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96.決着

「まったく世話の焼ける後輩ね」

「い、イリアさん!?」


 イリアさんは、障壁魔法が得意だ。彼女の周りを中心に、一定の範囲に障壁が張られ、地獄犬の攻撃を防いでくれる。


『ガウッ?』


 地獄犬は自分の放った渾身の一撃が防がれ、驚いている様子だった。


「さ、私が押さえてる内に早く蹴りをつけなさい」


「はいっ!」


 雷剣を解き、魔力を収縮させ、一つの技に全てを込める。外せば終わり。二人まとめて地獄犬の餌食だ。


 倒しきれなくても終わり。


 これで私の魔力は尽きるから。


「いい? 障壁を解くわよ」

「はい」


 障壁がある限り、攻撃は受けないが、それは相手も同じ。タイミングを見計らって、イリアさんが障壁を解き、私が魔法を放つ。


雷砲(ライトニングキャノン)ーーーーーッ!!」


『ギャゥゥゥゥゥ!?』


 雷が駆け抜けるように、光の球が高速で地獄犬を襲う。


 地獄犬は咄嗟に回避行動とるも、間に合わない。


『グルゥー!?』


 喰った人間の魂を使って、雷砲を防ごうとした地獄犬が金切り声をあげる。


 なんと、自分の武器である死者の魂が逆に地獄犬を縛っていたのだ。


『ギィャアアアアゥゥゥゥゥ!!』


 お陰で雷砲はダイレクトに当たった。


(きっと食べられたみんなが力を貸してくれたんだ……)


 そして地獄犬は爆ぜ、ビチャビチャと血飛沫が飛んだ。


「終わった………」

「ええ」


 膝から力が抜け、その場にへにょりと座り込む。


 身体に力が入らなかった。


「魔力欠乏症みたいです……イリアさん、あとは頼みまし……た」


 イリアさんの返事を聞く前に、私の意識は遠のいていった。


◇◆◇◆◇


「くあっ!!」

「――クロエッ!?」


 クロエが僕を庇って、背中で剣を受けていた。


「構うなっ! 早くやってッ!!」


 クロエは苦痛に歪んだ表情を見せる。


 先程までクロエのいた方をみると、死体が二つ転がっていた。トルメダの部下を一人で倒したのだ。


「う、うぁぁぁぁぁぁぁぁあー!!」


 力を振り絞って、トルメダの腹を裂く。内臓がどばとばと流れ出した。


「ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあーー!!」


 トルメダの絶叫が屋敷中に木霊した。



◇◆◇◆◇



「あれ? 私ねむってた」

「あ、エト起きた?」


 目を開けると先輩がいた。そこで私は、今先輩に膝枕されてるんだと気付いた。


「わっ……!」

「まだ寝てても良かったのに」


 私が立ち上がると、先輩も「よいしょっ」と立ち上がる。


「先輩がここにいるって事は……」

「うん。最終フェーズだよ」


 眠らせた使用人たちは、他のメンバーが安全な場所に移動させた後で、現在は屋敷に火を放っている最中だ。


 イリアさんの姿がないのは、重傷を負ったクロエを先に連れ帰ったからだという。


「僕のせいで、クロエは…………」


 話を聞くと、先輩を庇って傷を受けたそうだ。


 あとでお見舞いにいかないと。


「先輩…………私ちゃんと帰ってきましたからね」


「……うん」

「私はちゃんと約束を守りました。それだけです」


「エト……」


 うるうるとした瞳で、先輩がこちらを見つめる。


「これで全部終わりですよね」

「うん…………全部終わり」


 先輩が幼少期を過ごした屋敷が音を立てて崩れる。それを先輩はただ黙って見つめていた。


「…………」

「エト。行こっか」


「はい、先輩」


 先輩はくるっと半回転し、私の方に向く。そしてニコッと笑って私の手を取ると走り出した。


「わっ、ちょ待って下さいよー」

「えへへー」


 笑いながら走る先輩の手は微かに震えていた。


◇◆◇◆◇


――イリアとクロエの家


 後日、捕まえた召喚師を尋問した者達によると、彼は3年前からトルメダの事を手伝うようにユアンから命令されていたという事が分かった。


 彼は元々、隣国の王宮で働く術師で、悪虐非道な研究をして国を追放された所をユアンに拾われたのだという。


 それから彼の研究費用や材料を全てユアンが負担することで契約が成立したのだとか。


 ユアンはこの男の研究には、興味がなかったんだろうけど、魔物を召喚できるという事に価値を見出したんだと私は思う。


 クロエが目の前ですやすやと眠っている中、物思いにふけっていると、扉越しに声を掛けられ、ちょっとびっくりしてしまう。


「エト。ジークが呼んでるわ。なんか話があるって」

「え、なになに!? 恋バナ!?」


「先輩は黙って下さい。イリアさんありがとうございます。行ってきます」

「ええ――いい話が聞けるといいわね」


「……はい」


 もしかしたらイリアさんは、ジークから私の事情を聞いているのかもしれない。


 彼女の口ぶりからしても、ディカイオンの情報で間違いないだろう。


「ジーク……」


「入れ」


 ジークはあれからずっとベッドに横になっている。寝たきりではないが、立ち上がると身体中に激痛が走るのだとか。


「話って……」

「――ガルディア帝国に行け」


「え……? いまなんて?」


「もう一度だけ言う。いま亡きシュトラス王国へ向かえ。そして城へ侵入し、玉座まで辿り着け。きっとお前が知りたいことを奴が教えてくれる筈だ」


 玉座に行け……? いまあの国を指導しているのは宰相……ブラン・ガルディアに会いに行けということか?


「…………わかりました。じゃあ先輩には言わないで下さい。これは私の問題、わたし一人で行きますので」


「……分かった」


 どこまで隠し通せるか分からない。でも、先輩に迷惑をかけたくなかった。


「明日の夜明け前に出発します。早く知りたいですから」

「分かった。馬車を手配しておこう」


「ありがとうございます」


 ジークの部屋を後にすると、私は素知らぬ顔で先輩の所に戻った。


「ねえねえ何の話だったの」


「先輩がアホだって話です」


「なんだとー!!」


 ぽこぽこと先輩が叩いてくる。


「あははっ!!」


 やっぱり先輩と一緒にいるのは楽しい。


 ずっと一緒にいたい――そう思わせる力、いや魅力が先輩にはあるんだろう。


――でも、行くしかない。これは二度とないチャンスだから……。

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