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「あ、ちょっとそこの君」


数日後、社内を歩いていると突然誰かに声を掛けられた。




「?」


あたしは周りを見回した。


しかし、廊下を歩いているのはあたしだけだ。




「君だよ、君」


そして目の前の応接室から出てきた男性社員があたしに近づいてきた。




(あたし……?)




「な、なんでしょう?」




「そこの応接室にお茶持って来てくれる?


 うちの社員二人とお客様二人で四人分」




「え?」




「急いで頼むよ、よろしく」


男性社員は早口でそれだけ言うと応接室に戻った。


その男性社員は、つい先日三上さんと同じ営業一課に配属された


新入社員だった。




(まだ何もわからないんだから仕方ないか……)






――コンコン……、


新人の男性社員に言われたとおり応接室にお茶を持って行くと


中には三上さんも一緒にいた。




「「……っ」」


あたしと三上さんは一瞬だけ目が合った。


三上さんもお茶を持って来たのがあたしだからか、


驚いた顔をしている。


そして、二人とも慌てて目を逸らした。










「あ、ねぇ、君」


午後、ミーティングルームでの打ち合わせが終わり、


自分の部署に戻ろうとしていると先程の新入社員にまた呼び止められた。




「?」


あたしが足を止めるとツカツカと近寄ってきて、


「この資料、纏めるの手伝ってくれない?


 20部ずつコピーして、ホッチキス」


と、いきなり山のような書類を突きつけられた。




(え……)




しかし、あたしにも急ぎの仕事があった。




「ごめんなさい、あたしこっちがあるから……」


暇な時ならともかく、今は他の部署の仕事を手伝う余裕なんてない。


すると、新人君は顔を顰めた。




「そっちは別に後回しにしたっていい仕事なんでしょ?


 こっちは今から会議で使う資料なんだよ」




「あの、あたしの方も急ぎの仕事だし……」


「おい、新人」


資料を押し付けられそうになって困っていると


あたしと同じ課の浮田さんが助け船を出してくれた。




「おまえどこの部署だ?」




「営業一課ですけど」




「ふーん、名前は?」




「友川です」




「おまえの指導係は誰なんだ?」




「三上さんですけど……」




「わかった」


浮田さんは新人君にいくつか質問した後、


ミーティングルームを出ようと踵を上げた。


すると、そこへ三上さんが現れた。


「浮田さん、ミーティングルーム空きました?」




「あ、ちょうどいいところに来た。


 おい、友川によく言っとけ。


 違う課の先輩に仕事頼むなって」




「え?」


三上さんはいきなり浮田さんに文句を言われ、キョトンとした。




「今朝は今朝でなんか千秋さんにお茶汲みさせてたみたいだし、


 今だって千秋さんはこれから企画を纏めなきゃいけないのに


 書類をコピーしろだのホッチキスしろだの……


 他の部署を手伝うほど暇じゃねぇんだよ」


浮田さんはそう言うと新人君を軽く睨んだ。




「……すいません。よく、言っておきます」


三上さんはそう言うと「友川、ちょっと……」と、


新人君を連れてミーティングルームを出て行った。










――そして、午後8時過ぎ。


休憩室に行くと三上さんと、あの新入社員の友川君がいた。




(あ……)




「お疲れ様」


三上さんは柔らかい笑みをあたしに向けてくれた。


友川君はちょっとバツが悪そうな顔であたしに会釈をした。




「お、お疲れ様です」


「こんな遅くまで残業してたんだ?」


「はい、そう言う三上さん達も遅いですね?」


「うん……あ、今日はごめんね」


「?」


「……いや、うちの友川がさ」


あたしが何が? という顔をすると三上さんは


目の前に座っている友川君を苦笑いしながら指差した。




「すみませんでしたっ」


すると、友川君は勢い良く立ち上がったかと思うと


あたしにぺこりと頭を下げた。




「僕、てっきり千秋さんの事、同じ新入社員の子だと思ってて……


 ホントッ、すいませんでしたっ」




「あー、いえ……」




「あのっ」


そして、その勢いのまま


「僕と付き合ってくださいっ!」


と、大声で言った。




(えええぇぇぇぇぇぇーーーっ!?)

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