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【本編完結済み】普通のメイドだったけど王女を失って暗殺者になりました  作者: 水篠ナズナ
4章 過去との対話〜復讐に燃える少女〜

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100.あの日の真実へ

 王都……今は第二の帝都とも呼ばれる街中を抜け、王宮へと馬車が走る。

 道すがら窓の外を確認した限りでは、宰相が圧政を敷いている様子はなかった。


 話に聞いていた通り、宰相は善政を敷いているらしい。


「着きますよ」


「……うん」


 視線を彼女の方に戻す。シズルはキリッとした姿勢で、私たちと向かい合わせになるように座っていた。隣では先輩が、「うー!!」と威嚇を続けている。


「…………」


 シズルは目を伏せ、先輩の威嚇なんて気にもしないというように、そっと膝に手を置いた。


 もうすぐ王宮に着く。


 ジークに言われてここまで来てしまったけど、急に襲われたりしないよね?


 そうなったら先輩だけでも……。


 ちらりと先輩の方を見ると、なにー? と可愛らしく首を傾げた。


「なんでもないよ」


「ふぅーん……」


 まあ先輩には心を読まれちゃうから、私が何考えているかなんてお見通しなんだろうけど。


「…………」


 目の前の幼馴染に襲われるという事態は想像しにくい。けど、隣の先輩がシズルに襲い掛かる未来は想像しやすかった。

 先輩をどうどうと落ち着かせ、シズルに出来るだけ自然に声をかけようとして、一拍間が空いた。


 昔はどう声を掛けてたんだっけ……忘れちゃった。声、震えてないといいけど。


「……ねえ、シズル。シズルはディカイオンの事についてどこまで知ってるの?」


「正体とその目的については……ある程度ブラン様から教えられて知っているわ」


「ブラン様……か。それを今は教えてくれないんだよね?」


「えぇ……ごめんなさい。これは本人の口から聞いた方がいいと思うから」


「うん、分かってるよ。だからシズルが謝らなくていい」


「エト……」


 えへへと精一杯笑って見せると、先輩が「むぅー!」と怒ってしまった。


 これは作り笑いなのに……嫉妬する先輩も可愛いな。


「そんな事思ってないから!!」


「はいはい」


 ぽこぽこと叩いてくる先輩。不躾にも私の心を読んでいたようだ。


 今回はそれが裏目に出たね。顔真っ赤だもん。




 仲良さげに栗色の少女と戯れる幼馴染の姿をシズルは寂しそうに見つめていた。


 悔しそうに口惜しそうに、唇を噛み締める。本当は自分も二人の輪の中に入りたい。


 それが彼女の本音だろう。


 いま我慢している事を全部解放して、自分に素直になればいいのにとアルマは思っていた。


(いくじなし!)


 たとえエトに抱きつこうがそのくらいは多めに見てやろうとも思っていたが、最後までシズルは何もする事なく黙って座っていた。


(エトがあんなに凄い幼馴染って豪語してたから楽しみにしてたけど、実際に会ってみたらちょっと残念だな。これなら僕の方がずっといい)


 エトの腕に抱きつきながら、アルマはそんな事を考えていた。最近は肩や腕に抱きついても、殆ど嫌がらなくなった。


 むしろそれが日常的とさえ感じているらしい。


(ほんとに変わったなー。それは僕もだけど、でも僕が変われたのはエトのお陰だよ)


 ぎゅっと彼女の腕にしがみつく。エトが少しだけ顔を赤らめて、シズルの前だよと言ってるけど離すわけがなかった。


(離すわけないよ。だってシズルさんに今の僕とエトの関係を見せつけてるんだから!)


 人との交流関係は時の流れに沿って変わっていくもの。一年も経てばそれは大きく変化している。


 今のエトとシズルの間には、大きな溝というものが存在するのだ。


 エトには過去に囚われず、今を生きて欲しかった。自分がそうであったからこそ、彼女にはそうなって欲しくなかった。


(でも、僕の願いは叶わなかった)


 このままこの日常が続けばいいなと思っていたけれど、現実はそう上手くいかなかった。


 運命とは向こうからやってくるものなのだ。


 運命は本人の意思に関係なく、彼女をあるべき場所に戻そうとする。


――やっぱり運命って残酷だ。



◇◆◇◆◇



 私たちを乗せた馬車が王宮の門を潜る。


 少し走らせた所で馬車は止まり、シズルに降りるよう促されて外に出る。


「うわっ!」


「えっ!?」


 外にはずらりと並んだ黒服のメイドと執事達が頭を下げていた。


「シズル……これは……?」


 一同の先頭に立っていた人物がシズルに声を掛ける。


「メイド長。お迎えご苦労様でした」

「ええ、貴方達も出迎えご苦労様。ブラン様は?」


「先に玉座でお待ちになっております」


「そう、ありがとう。みんなも下がっていいわ」


 シズルの一声で、シズル以外のメイドや執事達は音もなく消えていく。


 全員特殊な訓練を受けているらしい。気配の断ち方が上手かった。シズルと話していた人もクロエと同レベルくらいには強いだろう。


「シズル。メイド長って?」


 そう聞くと、シズルは悪戯を成功させた子供みたいに笑った。


「ふふっ。ごめんなさい、驚かせてしまったわね。今ここで働いている使用人達を束ねているのは私なの。ブラン様が是非任せたいって言ってね」


「そ、そうなんだ。えっと、すごく偉くなったね」


「単に面倒事を押し付けられただけよ」


 二人で笑い合う。


 昔の頃のように。


 でも、それは長く続かなかった。笑い合った後は冷たい沈黙が場を支配したからだ。


 昔だったらこんな他愛もない話を永遠に続けられただろう。どうでもいい事で笑い合えただろう。でも今はなんだかギクシャクしている。


 私は自然と視線を先輩に向けていた。


 こんな空気を壊してくれるのは先輩しかいないから。


◇◆◇◆◇


 エトがこっちを見ている。


 助けてくれとでもいうように悲しい顔をしていた。


 そんな顔をするくらいなら、最初からシズルさんなんかと話さなければいいのにとも思ったが、そんな所が彼女の良い所でもある。


 他の人に頼られたら嫌だけど、彼女に頼られるのだけは嬉しい。だから僕もエトの期待を裏切らないように全力で応える。


◇◆◇◆◇


 先輩は期待を裏切る事なく、私の望んだ行動をしてくれた。

 この場にそぐわないテンションと活発な声で、止まっていた時を動かす。実際に止まっていたわけではない。私がそう感じていただけだ。


「早く案内してよシズルさん! それとも何か企んでるのー?」


「なっ、そんなわけがないでしょう! あの人だって本当はあの時も……」


 先輩の身も蓋もない言いがかりに、シズルはついカッとなった。

 あんなシズルを見るのも久しぶりだ。


 そもそもシズルに会う事次第が久しいのだ。そう思うのは当然だろう。


「あの時も? なに?」


 ここに来て先輩のウザ度がパワーアップしている。普段よりなんだか生き生きしてるし。


「な、なんでもないわ。エト行きましょう」


 一瞬たじろぐような様子を見せ、一歩後ろに下がる。


「あれあれどうしたの〜? 逃げるの〜?」


 そして痛い所を突かれたのか、シズルが私の手を引き、早く行こうと促してくる。


「うん。分かったよ」


 後にも先にも、口喧嘩で負けるシズルを見たのは初めてだった。


◇◆◇◆◇


 戴冠式などを行う玉座の間に到着する。


 宰相が即位する際、戴冠式が行われたのかは知らない。

 内装はシュトラス王国の頃と殆ど変わっていなかった。変わっているのは、ピリッとひりつくような空気だろう。


 玉座にはあの頃に比べ、服装が豪奢になっただけで殆ど代わり映えのない人物が座っていた。


 私は一歩前に出て、膝をつく事なく彼に声を掛ける。


「宰相……ああ、今はガルディア帝国の王でしたね」


 こほんと一度喉を整えてから、王国式の挨拶で彼を迎え撃つ。相手が嫌がる事を先に言う。これぞ先手必勝! と先輩が言っていた。


「裏切り者の元宰相閣下にご挨拶申し上げます。エト・カーノルドです。お久しぶりですね、ブラン・ガルディア国王陛下」


 たっぷり皮肉を込めて貴族式の挨拶をする。宰相は私の挨拶を聞いて目を細め、静かに立ち上がると私の前に立つ。



「ああ久しいな、エト・カーノルド。顔を合わせるのはローラの毒殺事件以来か」



 驚くほど声に覇気はなく、座っている時は光の反射でよく見えなかったが、顔色も悪く、随分とやつれているようだった。シズルが慌てて彼の身体を支えに行く。

 予想とは少し違った面持ちに、私は少々面喰らってしまった。


「――っ私が、私が今日ここに来た目的は……」


「ああ、分かっているさ。ジーク・リーゼフから聞いているよ」


「ジークの事を知ってるんだ」


 へぇと大して驚いた様子もなく、先輩は一歩前に進み私の隣に立つ。

 まるで私の隣には僕もいるぞというように、小柄ながらもその存在を主張しているようだった。


「ああ勿論だ。彼には世話になったからな、アルマ・レイスフォード。君の事も聞いているよ……エト・カーノルド、シズル・ネルミスター。今ここで君たちに、あの日の真相とこの国で過去に何があったのか教えよう」


 突如明かされたジークの姓。おそらくアルマの姓は貴族であった時のものであろうが、それを言及する間も無く彼は饒舌に語り出す。


 私の両親、特に母の過去に何があったのかを。ディカイオンとは一体何者なのかという事。


 そして王国と帝国がまだ一つの国であった頃の話を……数年で栄華の一途を辿り、有力貴族の没落後、初代王の腐敗によりたった数ヶ月で堕ちていった一国の話を。

いよいよ物語の核心に迫ります。

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