パズズさんと僕とおじいさんと警察官さん
ネオンがきらめく街を当ても無くぶらぶら歩いている小さな生き物は、パトカーのサイレンの音が鳴る度にビクビクしていた。そんな自分に小さな生き物は少しイライラして足下にある空き缶を「エイッ」と蹴り飛ばした。空き缶はカンカンッと音を立てたあとにカランカランと転がり古ぼけたテンガロンハットを被った大きな男のブーツに当たった。
するとテンガロンハットを被った男は「いてーーーー!」と大きな悲鳴を上げながらブーツを手の指先で撫でた。
小さな生き物は「あっ!」と口元に手を充て驚いたがバレては絶対絡まれると思い平常心を装って足早に男の横を通り過ぎようとする。
(神様。一生のお願いです。頭が少し痛そうなあの男にバレないようにお願いします。一生の願いです。お願いします)
神様は絶対一生の願いではないだろうとツッコミたい気持ちでいっぱいであろうが、小さな生き物はひたすら神様に願った。(あと少し・・・男の背中が見えた瞬間走りだせば・・)と小さな生き物がそんなふうに思って男の背中が見えた瞬間、男は小さな生き物に視線を向けて言う。
「あー。超いてー。いてーよ。なぁ坊や」
彼はそう言いながら通り過ぎようとしている小さな生き物を見た。
「どうかされたんですか?」と小さな生き物は心の中で(バレてるけど多分バレていない!バレてない!)そう願いながら平然を装った。
「いやー。よー。なんかさー。めっちゃ空き缶が全速力でさー。俺のさー。足にぶつかってさー。足の指が全部折れた感じになっちゃったんだよ」
「そうなんですね。空き缶の野郎酷いですね。それじゃあすぐお医者さん呼ばないとですね」
小さな生き物はこいつに関わっては絶対ダメだと思い全速力で逃げようとする。
すると彼は小さな生き物の肩を掴むと「まあー。そうだなー。医者呼ぶのはー。後にしてー。んー。それよりも先に空き缶を蹴った犯人を見つけなきゃーいけないから。あー。なんと言う名かな?」
「フォルテ・フェリーチェです」
「あー。フォ、ロドリゲス君かー。えー。君の肩借りていいかな?あー。足の指が全部折れちゃってるんでね」
小さな生き物はまた名前がロドリゲス!と思いながらも「いや、なんと言うか、フォルテ・フェリーチェですけど、足の指が折れてるならめちゃめちゃ痛いと思うんで、やはりお医者さん呼ばないと大変な事になっちゃいますよ!ね?おじさん!呼びましょ!」とさりげなく自分の名前をアピールしつつ、小さな生き物は彼の肩をポンと叩いた。
「あー。ロドリゲス。俺はおじさんじゃねーな。まずな、おじさんではないんだよ。あー。なんと言うかー。まぁ50歳後半ではあるんだが、俺にだって立派なパズズってー名前があるんだ。わかるか?あー。ロドリゲス。おじさんじゃーないんだ。な?あースゲー痛てぇー。まずは空き缶蹴った奴を見つけ出してーボコボコにしてー、殺さなきゃならんなー。あー。痛てぇー」
小さな生き物は本気でこいつは厄介な奴に絡まれたもんだと思いながらも、(もしかして空き缶蹴った事バレてないのかも?ん?いや、まてよ。もしかして本当は気付いてて後で僕を殺そうと?まさか・・・そうであるなら先に謝らなきゃ)と色々な考えがよぎった。
「あー。ロドリゲス。もし空き缶蹴ったー奴を見つけたらーまず謝ってもーボコボコにして殺さなきゃーならんからー。見つけたら報告よろしくーたのんだぞ」
(あーあ・・・ダメだ。見つかったら殺される。いやもうこの人は既に僕が犯人だと知っているのに僕を殺すまでの余韻を楽しんでいるのかも知れない)小さな生き物は彼に本当の事言っても無駄だろうと悟り、いっそうのこと彼と別れるまで嘘を言ってやろう。
バレていても、いざとなれば大声で助けを呼んでタイミングを見計らって逃げだせばいい。役者魂だ!頑張れ僕!頑張れ僕!
小さな生き物はそう考え、頭のスイッチを切り替えた。
「あのー。じゃぁまず骨折れているなら犯人を中々見つけられないと思うので僕が変わりに見つけますよ!」
「本当か?」
「ええ!僕、パズズさんの少し後ろで歩いていたんですが、パズズさんほどの体型していた男が缶を蹴ったのを覚えているんです。
蹴って貴方の足に缶がぶつかる直前に僕の側を横切って走り去っていったんです!僕憶えているんです。こっちです!」小さな生き物は架空の登場人物が走り去っていったであろう方向にユビを指す。
「あー。それは本当か?!ロドリゲスー」
「はい。間違いありません。僕は見たんです。あっちです!僕、追いかけてとっちめてやりますよ」小さな生き物は胸を張る。
「あー。ロドリゲスわかった!それが本当ならそいつを捕まえてー。ボコボコにしてドラム缶に詰めてぶっ殺してやろーや。なぁ?」
「はい!やってやりましょう!」
「あー。ただな。ロドリゲス嘘いっちゃぁーいけない。なぁ?わかるだろー?俺はー見てたんだ缶が当たる前にさー。お前が1人でいたのを。なぁロドリゲスわかるだろう?それに今までだってネズミすらーこの道通ってないぜー?ロドリゲスー。」
(ああ・・・もうわかってんじゃん。わかってて言ってんじゃん)
小さな生き物心の底から項垂れる。
「あー。まぁー。もし本当にロドリゲスが知ってるつーなら、こうしないかー?実は俺はーこう見えても魔法使いなんだ。なぁー。ロドリゲス。俺はー魔法使いなんだ。だけどー俺はー今足の指が粉々だ。そんでーロドリゲスにひとつ頼みたいんだが・・・」
「はぁ・・・」
「でなー。ロドリゲスが言ってる犯人つーのを自分が透視して今どこにいるかつーのを見つけてやるー。そんでなー。その場所にロドリゲスが全速力で向かってー取っ捕まえて俺に差し出す。そんで俺がそいつをボコボコにしてー俺が疑っていたお前の容疑は晴れる。どうだー?理解しただろ?」
小さな生き物はこのパズズと言う奴は何を言ってるのかよくわからなかったが、理解したと言わないと行けない恐怖を感じた。
「はい。じゃぁ僕はパズズさんが占いで見つけた犯人をとっ捕まえて来ればいいんですね?」
「違う違うー。なぁロドリゲス。俺はー占い師って言う信用もねーくだらねー生き物じゃねーんだ。俺はー魔法使いなんだよ。もう一度言うが俺はー魔法使いなんだ。わかるだろ?ロドリゲス」
「はぁ・・・」
小さな生き物は魔法使いと占い師なんてほとんど変わんないじゃないかと思いつつも一刻も早くこの場から去りたいと思っていた。
「じゃぁ俺がー。今占いの道具だすからーちょっと待ってろ」パズズはそう言うとボロボロのトラベルバックから赤いドライヤーを出して「準備ーオーケーだ」と言った。それからドライヤーのスイッチを押すと唸りだした。
「ブォー!ブォー!ブォー!」パズズはドライヤーの風音を大きな声でマネをする。
小さな生き物は(ああ・・・魔法使いって言いながらも、占いの道具とか言い出すし。マジで怖い)と思いながらボッーと彼のドライヤーモノマネを見る。
「よーし!見つけたぞ!犯人を!ロドリゲス!見つけたぞ!」
小さな生き物は犯人は僕だってわかってるのにと思いながらも言い出す勇気もなく「ありがとうございます」と答えた。
「ではー。ロドリゲス。お前の背中の右側に曲がり角があるだろー?」
「はい。あります」
「そこの曲がり角から毎週この時間帯に金持ちのスーツを着た紳士なー爺さんが出現するんだー。わかるか?」
「はい。わかります」
「そんでだー。俺の占いによっちゃー。そいつは相当なー。金持ちのおじいさんだー。そいつがー。俺の足の指をさっき粉々にした悪い爺さんだー」
「えっ?はぁ・・・」
「ただー。悪い奴でも爺さんだ。ロドリゲス」
「えっ?はぁ。まぁ爺さんですよね」
「そこでーだ。そいつをお前が取っ捕まえてー。俺に差し出したらー俺はーその爺さんをー魔法で殺しかねない。わかるだろ?ロドリゲス」
小さな生き物は魔法?そもそもさっきボコボコにして殺すとか言ってたし殺さないのかよと心の中で思ったが「そうですね」と答えた。
「ただ。俺も足の指が粉々で動けーん。だけどー悪い爺さんにーちょっとは懺悔してもらいたい。そんでだー。ロドリゲスお前にはその爺さんからパパッとその爺さんのスーツの内側のポケットに入ってる長財布を慰謝料として奪ってきてーもらう」
「えっ?それは盗っ人って言う奴じゃ?」
「いやー違う。ロドリゲス。いいか良く聞けー。もし、自分が相手を怪我させたらー。普通は慰謝料あげるだろー?それと同じだー」
彼はそう言うと小さな生き物を鋭い眼光で見つめる。
「でも黙ってなんて・・・」
「ロドリゲス。いいかー?その爺さんはー。物凄い悪党だ。わかるかー?ロドリゲス。奴さんは悪党だから俺の骨が粉々になったとしても無視をするんだー。なぁ?だからそう言う奴はー。財布を抜き取って精神的にやっつけるのが一番なんだーわかったか?ロドリゲス」
小さな生き物はもうなんだっていいからここから早く抜け出さなきゃならないと思い
「わかりました」と答えた。
「よしー。じゃそろそろ来るぞー!いけロドリゲス」彼はそう言うと手を振る。
小さな生き物はやれやれと思いながらも全速力で角を曲がった。
すると丁度パパズの言っていたお爺さんがこちらを曲がってきた。
小さな生き物は(シメた)と思いお爺さんに勢いをつけてタックルする。するとお爺さんは衝撃でよろめいた後、小さな生き物と共に身体が重なり合って転倒した。小さな生き物は倒れたと同時にすかさず内ポケットの中に片手をツッコミ財布を抜き取ろうとした。だがその時、お爺さんはすぐさま財布を手に取るともう片方の手で小さな生き物の手を掴んだ。
「あっ!」小さな生き物は叫ぶとお爺さんは
「見つけたぞ!コソ泥坊や!」と叫んだ。なんと、お爺さんはついこの間公園で会ったお爺さんであった。
小さな生き物は(ああ・・・こっちも地獄だった)と思うとすぐさま気持ちを切り替えて財布を放し走りさろうとする。
だがお爺さんの揺るぎない手の圧力が小さな生き物を離さなかった。
「坊や人の物を盗もうとしたら神様からバチを当てられるってご両親から習わなかったかい?」お爺さんは一言言った後立ち上がり体勢を整えた。
「ごめんなさい。僕。怖いおじさんから脅されてまして。その・・・やっちゃいけないってわかっていたんですけど、どうしても怖くて・・・」
(ああ・・・まずい。まずい状況だ。早くこの状況から抜け出したい。神様め!神様め!)
「そうか。でもね。脅されても強い意志を持って時には歯向かわなきゃならない時だってあるんだよ?坊や」
「ええ。お爺さんの言う通りかも知れないです。僕は人として間違った事をしたんでしょう。本当に申し訳ないです」
(チッ!戯れ言がうるさい爺さんめ!それよりもどう逃げたらいいんだろう)
「まぁ、坊やは人ではないと思うがね。素直に謝る事は良い事だよ」
「はい。本当にもうしません!申し訳なかったです。とりあえず悪党に屈するわけには行かないので、ちょっと立ち向かってきます!それでは」
(早く!今なら・・・今なら雰囲気でいけるかも知れない)
小さな生き物はすぐさま踵を返して歩き出そうとする。だがお爺さんの手は放さない。
「待ちなさい!坊や!このままって訳にはいかないよ。さぁ警察だ。坊や」
「えっ?ちょ・・・待って下さい!僕謝りましたよ!今謝りました!」
「坊やそれはそれだよ。罪は罰をなして初めて罪となすんじゃ。そしてちゃんと罪を償ってから初めて心一新、新たな生活を送れるんじゃ。さぁ警察に一緒にいこう」
お爺さんはそう言うと小さな生き物の手を引っ張った。
「ちょっと待って下さい!謝ります!もっと謝りますから!お願いです!これから心一新しますから!」
小さな生き物は焦りだす。
「坊や。謝る事で済むなら警察はいらないんだ!それにこの間だってワシの財布を盗んだじゃろ!エェッ!?盗んだじゃろ!」
お爺さんはだんだんと小さな生き物に声を荒げ出す。
「ああ!この間の財布も返します!返しますから!もう誰の物も返しますん!返しますんから!」
「返しますんってどっちじゃ!坊や!聞き分けが良くないのは駄目じゃぞ!さぁ警察に一緒にいくんだ!」
「ああ!嫌だ!嫌だ!助けて!誰か助けて!襲われる暴漢に襲われる!」
「コラッ!何を言うとんじゃ!盗っ人めが!そんな事言ったって罪から逃れられんぞ!」
「嫌だ!やめて!助けて!助けてー!誰か助けてー!パズズ!パズズ!」
「だから無駄だと言ってるじゃろうが!さぁ警察に行くんだ!さぁ!こっちにこい!」お爺さんは強い口調で小さな生き物をひっぱる。すると「そこの2人どうされた?」
と黒い制服を着た男が突然話しかけてきた。
「今この盗っ人と警察に行こうと・・・うん?ああ!警察の方でしたか!丁度よかった!」
(ああ!まずい!まずい!警察だ!ここに警察がいる!まずい!まずい!)
「盗っ人がどうかされたんですか?」
「ええ!この小さな生き物が私の財布をぶつかったと同時に今盗もうとしまして、現行犯で今ワシがとっ捕まえた所ですよ!」
「違います!この人が僕を急に珍しい生き物とか言って襲ってきたんです!優しい警察の人信じて下さい!助けて下さい!」
「嘘をつけ!この盗っ人め!警察の方!この盗っ人の言うことは信じちゃいけませぬぞ!この間だってこの盗っ人がワシの財布を盗んだんじゃ!」
「まぁまぁ。2人ともまぁ落ち着いて!落ち着いて!あんまし騒いでるのも近所迷惑ですから!」
警察はそう言うと噛んでいたガムを路上に吐き捨てる。
「あんましだ!あんましですよ。警察の人!僕はやってない!絶対やってないです!」
「んー。まぁでも事情が事情だからちょっと署まで来てもらわんとならんからね。こっちのちっこいのだけ来てもらうか」警官はそう言うとベルトに引っ掛かっている拳銃をチラつかせた。
「警官殿。わしは行かなくてよろしいんですかね?」お爺さんは不思議に思いながら聞く。
「ああ・・・まぁ事情がわかり次第こっちから連絡するからとりあえず財布だけ置いてって」
「はて?何故財布を置いていかなきゃならんのですかね?」
「えっ?そりゃそうでしょ。あんた!こんなちっこいチビを襲ってたんだろ?こっちからしたらあんた暴漢だよ?捕まえたっていいんだよ?」
警官はニヤニヤしながらお爺さんを見た。
「いやいや、この坊やがわしを転倒させて財布を盗もうとしたんですよ?わしもいかんと説明つかんでしょ!?」
「いいや。俺は最初から見てたよ。あんたはこのガキを襲おうとした。俺は見てた。俺の言ってる事が間違ってるとでも思ってるの?」警官はお爺さんにしかめっ面で睨みつける。
「そうですよ!僕襲われそうになったんです!警察の人はよくわかってらっしゃる!僕怖かったんです!お願いします!助けて下さい!」
「いやいや!警官殿!あんたの勘違いじゃよ!わしの方が被害者なんじゃ!」
お爺さんは警官の言っている事に驚きを隠せない。
「ああ?ボケてんのか!?爺さん!俺は見てたんだ!ここら辺は自分の管轄なんだからな!全部把握してんだ!あんましイカレタ事言ってると本当に逮捕するぞ!」
警官はそう言うと銃口のロックを外した。
「そんな事したら不当逮捕じゃ!本庁に連絡入れてあんたを辞めさせてやる!」
「爺さん。あと10秒数える間に財布落としてここから立ち去らなきゃ、公務執行妨害でぶち殺すがいいか?」
警官は銃口をお爺さんのこめかみに狙いを定めると言った。
「この悪党め!」
お爺さんは捨て台詞を吐くと最近買ったばかりの財布を地面に叩きつけ去っていった。
小さな生き物は警官に「助かりました!ありがとうございます!」と感謝を述べるとその場から立ち去ろうとする。
「いいや!チビ。お前変わった生き物だろ?ちょっと俺についてこい。俺はお前を知ってるんだ。それと一生ブタ箱で暮らすか、見世物屋で俺に毎月見逃し代として金を渡すか、どっちがいい?」
警官はそう言うと今度は小さな生き物に銃口を向けた。
「えっ?助けてくれたんじゃないんですか?」
「ああ?お前何生ぬるい事言ってんだ?ああ?お前をただで助けて何のメリットがあるんだ?おい!」
「いや、だって警官は庶民の味方でしょ?おかしいですよ!金品を要求するなんて!」
小さな生き物は踏んだり蹴ったりの自分に腹が立ったのと悔しさで足をダンダンと地面を蹴る。
「ああ。警察は庶民の味方だが化け物の味方じゃねー」警官は地面に落ちていた財布を拾うとズボンのポケットにしまった。それから「さぁチビ行くぞ」と言うと小さな生き物の手首を引っ張ると小さな生き物は悔しさでいっぱいだったのか本気を出したのか、警官の手を振りほどき拳銃と財布を警官から奪うと全力で走り出した。
「あっ!コラぁ!チビ!まてー!コラー!」
警官は小さな生き物のあとを追うが、小さな生き物の全速力には勝てなかった。