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111.復讐の果て

「どう? 痛い? 少しは貴方に傷つけられた人の気持ちが分かった?」


 アルヤスカは首を抑え、止血しようと試みる。だがその首から流れる血が止まる事はない。


 加護を失った人間が、動脈を切り裂かれれば数分と持たないだろう。


「ぐ、ぐぅっ……いつからだ。一体いつからそこの女はエト・カーノルドの影に潜んでいた」


「いつから? 最初からいた」


「最初から、だと……」


「そう。クロエはこの戦いが始まる前から私の影に潜んでもらっていた。貴方の目を欺き、貴方を殺す為に」


「エト、こいつは私が見てる。先に姫様を……」


「うん」


 ぺたんと尻餅をついていたティナ様に手を貸し、その華奢な身体をお支えする。


「大丈夫ですか? ティナ様」

「ありがとうエトちゃん」


「いえ。それにしてもティナ様、随分と身長がお伸びになられましたね」


 1年ぶりに会うティナ様の背丈は、私と殆ど変わらないように見えた。王宮で出会った頃は、私の肩くらいの高さしかなかったのに。


 『不滅』が解放されたからか、ティナ様の本来あるべき姿に戻りつつあるのかもしれない。


「えっへへ。私だって成長するんだよ! それに本当はエトちゃんより年上なんだからね」


「ティナ様、記憶が……!」


「うん、全部思い出したよ。大切な妹が、私の代わりに今まで頑張ってくれたんだね」


「ティナ様……!!」


 ウルティニア第一王女様が無事である事は奇跡に近い。度重なる犠牲を得て辿り着いたこの奇跡に感謝すると共に、絶対に無駄にしてはならない。


 これはユアンを止めれる二度とないチャンスだ。


「行こ、エトちゃん! 『不滅』を、ユアン君を止めないとね」


「はい。ティナ様!」


 彼女を連れて部屋を出ようとすると、後ろから掠れた声が聞こえて来る。


「待て……お前の両親が、最後に言い残した言葉を聞きたくないか?」


 クロエに背中を踏みつけられてもなお、こっちに這い寄ってこようとする執念には感服する。


 目を充血させ、左手で首を押さえながら、右手は私たちの方へ伸ばしてくる。


 時間はある。彼の最期の言葉に付き合う事も出来るだろう。


 でも、私は……。


「お前の嘘に付き合うのはもううんざり。両親の最後の言葉なら水晶を通して聞いた。あなたの口から聞いた言葉なんて信じない。だからさようなら。クロエ、お願い出来る?」


「ん。了解」


「水晶……? そんなものが……やめ、やめろ……やるならせめて、カーノルド。アメリアの娘であるお前の手で……」


「これはあなたへの罰。そして私自身の罰でもある。きっと貴方を殺したら、気持ちが晴れ晴れしてスッキリするとは思う……でも、その代わり何か大切な物を失う気がする。だから私はやらない」


「それは……た、ただの自己満足に過ぎない」


「あなたがそれを言う? もう戯言は聞きたくない」


「りょうかい」


 視線で指示を出し、クロエがディカイオンの首根っこを掴む。


「やめろ、離せっ……」


「離していいの? 死ぬよ?」


 そのままクロエは、腹を空かせた怪物達のいる穴へとディカイオンを突き出した。


「この私を……アルヤスカ家の当主を魔物の餌にするつもりか」


「そう。お前が()()()()()の父親を殺したように」


「アメリア様……? 貴様は一体――」


「――私もまた復讐者。私の家は代々ユースティーツィア家に仕える家系だった。でもお前の大粛清に巻き込まれて一族は殆ど処刑された。私はその生き残りの子孫」


「なっ――」


 彼女が初対面で会った時から、私に対して好意的だったのは、ユースティーツィア家に仕えるという一族の血が、私という最後の生き残りに反応したのだろう。


 その事実を知ったのは、クロエとジークの3人で情報を共有して、作戦を立てている最中だった。


(クロエもまた、ディカイオンに家族を奪われた者。あの子も私と同等、それ以上にこの男を恨んでいる)


 ディカイオンを掴む彼女の腕がぷるぷると震えている。体重差を考えて、そう長くは持たない。


 彼女は私の命令を待っているのだ。


「エトちゃん……」


「……私は最後まで見届けるつもりですが、ティナ様は部屋の外で待っていて下さい」


「ううん。大丈夫。私も付き合うよ、二人に」


「……分かりました。でも、ご無理はなさらないで下さい」


「うん!」


「エト……いい?」


「うん。やって」


 クロエが掴んでいた手をパッと離すと、ディカイオンが最後の悪あがきとばかりに、彼女の腕を掴みジタバタと暴れ出す。道連れにするつもりのようだ。


「お前もしねぇー!」


「往生際、悪い!」


「――させない」


 雷剣を発現させ、クロエを掴むその腕ごと切断する。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぉおぁーー――」


 部屋を通り越し、ホールで戦っているカノン様達の所へ届いたのではないかと思うほどの絶叫の後、夥しい血が飛び散って彼は落ちていった。


 途中で喉が潰れたのか、口をパクパクさせてこちらを見上げていた。


「っ――――――――ぁ――――!」


 ドスっと音を立てて一番下まで落ちると、怪物達が集まってくる。

 そして大した抵抗も出来ずに、生きたまま四肢が引き裂かれ、その後すぐにバリバリボリボリという音が聞こえてきた。


 これ以上は見る必要はないだろう。


「哀れな奴。自分が育てた魔物に喰われる事になるなんて」


「自業自得」


 これで私の、私たちの復讐は終わった。達成感というのは思ったよりない。やりきった、やっと終わらせたという気持ちの方が強かった。


「じゃあ行こっか、二人とも。ユアン君の所へ」


 いつの間にか部屋の外に立っていたティナ様が、上階に繋がる階段を指差す。


「ティナ様、いいんですか? カノン様に会わなくて」


「うん……いいの。今はまだ、カノンに会う資格がないから。エトちゃんこそいいの? カノンも含めて、会いたい人いっぱいいるでしょ?」


「私は……そうですね。本当は会いたいですけど今は我慢します。お互い全部終わってから会おうって決めましたから」


「うーん。そうは言っても、みんなも心配して来るんじゃない?」


「その時はその時ですよ。それに実はティナ様も、カノン様に来て欲しいって思ってるんじゃないですか?」


「なっ、そんな事はないわよ!」


「ほんとですかー?」


「本当よ! 第一王女を信じなさい」


「分かりました。信じますよ。クロエはいいの? 戻ってイリヤさんとかに会いに……」


「私は二人に合わせる。それにユースティーツィア家に仕えるのが、私の使命だから」


「そっか、分かった。今はそれがクロエに残された目的だもんね。それを奪っちゃうわけにはいかないか」


 復讐が終わった今、彼女に残された目的は一族の使命である私に仕える事だけ。それを今、命令してやめさせた場合、彼女がどのような行動を取るのかは簡単に想像できた。


 だから、それだけは絶対に出来ない。少なくとも今は……。


「? よくわかんない」


「その内分かるようになるよ。きっと」


「行こっか。二人とも」


「はい!」

「ん!」


 そうして私たちは、皇帝ユアンが閉じこもる自室へと向かうのであった。


(必ずユアンを倒してハッピーエンドにするんだ!)


 決意を固め、私は階段を登った。


ここまで読んで頂きありがとうございました!


長きに渡るディカイオンとの因縁に、ついに終止符が打たれました。


少し解説致しますと、ディカイオンとはギリシア語で「正義」という意味を持ちます。

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