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目覚め、襲撃

 次の日、俺の目を覚ましたのは、携帯電話の着信音だった。

「何だ?」

 着信音が最大であったため、脳に響くほどうるさい、さっさと出なければと携帯を探す。

 運良く、携帯電話が手元にあったのですぐに電話に出ることができた。

『おい! 多賀谷か!?』

 だが、着信音よりもでかいそいつの声に、電話を思わず切りかける。

「……誰だ?」

 寝起き+声がやかましくて誰だかいまいち判別できない。

『俺だって、島崎だ、寝ぼけてんのか?』

 何だ、島崎か、と電話に出たことを後悔する、そもそも、時刻を見ればまだ六時を過ぎたところだ、登校時間までにはまだ余裕がある。

「何の用だ? 学校に一緒に行こうぜ、なんて言った日には、今日の夕日は拝めないと思えよ?」

 早朝と電話越しのでかい声は神経を荒立ててくれる、ぶっちゃけ、半分以上本気で言った言葉。

『馬鹿、それどころじゃねぇ、それと学校はないからな、これは連絡網だ』

「は?」

 学校がない? いまいち、島崎の言うことが理解できない。

『いいから、寝てたならテレビを見ろ、多分、まだ、どっかのニュースでやっているはずだ』

 言われるがままに、俺はリモコンを操作して、テレビの電源を付けると、そこには、いつも通っているはずの校舎が映されていた。

 テロップには、『新川ポートアイランドの男性教諭、窒息死』の文字。

 そして、被害者の名前が表示され、俺は、目を細めた。

 宮下真太、誰だ? と、思い出そうとしていると、

『昨日、お前に突っかかった教師だよ!』

 島崎の言葉で思い出す、そういえば、あの教師、そんな名前だったか。

「つまり、これのおかげで今日は休みってことだな」

『お前な、自分トコの教師が死んだってのに……本当にドライだよな。でも、昨日のこともあるから、警察もお前の家に来るかもしれないぞ?』

「チッ」

 確かに、どんな内容かわからないが、死んだ被害者と前日に揉めていたなんて、怪しさ抜群じゃないか、何もしていないのだから、心配することなどないが、話をするだけでも面倒だ。

『まあ、気を付けろよ、お前、怪しいからさ。疑われて連行されても文句言えないぜ』

「あのな、何の確証もないのに、連行されるわけないだろ。あるとしても、任意同行だ」

 言いながら、それでも、面倒なことには変わりないと、俺は心の中でため息を吐く。

 それに、もう一つの不安要素は、甲崎の件だ。甲崎の家族が引っ越したのは本当のようだが、甲崎については結局、行方不明のままにされていると訊いた。

 だとしたら、行方不明者とも友人で、周囲の人間からは怪しまれ、一人暮らし、そして、今回の件だ。

 正直、最も疑われて当然な容疑者なわけだ、実際、甲崎の件には関わっているわけだし。

『ふーん、まあ、気を付けろよ、濡れ衣を着せられるかもしれないぜ?』

「テレビの見過ぎだろ、それに、この事件、別に殺人と決まったわけじゃないんだろ?」

 ニュースの詳細はわからないが、窒息死ということは自殺も考えられるだろう。

『ああ、でも、ニュースの話だと、よくわからんが、泥で窒息死したらしいぞ?』

「泥?」

 俺が疑問に思うのも当然だろう、泥で窒息死? そんな状況、土砂崩れの被災者ならばまだしも、学校で起こった死因なわけがない、自殺するにしても、そんな明らかに苦しい死に方を死を望んだ者が行うとは思えない。

 ならば、他殺か? 被害者を薬か何かで昏睡状態にして、泥を喉に押し込む、可能かもしれないが、しかし、効率が悪すぎる、よほど、泥で殺すことにこだわりでも持っているなら話は別だが、普通はありえない。

『とりあえず、今日は学校は休みだからな、次の奴にも伝えと――』

「そっちはお前に任せた」

 言って、俺は一方的に電話を切った。

 数秒間、待ってもかけ直してこない、これは、無言の了承だろうと受け止めることにした。

「……」

 俺は起き上がって、常にスタンバイ状態にしてあるパソコンを立ち上げ、インターネットへアクセスする。

 もしかしたらのつもりで、確認したのだが、案の定。

 サイト『NEXT.』には、今回の事件が記載されていた。

 更新されたのは、早朝のニュースが流れると同じ時間帯だった。

『NEXT.』に記載されている情報が全て本当だとは限らない、起きた事件を適当に載せているだけかもしれない。

 しかし、アナザーの説明に関しては、セラの説明と一致するのだ。

 だとしたら、この事件をアナザーが起こしたってことも本当の可能性がある。

 気が付けば、マウスを持つ手に汗がにじんでいた。

 これは――まずい。

 もしも、アナザーが起こした事件だと仮定すると、他の組織も、これはアナザーが起こした事件として認識するはずだ。

 当然、セラの所属する組織も。

 彼らはアナザーの管理をしている、そして、俺がアナザーに目覚めたことを知っていて、この事件。

 警察が俺を拘束するのは不可能だが、彼らが俺を捕獲しようとしてもおかしくはない。

 セラは守ってくれると言ったが、それは、セラ個人の考えであることは確認している。俺に疑いがあるのなら迷わずに捕まえにくる。

 と、その時、

――ドンッ、ドン

 まるで、俺が事態を把握するのを待っていたかのようなタイミングで、この部屋の扉がノックされた。

 ドンッと、その大きな音は荒く、確実にセールスマンや知人の類ではない、そもそも、朝のこのタイミングでそれはない。

 だとしたら、考えられるのは二択、警察か、もしくは。

 俺は恐る恐るノックされた後は静まった扉へと近づいていく。

 そして、覗き穴から外を除くが、覗き穴を塞いでいるのか、真っ暗で何も見えない。

 どうする? 寝たふりをするか、もう少し、心を落ち着ける時間がほしい。

 だが、そんな時だ。

 俺の背後で携帯電話が大音量で着信を知らせたのは、

(しまった……ッ)

 流れているのはアニメの主題歌の着信音、据え置き型の電話にそんな着信音を設定する奴はいない、だからといって、いきなり、音楽が流れるのはおかしい。

 相手はすぐに、携帯電話の着信音だと悟ったはずだ、携帯電話を置いて外出する者は少ない、俺が家にいることはばれたに違いない。そして、寝ていたとするにも、今の着信音で起きないわけがないと判断するはずだ。

 ドンッ、ドンッ

 当然のように、相手はまた扉を叩く、今度は何度も、何度も、まるで、呪うかのように音を打ち鳴らす。

 もはや、逃げ場はない。だが、一体、誰が電話をかけてきたのか、俺は恐る恐る電話の表示を見ると、そこには、非通知、の三文字。

 鳴り続ける携帯電話に、部屋を揺らすようなノックの音。

 狂いそうになる頭を抑え、俺が部屋の扉を開けると、そこには、

「ようやく出てきた」

 右手で携帯電話を耳元に当てた、一人の少女、左手でノックをしていたようで、扉が開くと同時に左手を下ろす。そして、彼女が携帯を切ると、部屋で鳴り響いていた俺の携帯電話も鳴り止んだ。

 わかったことと、驚いたことが一つずつある。

 わかったことは、この少女にはめられたということ。そして、驚きは、

「お前は、あの時の――設定・変態女」

 眼鏡をかけた気品のある顔、その女が昨日のコンビニで万引きをしていた女だったからだ。昨日の今日だ、素材・肉には興味がなくとも、覚えてはいる。

 その女は、一度、さわやかに笑むと、スッと、人差し指を俺に向け、告げる。

「多賀谷シンパチさん、あなたを、アナザー悪用の容疑で確保します」

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