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-2-

「……ファウ?」




翌朝、あたしが起きた時にはもうファウの姿はなかった。




ファウとあたしは昨夜、一緒のベッドで眠った。




「ファウ〜?」




(“妖精の森”に帰っちゃったのかな?)




「ファウ……」


もしかして、昨夜ファウと過ごしたあの時間は夢だったのかも……


そう思ったりもした。




しかし、ファウが包まっていたあのハンドタオルが枕元に残されていた――。










「おはよう」




「……お、おはようございます」


ロッカールームを出て、自分の部署に向かうエレベータの中、


“あの人”と一緒になった。




三上啓輔さん




あたしが密かに憧れている人物で営業一課の“スター”、


……いや、社内の“スター”。


もっと言えば女子社員の憧れの的。


そんな人物と狭いエレベータの中で二人きり。




(心臓止まりそうっ)




「千秋さん」




「は、はいっ」


不意に名前を呼ばれ、あたしの体はビクリと跳ねた。




「そんなにびっくりしなくても……」


三上さんはククッと笑うと、


「今日の夜、空いてる?」


と、あたしの顔を覗き込んだ。




「は、はい……空いてます、けど……」




「じゃあ、そのまま空けといて」


三上さんはそれだけ言うとエレベータを降りた。




「……」


エレベータが閉まって三上さんの姿が見えなくなっても


あたしは今の会話の意味がわからずにいた。




“じゃあ、そのまま空けといて”




(何……?)




彼とまともに話したのはこれが初めてだった。


心臓が早鐘を打っている。


名前を呼ばれたのだって……。










――だけど、昼休みを過ぎても、定時を過ぎても


三上さんは何も言って来なかった。


携帯はともかく社内のメールなら、全社員がやり取り出来る。


三上さんだってそんな事くらいは知っているはず。




「はぁー……」




(何だったんだろ……?)




溜め息をつきながらロッカールームを出るともう午後7時を回っていた。


この時間はもう表の正面玄関は閉まっている。


照明もすでに落とされ、裏口に続く廊下の灯りが薄っすらと


誰もいない受付とロビーを映し出していた。




「千秋さん」


しかし、誰もいないと思っていたロビーから声が聞こえた。




「は、い……?」


あたしは思わず足を止め、薄暗いロビーから


近づいてくる人物に目を凝らした。




そして、その人物は……




「……っ! 三上さん?」




「待ってたんだ」


三上さんだった。




「あたしを?」




「うん、言ったでしょ? 今夜空けといてって」




「あ……、はい」




(言ったけど……何にも言って来ないから、気が変わったんだと思ってた)










「ゆっくり話がしたいんだ」


三上さんはそう言ってあたしを静かな落ち着いた雰囲気のお店に


連れて来てくれた。




「千秋さんとこうして面と向かって話すのって、初めてだね」




「そう、ですね」


三上さんは至って余裕だ。


それに比べ、あたしは余裕なんてまったくない。


だって、入社してからずっと憧れていた人と


こうして二人きりでいるなんて……まるで夢みたいだ。




(でも、なんであたし……?)




正直そう思った。


三上さんほどモテる人なら、一緒に食事をするくらいの人は


たくさんいるだろう。




それとも……




他の人に飽きてそれで魔が差してあたしを誘ったとか?




(あ、きっとそうだっ!)




「千秋さん……好きだ」




(……え?)




「俺と付き合って?」

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