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目覚め、襲撃2

「はい、私の世界にようこそ」

 目の前に現れたあの女は俺の腕を引くと、俺はもの凄い力で玄関から外に投げ出され、

「冗談だろッ」

 二階から、下の駐車場へとたたき落とされた。

 背中に重い衝撃、だが、不思議と痛みはなかった。

「あはは、驚きすぎですよ。アナザーに覚醒したなら、力を発動させなくても、五階くらいまでの高さからなら落とされても、動けますよ」

 女の言うとおり、衝撃こそあったが、俺の体にダメージはない。

 しかし、昨日の嫌な予感は当たったということか、この女も、アナザー。

 二階の高さから、こちらを見下す少女、華奢な体からは考えられない力で、男である俺の体を平然とここまで投げ飛ばしやがった。

 だが、身体能力の向上だけが、アナザーの力ではないことは、もう、わかっている。

 恐らく、アナザー同士が戦う上で、最も重要なのは、相手が持つ常識、アナザーの能力だ。

「お前――」

「あ、こちらだけ名前を知っているのは失礼ですね。私の名前は九条知美くじょうともみと言います」

 投げ飛ばした後で自己紹介も何もないだろうに、それよりも、こんな場面、他の奴らに見られたらどうするんだよ、と俺が思っていると、それを見透かしたように、

「安心してください、一般人の退去は済んでいます」

「それも、アナザーの力か?」

「そうですよ、というよりも、退去させなくても、よほど意志の強いノーマルじゃないと力を発動させたアナザーのことは認識できませんから」

 と、その時、九条知美が自分の手に持った携帯電話を開くと、

「じゃあ、勝美ちゃんに替わりますね?」

 替わる? 誰かに電話をかけているのか? と首を傾げていると、九条知美は自分の耳元に携帯電話を押し当てた。

 そして、すぐにスッと、携帯電話を下ろす。

「? 何だ?」

 九条知美の意味のわからない行動に、俺は首を傾げるしかなかった。替わるとはどういうことなのか。

「おい、九条知美だったか……勝美ってのは、誰だ?」

 すると、九条知美は何を思ったのか、突然に眼鏡を外した、そして、キッと、こちらを睨み付けると、自分を指差し。

「誰だ? って、勝美は、私はここにいるじゃない」

「何……?」

「だから、あたしが九条勝美だって」

 九条知美、いや、勝美?

「どういうことだ?」

「そうね、強いて言うなら、二重人格かしら。私も、知美も互いに自分達のことは別人だって思っているけどね」

 二重人格? 俺は眉をひそめ、勝美と言い張る女を見る。

 眼鏡を外しただけで容姿は全く変わっていない、そもそも、二重人格だ、容姿まで変わったらそれは二重人格ではない。

 二重人格を証明する方法なんてもの、俺は持っていないから、こいつが二重人格だと仮定するとしても、二重人格というのが、こいつのアナザーなのか?

 勝美は、未だ変わらず俺の部屋の前に立ったまま、そこから俺を見下している。

 近づいてくる気がないのか?

「さて、多賀谷シンパチ君。これから、君を連れて行こうと思うんだけど、私にはある命令が下っているの」

「命令?」

「そう、私は良い子だから、命令は守らないといけないわ。私は知美と違って、褒められるのが好きなの」

 勝美という人格に変わっても変人ということに変わりはないか。

「とにかく、その命令ってのは、何だ?」

「試せ、と言われたわ」

「試せ?」

「そう、私達の組織はアナザーをこの世界の害虫程度にしか考えていないわ。アナザーが危険なのはすでに証明されているもの、だから、組織は、アナザーを生かして管理するにしても、殺すにしても、そのアナザーが持つ別世界を把握することに専念するわ」

 確かに、どんな能力かを把握しておけば、事件が起きた時に誰がやったのかは調べやすくなり、万が一に殺す時も、やりやすくはなる。

 だが、

「そんな説明をされて、自分のことを話す奴なんていると思うか?」

「思わないわ、強引に、脳を解体して調べるのもいいかもしれないけれど、『室長』は、あなたに関してはそれは止めたほうがいいと言ったわ。だから、こうして、わざわざ、検査の場を用意したの」

 検査の場? だんだんと、空気が不穏になってきた、そもそも、こんな話をするなら、別に俺をここに投げ飛ばして神経を逆なでする必要はなかったはずだ。

 それに、胸がざわつくというか、何か嫌な感じがする。

 まるで、自分の知らない別世界に迷い込んだかのような錯覚。

 逃げなくてはいけない、そんな気持ちが胸を支配し、

「あら? 別にいきなり逃げなくてもいいじゃない」

 唐突にぶつけられた勝美の言葉に、俺は息を呑んだ。

(思考を読まれた? それが、こいつの力か?)

 考えていたことをズバリと言い当てられ、俺が困惑していると、そんな様子の俺を勝美は指差した、否、勝美が指しているのは俺ではない、俺よりも後ろ、そこにいる、そいつに。

「おいおい、何だ、これは? 何なんだ!?」

 正確に言うならば、それは、この世に物体として存在しているのなら誰でも、どんなものでも持っているものだ。人が歩けば、そいつも歩き、人がしゃがめば、そいつもしゃがむ。

 まだ、日の光は薄いというのに、まるで、黒の絵の具をぶっかけたかのようにそいつはくっきりとしていた。

「俺の影が、俺から離れていく?」

 はっきりと視認できる俺の黒い影が、どんどんとこの場から逃げようとするではないか。

「お、おい、どうなってんだ、これは」

 俺が慌てて、追いかけようとすると、俺の下を別のそいつは通り過ぎる。

「やり過ぎては駄目よ、知美」

 突如として、もう一つの影が現れた、俺の立っている地面を高速で動くそいつは、九条勝美と同じ形をした影。そいつも、九条勝美から離れて行動している。

 そして、九条勝美の影はグングンと、俺の影に近づいていくと、体当たりするように九条勝美の影が、俺の影を殴りつけた。

「ッ、ごっ」

 瞬間、頭を鈍器か何かで殴られたかのような衝撃に、俺は地面に叩きつけられる。

 攻撃、そうだ、今、俺は攻撃されたのだ。だが、勝美は以前、俺の部屋の前に立ったまま、こちらを見下ろしてるだけ。

 だとしたら、見えない攻撃か、もしくは、

 俺から少し離れた位置で、見つめ合うようにして、対峙する俺の影と、九条勝美の影――あれが、関係しているとしか思えない。

 つまり、検査はすでに始まっているということか。

「抵抗するアナザーの能力を調べるには、検査機器なんて意味がないもの。アナザーを調べるには、アナザーを使うのが一番」

 九条勝美が笑みを浮かべる。

「これが、お前のアナザーか! 九条勝美!」

「あら? 勘違いしては駄目よ、これは、私と知美のアナザーよ、ねぇ、知美」

 勝美が言った瞬間、九条勝美の影が頷いてみせる。

 影、それが、こいつの、こいつらの力なのか、そして、話を聞く限り、あの影を操っているのは、知美。

 肉体は勝美が操り、影は知美が操作する、だとしたら、俺は? 俺の影は?

「あなたの影は、あなたが操るのよ。影の世界と、こちらの世界は繋がっているから、あなたの影がダメージを負えば、あなたも負傷する。簡単でしょ? まあ、影を操るのは、気持ちや精神に左右されるから、操りづらいかもしれないけど、初心者でも簡単にできるわ。人は肉体を動かす時に感覚的に行動するけど、影を操るには、ゲームのキャラを動かすように、右腕を動かしたいなら○ボタンとか、ちゃんと、頭で考えなければいけないのだから」

 まるで、ゲームの説明をするように勝美が口を開く。

 それは、つまり、あれか? 俺は、自分の肉体と、影を一人で操るということか? 九条勝美と知美は二人で協力して二つのコントローラーを操っているのに対して、こちらは、一人で二つのコントローラーを操らなければいけない。

 俺は影を見る、右に動けと考えると、影はそれに従って右に動く。

 まるで、地面というゲーム画面で格闘ゲームをさせられているような感覚。

 言えることはただ一つ、それは、圧倒的に俺が不利だということ。

「『ドッペル・ナイト』、これが、私と知美のアナザーよ」

『ドッペル・ナイト』、どうやら、アナザーだから二重人格になったのではなく、二重人格だからこそ、このアナザーに目覚めたということか。

 ドッペル、もう一つの自分、その二つから連想される単語は、ドッペルゲンガーと呼ばれる、都市伝説の現象。

 そして、噂では、ドッペルゲンガーと遭遇してしまった者は。

「死ぬわよ、あなた」

 勝美が口の端をつり上げて、笑う。

「だって、あなた、ドッペルさんに会っちゃったんだもの」

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