ステファニーと映画館
エヴァと美青年は公園の中心にある時計をチラッとみた。
「ステファニー遅いね。どうかしたのかな?」そう言うとエヴァは美青年の顔マジマジと見る。
「ああ。そうだね。確かに待ち合わせ時刻は過ぎてるしね。ん?エヴァ。僕の顔に何か付いているのかい?」美青年はエヴァがマジマジ自分の顔を見ている事に気付いて質問をした。
「ああ・・・いやごめん。なんでもないわ。」エヴァは少し頰赤らめると俯いた。それから直ぐに顔を見た事を忘れて欲しいかのように喋り出す。
「それにしてもステファニーなんも連絡よこさないし、もしかして今日遊ぶ事忘れてるんじゃないのかな?」
「まさか。昨日今日約束して忘れるなんて、そんなおっちょこちょいな人なんているのかい?」
「そうね。そんなはずないわ。ステファニーは気使いなのよ。多分何か重大な事が起きたのよ。だって彼女とても魅力的だし、きっとなんて言ったらいいか、多分イーサンも気にいると思うわ。」
「そうか。僕はそんな素敵な女性達2人に出会ってこうやって遊びに行くなんて幸せだな。」
「まぁ。ありがとう嬉しいわイーサン」
イーサンは爽やかな笑顔でエヴァを見るともう一度時計台を見た。
「でもしかし、そろそろ映画の上映時間が迫ってるよ。このまま彼女を待つのも良いが、人気作のダーウォーズだし、チケット中々手に入らないし、あと5分待っても来なかったら流石に2人で観るって事も出来るけどどうかな?」
エヴァはステファニーが来るであろう方向を不安そうに観ると
「えっ?ああ。うん。それもそうね。チケット代勿体無いし」と言った。
その頃ステファニーは後少しで待ち合わせ場所に到着と言う曲がり角で、小さな生き物と格闘していた。
「ねぇ。ちょっと!なんで電柱にしがみついてるの?」
「・・・電柱が僕を呼んでる気がするんです」小さな生き物はそう言いながら必死にステファニーが下ろそうとしている腕にギュッと堪えながら抵抗し続けていた。
「電柱があなたを呼んでるなんてありえないわ!お願いよ!ダメよ!もう早くしないと映画始まっちゃうのよ!ねぇ!えっとーあー・・・さっきなんて言ったかしら?えっと!ロドリゲス!」
「・・・」
「えっ?あれさっきロドリゲスって言ってなかった?ロドリゲスじゃないの?」
「違う・・・」小さな生き物は悲しそうに彼女を見つめてから顔を背ける。
「ああ!もうなんなのよ!違うの?ロドリゲスじゃないのね?」
「違う・・・けどそうなのかもしれません」
「ええ?そうなの?もう何なのよ!早く降りて貰わなきゃ本当に困るのよ!一体どうしたのよ?」
「名前・・・」
「えっ?名前?」
「そう。新しい名前が欲しいの」
「今?」
「うん」
「今じゃなきゃダメなの?」
「うん」
「ああ!わかったわ!じゃぁこうしましょう!映画館に着いたら名前つけてお菓子買ってあげるからそれならいいでしょ?」ステファニーは小さな生き物に条件をつける。大体名前なんて今決める時間も無かったし、そもそもかれこれ30分は遅刻していたのだ。
「お菓子って何?」
「何って、えっと甘いチョコとか飴とかポップコーンとかとにかく美味しいものよ!」「美味しいの?」
「うん!凄く美味しいよ!」
「ミルクより?・・・」
「そうね!美味しいわ!凄くいいものよ!」
「キャベツとどっちが美味しいの?」
「キャベツ?えっ?ああ!キャベツより断然美味しいわ!」
「それなら食したい・・・」
「食べてみたいでしょ?さぁ電柱から降りて!」
ステファニーはそう言うと両手を広げた。
「名前は?・・・」
「名前?」
「うん。名前」
「えっと映画館行ってからでいいでしょ?」
「名前が欲しいの」
「えっー。ジェラードは?」
「違う・・・」
「デッセン!」
「違う・・・」
「ああ!もう無理!わかったわ!もういいわ!そんなワガママなら私、このまま一人で行くわ!それなら文句ないでしょ?」ステファニーは我慢の限界が来ていた。突然現れた小さな生き物に何故こんなにも振り回されなきゃ行けないのか。まして、よく分からない生き物によって大遅刻しているのだ。
ステファニーは一人小さな生き物に背を向けて歩き出した。
「待って」小さな生き物は背中越しに言うと電柱からちょっとずつ降り出した。
「ワガママ言ってごめなさい」
「ああ。もうわかったなら良いのよ。さぁ行きましょう」ステファニーはそう言うと小さな生き物を抱えて走り出したのだった。
「そろそろ5分だ。エヴァ行こう」
「えっ?ええ。そうね」
イーサンはエヴァの手を掴むとゆっくりと歩き出す。と、その時だった。ちょうどステファニーがエヴァとイーサンが歩き出す真逆の方向から走ってやってきたのだ。
「ステファニー!!!」エヴァは叫ぶとステファニーも「エヴァ!!!」と叫んで、ようやく待ち合わせ場所に辿り着いた。
「はぁはぁ・・・ごめんエヴァ!大遅刻しちゃって!」
「ええ!良いのよ!えっと・・・うん?あれ?何?」エヴァはステファニーが抱えていた小さな生き物を見ると驚いた様子で聞いた。「ああ。うん!色々あって後で話すわ」
「ええ。それなら良いけど・・・あっ!こちらイーサン!」エヴァがイーサンを紹介するとステファニーは「初めましてこんにちは」と言った。
イーサンも「やぁ。君が噂のテファニーかい?よろしく」と爽やかに名前を間違えた。
ステファニーはイーサンを見て「ステファニーよ!こちらこそよろしく」と言った。
イーサンは「ああ!ごめん!ステファニー!とりあえず行こう!」と爽やかに言うと
それから3人と1匹は急ぎ足で映画館に向かった。
映画はもう既に入場時刻を10分は過ぎていた。お客はステファニー達以外はもう映画を観ている。ステファニー達も着いた早々チケットをカバンから取り出した。
それからチケットを店員に見せると「さぁみんな急ごう!」とイーサンは中に入って皆んなを急かす。イーサンに続きエヴァも「はい!」と言って入る。ステファニーもチケットを店員に見せてそそくさと入る。すると店員に「ちょっ!ちょっと!」と声をかけられた。
「あの申し訳ありません。ペットの連れ込みはご遠慮させていただきたいのですが・・・」
ステファニーは「えっ?ああペットに見えます?私の子供なんですが」と咄嗟に嘘をついた。
「はぁ。申し訳ありません。私にはどう見ても子供には見えないのですが。何と言うか。猿と言うか。そう言った類の動物に見えるのですが」
「えっ?あっ。うん。そうね。少し変わった体型してるわ。でも立派な私の子供よ!ねぇ。ロドリゲス?」ステファニーは小さな生き物に目で訴えかけるように聞いた。
「・・・」
「ねぇ?」
「・・・」
「どうやらあなたのお子様はお答えにならないようですが、申し訳ありません。どこかにお預けになられてからご入場お願いできますでしょうか?」
「そんな事ないわ!普通に喋るし!ねぇ?しっかり今なんでもいいから喋ってみてロドリゲス!」
「ンガガコンチョムナムンキッキカッサイ」
「ちょっ!エエー!」
「何言ってるの!ちゃんと言葉話しなさいよ!」ステファニーは小さな生き物がよくわからない言葉に焦った。
「どうやらやはりお子様ではないようなので、申し訳ありませんが。入場出来かねます」と店員は突っぱねた。
「ちょっと!本当に私の子なのよ!急がなきゃ映画始まってしまうわ!チケットだって持ってるのよ!通してよ!」
「申し訳ありませんが、他のお客様にご迷惑がかかりますので」
「ちょっとロドリゲス!お願いよ!ちゃんと貴方が話さないと入れないのよ!ロドリゲス!」
「ハムナムファントムウンマンボウ」
「ちょっとー!ロドリゲス!あんたなんで急に言葉おかしくなるのよ!」
ステファニーが絶望していると、エヴァが駆け寄ってきた。
「ステファニー大丈夫?」
「ああ。エヴァ!私映画ダメみたい!」
ステファニーは少し笑うと悲しそうな目でエヴァを見た。
「大丈夫よ!エヴァ!イーサンと映画楽しんできて!私仕方ないから外で待ってるわ!」
「ああステファニー。私なんて言ったいいか・・・」
エヴァは複雑な顔する。
「エヴァ気にしないで!大丈夫よ!ちょっと勿体無いけど仕方ないわ!とりあえず待ってるから急いで行って!」
「ステファニーありがとう。うん。なんと言うか楽しんでくるわ!ごめんね!」とエヴァは言うと奥へ入っていく。
ステファニーは少し羨ましそうに見送ると「もう最低・・・」と呟いて、映画館の外に出た。
「はぁ・・・やっぱり最初から私ついてないのよね。うん。まぁ私ちゃんと考えてなかったのが行けなかったのよ」
ステファニーは肩を落としながらトボトボとさっきいた公園に戻った。
「ステファニー。大丈夫?」小さな生き物は少し心配そうだ。
「うん。まぁ大丈夫よ。私いつもついてない人間なのよ。なんと言うか・・・まぁあなたのせいだけどね」
ステファニーは小さな生き物に少しムスッとした顔で睨んだ。
「ステファニーごめんね。でも僕は少し不安だったんだ」
「うん?どう言う事?」
「何かよくわからないけどあそこに入っちゃいけない気がするの」
小さな生き物はそう言うと映画館の方を指差した。
すると映画館入り口から砂煙が舞い上がり、窓ガラスなどが一瞬にして吹っ飛んだ。それからいくつもの悲鳴が重なり次々と赤い血を流した人達が外にと流れ出る。
「え?ちょっ!なに?」ステファニーは唖然としていると小さな生き物は小さな声で
「怖い!怖いよ!ステファニー」と言ってステファニーの胸にぐっと顔押し付けてステファニーがしていた首飾りをそっとちぎった。
「えっ?ちょっ!ロドリゲスなにしてるの?」ステファニーは映画館と小さな生き物を何度もみる。
それから小さな生き物は「大丈夫だから!大丈夫だから!」と言って走り去って行く。
ステファニーは「ちょっと!何なのよーーー!」と叫ぶがその声は小さな生き物からしたらだんだんと遠くになっていった。
第2章終わり