは一度経験している。
「幻覚を見せられていたのね……」
「その通りじゃ、上手くここまで誘導させてもらったわい。上出来だったぞ」
まさか二度も引っかかるなんて……私、幻覚系の魔法に弱いのかもしれない。
ゴルゾが若い部下を褒める、上官に褒められた若い部下は嬉しそうだ。彼は我が国もと言った。つまりこれは周囲の国全てが敵に回っているということか。
でも何故今になって公国が裏切ったんだろう、先程の話ではついさっき帰属したと言っていたし……いや、今は余計な事を考えるのはやめよう。目の前の状況に打破する事だけを考えるんだ。
「ティナ様は渡さない!!」
「一人で何が出来るのかのー」
先手必勝! 私は彼らに雷剣を向け飛び込んだ。しかし突っ込んだ後に後悔した、後ろで魔導士達が私に気付かれないように詠唱していたのだ。
一斉に魔法が放たれた。詠唱を殆どしない魔法と詠唱をした魔法の威力は後者の方が格段に上がる。
私は咄嗟に防御魔法を張ったが威力をころす事が出来ずそのまま後ろに吹き飛ばされてしまった。
そう崖から落ちてしまったのだ。
「うわあぁぁぁぁぁぁーー!」
「エトちゃーーーーん!!」
崖の上から見下ろすティナ様がどんどん小さくなっていった。
「これで邪魔者はいなくなりましたな、私達と一緒に来ていただけますかな?」
ゴルゾは丁寧に歩み寄る。
「エトちゃんの事は見逃して下さい」
ゴルゾは目を見開いた。
「この崖から落ちて生きていると?」
「私はエトちゃんの事を信じていますから」
「そうですか……あなたが大人しくついて来てくれるのなら追っ手は出しません」
「……分かりました」
ティナ様は用意されていた場所に乗る事になった、ゴルゾは部下を呼び耳打ちをした。
「エト・カーノルドの死体を探すのじゃ、生きていたら必ず殺しておけ」
「「「はっ、了解致しました!」」」
部下は崖の下に落ちたメイドの死体を探す為に動き出し、ゴルゾも馬車に乗り込むと馬車は帝都に向かって出発した。
ここまで読んで頂きありがとうございました!!
どうでもいい事ですけど、紳士なカッコいいおじっていいですよね。 ゴルゾじいさんは妻子持ちですよ。
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