表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

友達の変化

作者: 藍川秀一

友達の変化

藍川秀一


 幼馴染の彼が変化したのは夏休み明けのこと。変わったというより、自分を抑え込むのをやめたといった方が正しいのかもしれない。昔から、頭のいい人ではあったが、万能というわけではなかった。

 頭の悪くない人、というのが正しいたとえかもしれない。

 彼は突然教室に入ってきて座っていた私の目の前にくる。

「本気出したわ」

 私は何のことを言っているのか分からず、首をかしげる。すると彼は、次々と期末テストの答案を机の上に広げていった。そのほとんどが九十点越えで、得意な数学は百点、苦手な英語でさえ、八十点後半をとっていた。

 彼を変えたのは何だったのか、私にはそれがどうしても分からなかった。今まで彼が勉強に対して熱心になることは一度もない。テスト勉強なんて、やったことがないくらい勉強を毛嫌いしていた。それでも、ある程度の得点は取れていたように思う。彼はそれに満足もしていたように思う。もともと彼は勉強そのものに本気を出すような人ではなかった。

 私は不思議に思い、彼自身に聞いてみた。どうして、テスト勉強をする気になったのか。

 すると彼は、いつになく真剣な顔でこう答えた。

「おれさぁ、多分天才なんだよね」

 本気で殴りたくなった。何を言いだしたかと思えば、自慢話だった。しかし、彼がそこから話を続けたため、私は殴りそうになった右拳を必死に抑え込み、彼の話を聞いた。

 彼を変えたのはどうやら、夏休みでの出来事だったらしい。

 彼はたまたま誘われていた数学の勉強会に参加するために、週に三回くらいは学校に来ていたという。私が暑い中、汗と血を吐きながら部活動に勤しんでいる時に、クーラーの効いた部屋で、涼しく勉強をしていたと言っていた。

 そしてある日、先生が面白半分に持ってきた問題があったらしい。勉強会を受けに来ていた生徒は真剣にその問題に取り組んだ。しかしその中に、どうしても皆が解けない問題が、一つだけあった。それを、彼が一人だけ解いてしまったようだ。その問題はセンター試験出た問題で、まだ教えていないことだから解けないのが当たり前。むしろ先生は、これが解けるようにならないとダメ、という意味でその問題を入れていたらしい。しかし彼は、それを解いてしまったと答えた。冗談だとは思っていたが、先生に聞いてみたところ、数学だけはトップレベルの大学に入れるレベルだとはっきり答えていたから、嘘ではないようだ。

 そんな出来事があり、彼は勉強することにはまったと言っていた。誰も解けない問題を解いた時の快感が忘れられず、テスト勉強を少し頑張ってみようと思ったのが期末の結果らしい。

 彼はその後も真面目に勉強し、高得点を取り続けた。

 人というものは、なにがきっかけで変わるのかわからないものだと知った。たとえ私がその勉強会に顔を出したとしても、彼ほどの影響は受けなかっただろう。

 きっかけというものは、いくつもの偶然が重なり、奇跡のような経験することによって生じるもの。彼のことに関しても、彼以外の誰かが問題を解いてしまっていたら、結果はまるで違っていたかもしれない。

 なにが起きるのがわからないのが人生。それでも、変わるきっかけを経験している人を見ていると、それはなんだか、神様のいたずらのように思えてくる。

 そういった奇跡の連続で人生が成り立っているのだとしたら、人っていうのは案外、悪くないものなのかもしれない。


〈了〉


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ