少女の哀れみ
パラパラと雪が降り積もる中、小さな生き物は自分の身体以上の大きな傘を差しながら、何かの歌を口ずさんでいた。
「君は僕の幸運の星ードゥードゥドゥードゥードゥドゥー雨の中で歌っているんだー
ただわけもなくーどうのこうのでー
一休さんのー屏風がートンチが効いててー殿様がーびっくりーしたらー雨の中で歌ってるんだー」
すると小さな生き物は地面の凍ってる部分を踏んでしまい「あっ!」と言った瞬間にスッテンコロリンとコケてしまった。
小さな生き物は仰向けの状態で(痛いなぁー)と思いながらも空を見上げる。
小さな生き物からみた壮大な空は、真っ白な雪がてん菜糖を思いっきり葉っぱにかけて、まぶした後、油で揚げて更にきび糖をかけ、その上にトロトロのハチミツを浴びせて更に高級白砂糖の和三盆糖をハチミツが見えないぐらいかけた
【葉っぱのオーシャンハニー揚げ】に見えた。
小さな生き物は目の上から見える壮大なオーシャンハニー揚げに気分を良くし、小さな口を開けてパクパクとオーシャンハニー揚げを食べる。
「うーむ」
小さな生き物はじっくりと真っ白な雪を口の中で溶かすと食べたことのないオーシャンハニー揚げの味を味わった。
「これがオーシャンハニー揚げかー」
小さな生き物は雪の中ポツリ呟くと急に何を思い出したのか目元をうるうると赤くした。
「ママ・・・」
それから小さな生き物は雪をおにぎりを握るかのように丸めてからポイッと真上に投げた。
雪は丸められたのが嫌だったのかはたまた投げられたから嫌だったのか小さな生き物の顔に急降下してぶつかった。
「イテッ!」
小さな生き物は一瞬怯むと
目と鼻がグジュグジュになりながらほろほろと泣いた。
そしてまた小さな生き物は泣きながら雪を握ると丸めてポイッと真上に投げる。
またも雪は小さな生き物の顔に向かって落ちた。
「イテッ!」
更にもう一度真上に投げる。そしてまたもや顔に落ちてくる。
「イテッ!」
小さな生き物はそれがなんだか楽しくなってきて次々と雪を握りしめては真上に投げる遊びをしていた。
するとそれを遠くから見ていた少女が
「何してるの?」
と言いながら駆け寄ってきた。
しかし小さな生き物は自戒顔面雪投げ遊びに無我夢中だ。
「ねぇねぇー何してるの?」
もう一度少女は小さな生き物に聞く。
「ふん!ふん!」
「ねぇーねぇ!何してるの?」
少女は無我夢中の小さな生き物に今度は大きな声を上げて聞いた。すると小さな生き物はその声に気付き少女の顔をみて、ちょっと一瞬時が止まった後
「あっ、こ、こんにちは!」と言った。
「こんにちはー!」
少女は大きな声で挨拶すると雪を両手で掴んだ。
「ねぇねぇ!おサルさんは一体ここで何してるの?」
小さな生き物に少女は問いかけると雪を手でギュッギュッと丸めた。
小さな生き物は少女に無我夢中で寂しさを紛らわすために遊んでいたのに何て事してくれたんだ。と思いつつも一言「自戒顔面雪投げ遊びしてるんだ」と言ってもう一度自戒顔面雪投げ遊びするため集中しだした。
すると少女は「楽しそう!ソフィアもやる!」と言って小さな生き物の横に倒れて自分の顔に雪を落とす。
小さな生き物はソフィアの顔をチラッとみるとまた自戒顔面雪投げ遊びに集中した。
「ふん!ふん!」
「フン!フン!」
「ふん!ふん!」
「フン!フン!」
「ふん!ふん!」
「フン!フン!」
それから数分経ったあとソフィアは自戒顔面雪投げ遊びを途中で止めて起き上がった。
「ねぇ!おサルさん。面白い?」
「ううん。面白くない」
「そうよね。やっぱり面白くはないわ」
ソフィアはそう言うと手でパンパンとズボンを叩く。
「お猿さんはどうしてこんな所で雪を投げていたの?」
「わからない。ただこの遊びしてると、なんだか急に楽しくなったからやってみたの」
「・・・そうなんだ。でもさっき面白くないって言ってたわ!」
「面白いのと楽しいのは違う」
「同じだわ」
「全然違うよ。持続性の感情か一過性の感情かの違いだし」
「そう。よくわからないけど、あなたちょっと不思議な生き物ね!何処から来たの?」
「うーん。わかんない。僕、記憶置換能力なの」
「記憶置換能力?それってどう言う意味なの?」
「うーん。僕にもよくわからない。でも多分記憶置換能力って事なんだと思う」
「ふーん。よくわからないわ。でも何処から来たのかなんてどうでもいいわ!私そう言うのにはこだわらない主義なの」ソフィアは少し大人っぽく言うと小さな生き物の顔見て笑った。
小さな生き物はソフィアに目を合わせず「そうなんだ」と一言言うと、すぐさままた自戒顔面雪投げ遊びを開始する。
ソフィアはそれが気に入らなかったのか小さな生き物が自戒顔面雪投げをしている最中に雪を手で弾いて小さな生き物の邪魔をする。
「ちょっと!ちょっと!今やらなきゃならない事を邪魔しないでよ」小さな生き物はしかめっ面でソフィアに言った。
「でも絶対こっちの方が面白いはずよ!」とソフィアは言ってまた邪魔をした。
「ちょっ!ちょっと!さっきからなんなん?」
「フフッ!おサルさん面白いんだもの!私もおサルさんと何か面白い事したいわ」
ソフィアは小さな生き物にそう言うとまた邪魔をする。
「ねぇねぇおサルさんはなんで一人でいるの?パパやママはどこにいるの?」
「パパやママがどこにいるかはわからないんだ」
「それって迷子なの?」
「ううん。迷子ではないよ」
「でも今おサルさんはどこにいるのかわからないっていってたわ!あなたはまだ子供だろうから迷子なんじゃないかしら」
ソフィアは小さな生き物のお腹を軽くなでながら言った。
「んふふふ!」小さな生き物は撫でられて笑う。
「やめてよ!お腹はくすぐったいよ!僕はお腹弱いんだ!」
「そうね!弱そうだわ!それに私の問いに答えなきゃならないのよ!」ソフィアはいたずらな顔をして今度はお腹をくすぐった。
「ウフフ!やめてったら!やめウフフ!」
小さな生き物は楽しそうに笑い転げた。
「ウフフ!答えるから、ウフフ!ママとかの事答えるから!やめて!ウフフ!」
「さぁ言いなさい!言わなければこのままずっとくすぐるわ!」
「ウフフ!答えるって!すぐやめてくれたらウフフ!答えるから!ウフフ!」
ソフィアは小さな生き物の笑い顔を眺めながら「わかったわ!じゃあ答えて!」と言ってくすぐりをやめた。小さな生き物は少し呼吸を整えるとソフィアに言う。
「迷子とは違うんだけど、ママとパパを探す為に色々な所行ってるんだ。タオルをママからもらった記憶はうっすらあるんだけど、それ以外の記憶が僕にはないから中々ママも見つからないんだ」
「そうなんだ。可哀想に。記憶喪失ってやつね!」
「うん。それだ!記憶喪失ってやつなんです」
「タオルに住所とか書いてないの?」
「うん。書いてない。唯一僕の名前だけ書いてあるんだ」
小さな生き物はお腹のポケットからタオル出すとソフィア見せた。
「フォルテ・フェリー・・・ロドリゲスって言うんだ」
小さな生き物は何でここの街の奴等全員僕の名前をあえてロドリゲスって言うんだろう?と思ったが、もうなんか最早どうでも良くなっていた。
「うん」
「他は確かに何も書いてないわね」
「そうなんだ。だから手がかりがないの」
「手がかりがないと難しいわね」
「そうなの」
「困ったわね。でも昔私のパパやママは困った事があったら警察を訪ねたら良いと言ってたわ!」
「警察はダメだよ僕人間じゃないから捕まっちゃう」
小さな生き物は警察と言う言葉に少し焦りながらソフィアに言った。
「そうね。確かに。子ザルだと荒らされるかもって思っちゃうから捕まるかも知れないわね」
「そうでしょ。僕は畑とか荒らさないけど誤解して捕まえるかも知れないから警察は困るんだ」
「でも探してる間は何処に住んでるの?」
「公園とか安全な場所で寝てるの」
「こんな寒い中で?」
ソフィアは驚きながら聞いた。
「そう。でも僕の体毛は暖かいからヘッチャラだよ」
「何か食べたり出来てるの?」
「うん。ミルクさえあれば何もいらないの」
小さな生き物は自慢気に言う。
「そうなんだ。でもなんだか可哀想ね」
ソフィアはそう言うと少し考えた後、思いついたように言った。
「そうよ!ロドリゲス!あなた私のお家に住めばいいわ!パパもママも困ってる人がいたら助けてあげなさいって言ってたし!きっとパパもママも良いよって言ってくれるわ!そうだわ!そうしなさいよ!」
「えっ?良いの?」
「大丈夫よ!ちゃんと事情説明したらきっと喜んで迎えてくれるに違わないわ!」
「ありがとう!」
小さな生き物は少女の優しさに感情が溢れんばかりの感謝をした。
「うん!お家ここから近いの!今からもう友達よ!さぁお家に行きましょう!」
ソフィアはそう言うと小さな生き物の手を掴んで歩き出した。
すると、前から「おーい!ソフィアー!」とソフィアを呼んだ男がいた。
「パパよ!」
ソフィアは「パパー!」と叫ぶと小さな生き物を掴んでいた手を離してすぐさま男に抱きついた。
小さな生き物は男の前まで行くと立ち止まって少し男を恥ずかしそうに見上げた。
「なんだね?この生き物は」
男は少し怪訝そうな顔をする。
「パパ!この子ロドリゲスって言うんだけど、可哀想なの!パパとママを探してるんだけどなかなか見つからないから見つかるまでお家で飼っていいでしょ?」
「こんにちは!フォルテ・フェリーチェです!」小さな生き物は男に挨拶をした。
「あっ・ああ。こんにちは」
「ね?パパ!可愛いでしょ?人間じゃないのに喋るのよ!」
「ああ。そうだね。凄いねソフィア」
「でしょ?少しだけ!少しだけ飼っていい?」
ソフィアは男にキラキラした顔で聞く。
「うーむ。いや、困ったな。生き物だから、はい!わかったよ。とはなかなか言えないよソフィア」
「えっ?なんで?パパやママは困った人は助けなさいって言ってたじゃない!」
「うむ。まぁ助けろとは言ったが、住ませるとなると・・・なんと言うか、わからん生き物だし。何をするかわからんだろうし」
男はソフィアの言葉に困った顔をした。
「なんで!パパ!なんでなの?」
「うむー。私だけの判断じゃなかなかいいよとは言えんのだよソフィア」
「そっか!ママね!ママの許しが出れば良いのね?パパ!」
ソフィアは小さな生き物に耳元で「大丈夫だからね!ママに言うからここでちょっと待ってて」と囁いた。
小さな生き物は「うん!」と頷く。
「そしたらママに言わなくちゃ!パパ!お家急ぎましょう!」ソフィアはそう言うと男の腕を掴んで引っ張りだした。
「うむ。わかった。わかった。まぁそんなに焦るなソフィア」男はそう言いながらも嬉しそうに一緒に家に向かって歩いて行った。
それからソフィアと男は2度とここには戻って来る事は無く、小さな生き物は悲しそうな顔でその場を後にした。