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小さな町の新聞記事



小さな生き物は今日も人気の無いグランドヒルと言う小さな山のてっぺんにあるブランコと砂場だけで出来た公園のベンチに足をブラブラさせながら座っていた。


「僕はどうしたらいいんだろう」


小さな生き物は項垂れると呟く。それから掌を見つめると、ふと思ったかのように2つの手でじゃんけんをする。


「じゃんけんポン!じゃんけんポン!」小さな生き物はそう言いながらどちらの手が勝つか予想をする。それは公園で寝泊まりする時に必ず朝起きてからする毎日の日課だった。


今日こそはと思いながらも予想はするが、一向にどちらも勝てないのだ。どちらかの手が勝てば彼はスッキリするのだが無心になっても、朝目覚めた瞬間にやってもどうしてもあいこになってしまっていた。彼は勝てない理由を不思議そうにしながら朝焼けの空を見つめた。


すると一瞬ブァーと強風が吹いてどこからか新聞が飛んでくると小さな生き物の足下に落ちた。


小さな生き物はベンチから足をちょっとずつ下ろすと自分より大きな新聞を拾ってベンチに広げた。


「今日の株価の平均は・・・」


小さな生き物はマジマジと新聞を余す事なく見始める。すると新聞をちょうど開いた一面に

【小さな町にミックジャガーのポスターを突き破った謎の生物現れる!!】と大きく自分の事が書かれていた。


小さな生き物は(とうとう恐れていた事が始まった)と驚愕し、新聞に置いていた手がプルプルと震えだす。


小さな生き物は少し深呼吸を一回するとベンチの下に隠していた一つの赤いハイヒールを握り地面に投げつけた。


すると、ちょうどその時小さな生き物の背中越しから「おーい!そこの僕!」と彼を呼びかける声が遠くの方から聴こえた。小さな生き物はサッと振り向くとそこには見るからに紳士の様なおじいさんがはぁはぁと息を荒げながら小走りで彼の方に走り寄って来た。


「ああ、はぁ、はぁ。すまんね。はぁはぁ、僕、その新聞・・・ん。はぁはぁ、わしのなんじゃよ!はぁはぁ」


小さな生き物は相当大切な新聞だったのかな?と思いつつも「そうだったんですね!」と言いながら広げていた新聞を綴じた。


「はぁはぁ、すまんね、はぁ、さっき急な強風で、はぁ・・・読んでた新聞をはぁはぁ・・・そよ風にさらわれてしまったんじゃよ。はぁはぁ」


小さな生き物は(あれ?強風?そよ風?)と思いながらも


「そうだったんですね!何も無い所から新聞が落ちて来たのでびっくりしましたよ」とおじいさんに愛想良く笑って新聞を手渡した。


「はぁはぁ、すまんね。はぁはぁ、ありがとう坊や」とおじいさんは言うと呼吸を整えるため大きく息を吐いた。


小さな生き物はその息を唾と共に顔面にモロに食らい渋い顔をしたが、おじいさんはそれに気付くどころか、すぐに「今日の株価は・・・」と言いながら新聞を広げる。


小さな生き物は嫌だなと思いつつもお腹のポッケからタオルを取り出し顔を拭った。


「ほほう!昨日より上がっとるじゃないか!」


「そうなんですね!おじいさんの買った株は上がったんですね?」と聞く。


「いやぁー!そうなんじゃ!ドンドン動物園って会社の株を一昨日間違って1000万コイン分買ってしもうてどうしたもんかと悩んでいたんじゃが、どうやら天が味方してくれたんじゃのう」


小さな生き物は1000万コインと言う言葉を聞くと目の色が変わった。


「1000万コインもですか?」


「そうなんじゃ!本来はワルーレと言う会社の株を1000万コイン分買ったつもりだったんじゃが、間違ってしもうてな。災い転じてなんとかじゃ!本当に良かった!」


おじいさんは目に涙を浮かべながら新聞を見つめる。


「それは本当に良かったですね」


小さな生き物は目を輝かせながら紳士なおじいさんを見つめる。


「・・・」


「・・・」


「・・・」


「・・・」


「えっーと。何かね?」


おじいさんは小さな生き物に不思議そうに聞くと新聞を綴じた。


「いえ。特に・・・まぁなんかあれですよね?株勝ったんですよね?」


「おお。そうじゃ!めちゃめちゃ儲けたよ!」


「どれくらい儲けた感じなんですか?」


小さな生き物は聞く。


「うむ!10億コインぐらいはくだらんのう!」


おじいさんはそう言うと笑っていいとものウキウキウォッチングぐらい手や足がウキウキした。


「凄いですね!もう超大金持ちなんですね!」


「そこまで大金持ちではないが、まぁ持っとるよ」


おじいさんは更に笑い声を上げる。


「そうなんですね!でもあれですよね?もし大型ハリケーンなどが来て、僕の真上を新聞が通り過ぎて、僕が新聞を拾わなかったら結果を今見る事が出来なかったですよね?」


「まぁ・・・そうじゃな。今頃30分近く歩いて駅まで戻って同じ新聞をもう一度買っていたところじゃ!」


そう言うと紳士なおじいさんはもう一度新聞を開いた。


「やっぱりそうですよね!僕昔、お母さんに落し物を拾ったら落し物の価値の半分のお金貰えるって聞いたことあって、ねぇおじいさん?僕さっき新聞拾ったんですよ」


小さな生き物はそう言うと紳士のおじいさんに両手を広げる。


「おお!ん?ああ。あれ?ちょっと解釈が違うようじゃが」


紳士なおじいさんは不思議そうな目をしながら笑顔で内ポケットから長財布を取り出し、


「まぁ、なにわともあれ坊やが新聞を拾ってくれなかったら、私はとっくに精神がおかしくなるところじゃったからな!せめてもの礼じゃよ」


と言いながら小さな生き物に新聞代の120コインを小さな生き物に渡した。


小さな生き物は「チッ」と軽く舌打ちしてから紳士なおじいさんに「ありがとう!助かります」と言ってお辞儀をした。


「ではワシはこれから会社の役員会議があるからこれにて失礼するよ」と言って振り向いた。すると小さな生き物はこのまま帰させるには行かないと思いとっさに「ねぇねぇ、おじいさ・・・お兄様!もしかしてあれですか?どっかの社長か何かですか?」と小さな生き物はゴマを擦りながら聞く。


帰ろうとしていた紳士なおじいさんは振り返ると小さな生き物に言う。


「ああ。まぁ社長じゃな。社長?うむ。今は違うか。何というか軽い会長みたいなもんじゃな」と言った。小さな生き物は(しめた!)と即座に頭の上についてるタンポポレーダーが反応し、更に言葉を続けた。


「会長様!?凄いですね!会長なんて!人生の勝ち組ですね」


「勝ち組?ワッハッハ!坊や人生に勝ちとか負けとかあると思うかい?」


紳士なおじいさんは小さな生き物に聞く。


「ええ!勿論ですよ!なんだって勝ちや負けはあると思うんです。自論なんですが、お金さえあればなんだって出来るし、自分の思い通りに動かせると思うんです。例えば女なんか彼氏がいたとしても札束さえ出せばすぐホイホイついていくだろうし、高価なワインや車や料理なんか奢ってやれば男も群がるだろうし、女だってすぐ身体を差し出すだろうし。色んな人が寄ってきてキャーキャーするじゃないですか!特に会長ともあろう方なんて、プール付きの超高級物件に住んでフェラーリ乗り回したりしてVIPしか入れないような高級料理屋なんか美人秘書と行ったりして、食事が終わったらその秘書と朝まで高級ホテルで一緒に泊まったりして最高じゃないですか!また仕事が休みの日はプールサイドで大好きな野球や、フットボールの試合なんかを美味しいブルーハワイカクテルか何かをボーイに作らせて飲みながらゆっくり観戦したりして、それからペチャクチャ・ペチャクチャ」


小さな生き物の話は止まらない。紳士なおじいさんは左腕にしていた時計をチラッとみるとちょっとめんどくさいなと思い話を遮るように言った。


「ああ。なんと言うか、まぁあれじゃよ。今言っている言葉はあまり良い考えではないし、坊やは映画の見過ぎと言うか、わしはそんな事しないと言うか、まぁわしはこう見えても忙しくて遊んだりお金をわんさか使うような事がここ50年ぐらいはないんじゃよ。それと、もうわしもそろそろ会社戻らんといけんのでな。悪いんだがボチボチ帰らせていただくとするよ」


「えっ!ああ!そうですね!お忙しいですもんね!いやー。それにしても会長さんって凄いや!尊敬してしまいますよ!」


小さな生き物はそう言うと、どうぞ失礼しました。と言わんばかりに片手を広げておじいさんに握手を求めた。紳士なおじいさんは少し手をスーツで拭いた後小さな生き物の手を握った。その瞬間小さな生き物はおじいさんの内ポケットから財布を抜き取ると全速力で走る。


おじいさんは「あっ!まてー!」と言ったが彼の足では小さな生き物に追いつかなかった。


おわり。

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