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ユアンの誤算 〜予定調和〜

前回の「決着」で3章は終了となります。

「あれで良かったんですか?」


 部屋から出て、すぐにそう聞かれた。なんとなくは予想していた。

 僕の真意を話し、この計画を伝えた時から、彼女はあまりいい顔をしていなかったからだ。


 ()()()()なら当然の反応だ。僕だって、できるのなら、幼い子を犠牲になどさせたくない。


 でも彼女――ウルティニア・シュトラス・ディスペラーは計画に絶対必要な存在、いわば要だ。彼女なしでは……彼女に眠る力無しでは計画は絶対に成功しない。


 僕が世界の頂点に立つために、『不滅』の力は必須だ。そのために、これまでコツコツと準備を続けてきた。


 僕が皇帝になったあの日から、邪魔な奴らは全て滅ぼし、周りの国も服従させ、いよいよ計画も大詰めといった所。


 最後のピース。



 第一王女の絶望。それが力の解放の鍵。



「あれとは、エト・カーノルドを死んだように見せかけたことかい? それとも妹の死を伝えてあげたことかい?」


「どっちもです」


「悪い事をしたとは思ってるけど、本当だったら死体を見せるつもりだったんだからね」


「それは……そうですが……」


 彼女、イヴ・ルナティアは僕が幼い頃から、護衛兼メイドとして付き従ってくれた。


 僕が繰り返してきた時を合わせると、何十年も一緒にいる事になる。

 だから、彼女の事はよく理解していた。


「何か言いたい事があるのかな? 怒らないから言ってごらんよ」


 すると彼女は本当に怒りませんか? と可愛らしく首を捻って聞いてくる。普段の凛々しい顔は消え、小顔な彼女は贔屓目にみても美しい。


「えっと……」


 もし、彼女が計画から身を引きたいと申しでたら、受け入れるつもりだった。フランクは解放してやるつもりはないが、イヴがフランクを欲しがるのなら一緒にしてやっても良かった。


 だけど、彼女は予想通り義理堅い――心酔しすぎてるともいえる。


 フランクを拾った時と同じ、いやそれ以上に、イヴは僕に忠誠を誓っていた。


「あの子、あんなに嘘をたくさん並べられて、絶望しちゃいましたよ……見てられませんでした」


 イヴはわざとらしく、口に手を当て、目をぎゅっと瞑る。


「ふむ、たしかに君は、途中から目線を下げていたね。でも、あの子の妹……カノン・シュトラス・ディスペラーを殺したのは誰だったかな?」


「――あはっ! 私でしたね」


 彼女はその美しい顔を歪ませて笑った。思わず身震いしてしまうほどの笑みだ。


 二面性、と表記した方がいいだろう。彼女はこの世に生を受けた時から狂っていた。


 イヴは残虐性と慈悲を併せ持った狂戦士、戦闘時にはその力を遺憾なく発揮させる。


 第二王女を気兼ねなく殺せるのはイヴだけだ。彼女は恐れを知らない、だからこそ信用出来る。


 彼女に計画を話して、彼女があまりいい顔をしなかった理由は一つしかない。


 それは僕に危害が及ぶ可能性がある事……僕が『不滅』の力を取り込めなかったら、僕という自我は崩壊する。


 彼女にとって、僕という存在が消える事、それは死に等しかった。


 だからこそ、不安そうな顔をしていただけであって、計画の過程で出た被害者など、必要な犠牲としか考えてないのだろう。


「計画では、エト・カーノルドの殺害は絶対条件ではないようでしたけど、お時間を頂ければ、私が折を見て殺害してきますよ?」


 自信満々に言いのける。不安の種は潰しておきたいのは山々だ。だが、今イヴを手元から離すわけにもいかなかった。


「探すだけ時間の無駄だよ。それに、あとはあの子が壊れるのを待つだけ。じきに魔力が変質し、暴走を始めていくはずだ。そこで僕が封印を解き、力を解放する。感情なんて無意味だよね。王国は知っていたはずなのに、それをしなかった。感情を取り払い、第一王女を『不滅』を封印するだけの器にすれば良かった。そしたら僕も手出しする事は出来なかったし、神玉を危ういと感じた時点で破壊すべきだった。でも結局は、何もしなかったから今、こうなってしまった………王国の人達は、みんな優しすぎたんだよ」


「その優しさのお陰で、ユアン様の計画が思い通りに進みました」


「少しハプニングは起きたけどね……まあでも、彼等には感謝してる。何度繰り返しても同じ過ちをしてくれるんだから。ここまでは全て予定調和さ」


 自分の力に目覚め、世界を支配するという野望を抱いたあの日から、随分と時間が経った。


 失敗は許されない。そのために着々と準備を続けた。僕の計画を邪魔する者はもう、誰もいない。



 さぁ、始めよう――世界の終末はすぐそこだ。

次回から、4章となります。章は4章を含めて、あと二つとなります。

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