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ケイティの思惑

ケイティは胸の先まで伸びきった髪をかきあげると「フゥ・・・」と一息ついた。


「後3時間・・・」


彼女は切羽詰まっていた。ネタがないのだ。

新聞記者として5年やってきたが、スプリッドと言う町に異動となってから記事を書く事にこれでもかと言うぐらいネタに困っていた。


「ああ。ないわ。この町平和過ぎるのよ」


彼女は元々都会であるニューシーカの犯罪記事を担当していてバリバリ働いていたが、上司のマンソン氏の必要なセクハラに耐えられなくなり、異動を希望した。が、異動先が《蛇が脱皮した!》と言うぐらいの事で記事になるほど平和な町に異動させられ、犯罪記事ばかりをやっていたケイティにとってはネタがなさ過ぎて毎日地獄でしかなかった。


「もう記者もそろそろ潮時かもね・・・」


ケイティは一言呟くとスマホを手に取りスプリッド町新聞社のサリバン局長に連絡を入れた。

「ケイティです」


「おお。ケイティ!調子はどうだ?」


「いや、もう、なんと言うかグルビーと言うか、どうしようもないんです・・・」彼女はそう言うと次の言葉を探していた。


「そうか。この町に来て半年ぐらいだっけか?」


「ええ。それで・・・サリバン局長に伝えたい事がありまして」


「ああ。ケイティ。今日はダメだよ。言いたい事はわかるが君はまだ頑張れるだろうし、何より私は君を人として好きだし、尊敬している。わかるよね?ケイティ」


「えっ?ああ。はい。わかってます」

ケイティはサリバンに答えると少し渋い顔をした。


「あと3時間!大丈夫!君ならやれるよ!私は君を信用している!大丈夫!」


サリバンはそう言うと一言「頼んだよ」と言って電話を切った。


「ああ。もう最悪」


ケイティは再び髪をかきあげると天井を見上げた。天井にはミックジャガーのポスターが貼ってある。


「ミック私ダメかも・・・」


ケイティがポスターを見つめるとミック・ジャガーがライブでエキサイトしている顔は目を瞑っていた。


「とうとうミックも目を背ける程私に距離を置いてしまったのね」


ケイティはミックに向かって言うとすぐに

「えっ?なに?」と言って目を見開いた。


ポスターの内側からミックの顔ではない小さな生物が大事なミックの顔を突き破って寝ていたのだ。


「ええ!ちょっ!なに?えっ!?」


ケイティは立ち上がるとまじまじと顔を見上げる。すると突き破って寝ている小さな生き物がその言葉にパチリと目を開けて「こんにちは」と言った。するとケイティはすぐさまそこら辺にあった雑誌を何冊も天井に向けて投げつける。


「あっ!ちょっ!痛い!いたたた!痛い!やめ・・・ちょっ!ああ!やめて!」


小さな生き物は悲願するとポスターをビリビリに破いてすぐさま床に降り立った。


「ちょっと!待ってください!なにをするんですか!」小さな生き物は悲しそうな顔をしてケイティを見つめる。


「いや、えっ?当たり前でしょ!こんな所で何してるの!?てかあんた何?」


ケイティは叫びながら雑誌を丸めて手に持った。


「ちょっ、まぁちょっと落ちついてください!そのなんと言うか構えるのは良くないですよ」


「えっ!?何?意味わからない!何!?ちょっと誰なのよ!」


「あっ!なんと言うか僕、あの、えっとフォルテフェリーチェ」


「えっ?何?ロドリゲス?」


ケイティは急に現れたよくわからない人間の言葉を喋る小さな生き物に混乱している。


「いや、あの、ロドリゲスじゃなくてフォルテフェリーチェ・・・」


「えっ?あんたさっきロドリゲスって言ってたじゃない!何?えっ?なんで私の家の天井に張り付いてるのよ!」


「えっ?僕、ロドリゲスなんて一言も・・・」


「そんなのどうでも良いからなんで私の天井に張り付いてるのよ!」


ケイティは相当怯えていた。無理もない。この家で半年程1人で暮していたのに、たった数秒前には小さな生き物が天井に張り付いていたのだから。


「えっ?私の天井って?いや、あのごめんなさい。大丈夫です!すぐ出て行きますから」


小さな生き物は言うとお腹のポケットから少しはみ出していたタオルをしまい直すと申し訳なさそうに玄関にトコトコと歩き出した。


「ちょっと!待ちなさいよ!なに!?あんた!なんなのよ!」ケイティは小さな生き物を呼び止める。


「あ、いや、ごめんなさい。本当ごめんなさい。でも悪気があったわけではないんですが、どうやら気付いたら天井に張り付いていたみたいなんです。本当、あっ!失礼します」


小さな生き物はつま先立ちで玄関のドアノブを必至に開けようとするが微妙に手が届かない。


「ちょっと待ちなさいよ!」ケイティは自分に危害がないと思ったのか凄い剣幕で小さな生き物に向かってくる。


「ああ。もうダメだ」


小さな生き物は諦めると大人しく彼女を見つめた。


「ちょっと!」


ケイティはガッと小さな生き物の肩を掴むと睨みつける。


「私の大事なミックを何してくれてんの?」


ケイティはビリビリ破かれたポスターに指を指して小さな生き物に言った。


「えっ?ミック?」小さな生き物は怯えている。


「そう!ミック!あれよ!私の大事なポスター!わかる?私の恋人よ!」


「ああ。あの、おじいさんのポス・・・」


「おじいさんじゃないわよ!私の大事な人よ!わかる?恋人よ!」


小さな生き物は、この人は随分前から気がどうにかなっちゃってるんじゃないかな?と思いつつも「ああ。彼氏のポスターでしたか。それは、もう本当ごめんなさい」と言った。


「ごめんなさい!じゃ済まないわよ!わかる?あそこには彼の大事なサインが私宛に書いてくれてたの?わかる?あんた!一体!どこから入ってきたの?ねぇ!ちょっと!あんた人間じゃないのになんで喋ってるの?あんた何者なのよ!どこから来てどうやって私の家に入ってきたのよ!ねぇ!聞いてるの?あんた年いくつよ!」


ケイティはマシンガンのように質問をする、5年やってきた記者の質問攻めは伊達ではなかった。


「いや、ちょっ、なんと言うか、質問が、・・・」


「えっ!質問?何十問も質問してやるわよ!トンチンカンなあんたみたいな生き物は!ふざけないでよ!どんだけ私あのポスターを大事にしてきたと思ってるのよ!」


「いや、あの落ち着い・・・」


「えっ?落ち着いるわよ!だいたい私だって記者をもう5年もやっててね!あんたみたいな生き物初めてみて、混乱・・・記者?記事?あっ!」


ケイティはようやく自分が取り乱している事に気付き、すぐさま記者の血が騒いだのだ。


「ああ。ごめんさい。私、ミックで取り乱し過ぎてたわ。ごめんなさいね!坊や」


ケイティはそう言うと「フゥ・・・」と深呼吸をして小さな生き物をみた。


「いや、僕こそ本当ごめんなさい。なんと言うか、大切なポスターをビリビリに破いちゃって。僕があんな所で寝ていなければ、あの、うん。本当にごめんなさい」


小さな生き物は目をウルウルさせながら彼女に悲願する。


「まぁ、ポスターの件は仕方ないから許すわ。大丈夫よ。うん。それより、あなた一体人間では無さそうだけど、何の生き物なの?人間の言葉喋るなんてやっぱり不思議よ。ちょっとインタビューさせていただきたいんだけど、いいかしら?」


ケイティはそう言うとすぐさま机に置いてあったノートパソコンを持ってきてカタカタと小さな生き物を不思議そうに見ながら文字を打ち出した。


「いや、あの僕、これから大至急向かわないと行けない所がありまして・・・その、何と言うか・・・」


小さな生き物はケイティの目の奥にある果てしない恐怖を感じながら何とかこの場から去りたいと願った。しかし、ケイティは


「ポスターは?」


と凄い剣幕で小さな生き物に言い放った。


「あっ!えっ?ポスターの件はもう・・・」


「終わってないわよ。ポスターの代わりにあなたをインタビューさせていただけたら許すわ」


ケイティは更に恐い剣幕で睨みつける。


「あ・・・はい。わかりました。じゃ、なんと言うか五分ぐらいなら」


小さな生き物はケイティの威圧感に押され泣く泣く諦め玄関の入り口でそっと正座をする。


「じゃぁ、まずあなたの名前から良いかしら?」


ケイティはそう言いながらカタカタとキーボードを打ち込む。


「えっと名前・・・ですね。僕前に記憶走力と前に知り合った方に言われまして・・・」


「記憶喪失ね」


「えっ、あ、はい。記憶喪失でして、名前は僕のタオルに書いてあったので、わかったのですが、ちょっとどこから来たとか、何者かとわからないんです」


「そう。それで名前は何と言うのかしら?」


ケイティは小さな生き物をちらっとみてからまたキーボードを打ち込む。


「どうやらフォルテ・フェリーチェって名前

らしいんです」


「ロドリゲス?」


「えっ?ロドリゲス?いや、フォルテ・フェリーチェって名・・・」


「ロドリゲスね。それで、どうやって私の家に進入したの?」


「あっ、それが何と言うか僕も路地裏のゴミ箱ら辺で寝ていたのですが、気付いたらここで寝ていたんです」


小さな生き物は名前が違うと思いつつも次の質問に答えた。


「ここに来る前に路地裏で寝ていたけど、寒いから暖かい部屋で眠りたくなって私がいない間にピッキング行為をして部屋に進入し、ベッドで寝るとバレるから天井のポスターの内側に張り付いて寝ればバレないと思って、そこで寝たと?それでいいのね?」


「いや、ちょっと、誇張しすぎて何と言うか、まぁ、あの全部違うと言うか」


「それで、あなたは記憶喪失と言ったけど地球上の生き物ではないわよね?」


小さな生き物はもう何言っても多分無理なんだろう。と思いつつ次の質問に答える。


「いや、えっと多分パンダなんじゃないかと思うです」


「パンダ?」


「はい。パンダ」


「パンダ・・・」


「はい。パンダ」


「無理があるわね。宇宙人ね」


「えっ?あっ、はぁ・・・」


小さな生き物は項垂れた。


「それで何処の星から来たとかもわからない?」


「えっ?星?」


「そう。星。あなた、地球上で人間以外が人間の言葉喋ると本気で思ってるの?」


ケイティは強い口調で言う。


「ああ。いや、なんと言うとか記憶喪失だからわからないんですが、ふと気付いた時にはこの町にいたので、宇宙人ではなくて、ほら!なんと言うか、元々パンダでしたが、人間の言葉とか話せるようになって進化して、人間になったかも知れないですし・・・宇宙人とかでは絶対にないと思うんです。宇宙人とか信じないですし・・・ほら指だって五本ありますし」


小さな生き物はケイティに掌をグーパーグーパーしながらアピールをする。


「色々ツッコミたい所があるけど人間の肩にギリギリ乗れるぐらい小さな人はいないわ」


「ですよねぇ」


小さな生き物はチッ!と小さく口を鳴らす。


「火星とかありえそうね。それでどうやって地球に辿り着いたの?」


ケイティは無表情でキーボードを打つ。


「ああ。えっとごめんなさい。その前にちょっとミルクを一口飲ませもらえないでしょうか?喉が渇いちゃってうまく喋れそうもなくて」


小さな生き物はケイティの質問を制止して言うと冷蔵庫を指差した。


「ミルク?ミルクが欲しいの?」


「ええ。ミルクだけ飲めれば喉も潤ってお腹いっぱいになるので、頭も働くかな?と思いまして」


小さな生き物は少し照れ笑いをした。


「んー。わかったわ。ちょっと待ってて!」


ケイティはそう言うとノートパソコンを床に置いて冷蔵庫に向かった。

冷蔵庫を開けてミルクを取り出すとコップに注ぐ。


するとその時、背中の後ろからガチャガチャと必至にドアノブを回す音が聞こえた。

ケイティは「あっ!」と声を上げるすぐさま「待てーー!」と叫びながら玄関に向かった。


しかし小さな生き物はケイティが腕を伸ばした瞬間、脱出して急いで走り去る。ケイティはすぐさま身体でドアを押して小さな生き物を追いかけたが、そこにはケイティのお気に入りの赤いハイヒールが一個転がっていただけだった。


第4章終わり。


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