その後
ジーンは無我夢中で自転車を漕いでいた。
先程の小さな生き物とあの男はどうなったんだろう?そう思うと中学校に行く気にはなれなかったが、今日は朝から学校で中間テストがある日だ。
(参ったな)
自転車を漕ぎながら彼は胸の奥で何か胸騒ぎ憶えながらも学校に遅刻するわけにはいかなく、全力で朝の事を忘れるしかなかった。
うさぎはカゴの中でジーンの顔をマジマジと見ると何を思ったのか前に向き直して涼しい風を浴びた。
それから直ぐの事、パンッ!と言う重い音が響きジーンはブレーキを踏み後ろを振り向いた。
(まさかな・・・)
彼の胸の奥のモヤモヤは物凄い恐怖と嫌な予感を感じさせた。
ジーンは「ジプシーすまん!戻るぞ!」と言うと来た道にすぐさま引き返した。
公園の入り口の少し手前にジーンは自転車をそっと置いてうさぎを抱えると足跡を立てずに進み、音がした場所の近くに、木の枝で覆われたフェンスがあったのでそこからジーンは覗いた。
「なんだ?誰かいるぞ?」
ジーンは先程自分を助けてくれた男は見当たらなかったが、その代わりにジーンが生きてる中で見た事もない異様な目つきとボサボサ頭の男が小さな生き物と話していた。
「あのおっさんなんだ?何を話しているんだ?」
ジーンからは2人は何かを話している事は分かったが、話の内容までは聞こえなかった。
「どうする?ジプシー?」
うさぎはどうもこうも何も出来ないだろう?と言いたげな目をしてジーンを見た。
「てか何で、助けてくれた男がいなくなったんだよ。絶対あの音撃たれてるはずなのにな」
ジーンは異様な雰囲気に飲み込まれそうになり足がすくんだ。
「ヤバイ、どうしよう。動けない」
ジーンは必死に両腕で足を気付かれない程度に叩くが足は微動だにしなかった。
それから数分後、足をどうにかしようとしていたジーンが視線を2人に向けるとボサボサ頭の男だけが立っていた。
「ん?なんだ?終わったのか?」ジーンはなんだかモヤモヤが取れないで終わっちゃったなと思いながら視線を後ろに向けると小さな生き物が「こんにちは!」とジーンに挨拶した。
「ひっ!」
「な、なんでここに!」
ジーンは驚いて腰が抜け落ち地面にへたり込んだ。
「なんでって、僕見てるの気付いたから何してるんだろう?って思って見にきたんですよ」
小さな生き物は彼の言葉を不思議に思い顔捻った。
「いや、だ、だってさ、パンッって音聞こえたからさ、お、お前、やったんだろ?あの強そうな筋肉おっさんを!」
ジーンは怯える。
「やってないですよ!僕はそんな怖い事なんてしてません!」
「じ、じゃぁ、あの人はど、どうなったんだよ」
「あの人は何処かに帰りましたよ!・・・多分」
小さな生き物は悩みながら答える。
「た、多分って、なんだよ。み、見てないのかよ」
「僕も撃った時目を瞑ってて目を開けたらいなかったからよくわからないんです」
「えっ?えっ?う、撃ったの?」
「はい。でも当たってないと思うから大丈夫だと思います」
「それよりも腰大丈夫ですか?」
小さな生き物は心配してジーンの腕を掴むと引っ張った。
「ああ。ありがとう」
ジーンは戸惑いながらもそのまま立つとお尻を叩いて土をはらった。
「僕もう生まれ変わったんです!色々わかったような気がしたから、これから前に進めると思うんです」
小さな生き物は急にジーンに宣言した。
「ああ。うん。そ、そうなんだ、よくわからないけど進めるなら良かったな」
「はい!で、悪い事をこれからもしないためにもまずは行脚をしないといけないと思うので、手始めにえっーと・・・君の名前」
「ジーン」
「ああジーン君ね!」
「そう」
「その、ジーンに公園銃向けたりしたからお詫びとして、これあげるね!」
小さな生き物はそう言うと頭に映えている一本の花を抜いてジーンに笑顔で差し出した。
「えっ?これ取れるん?てか取って大丈夫なん?」
「うーん。わかんない。でも前にこの花をコアラにユーカリと間違えられて食べられた事あったけどまたすぐに生えてきたから大丈夫だと思う」
小さな生き物は自慢気にジーンに言った。
「えっ?コアラ?」
「うん。多分コアラ」
「そうなんだ。ま、まぁ何でも良いけどこの花ありがとうな」
「どういたしまして!」
「あとそれと、この花はなんか食べると幸せになるらしいよ!コアラが言ってた」
「コアラが?」
「うん。コアラが」
「なんで?」
「なんか、食べた後競馬見たら大当たりしたんだって!」
「コアラが?競馬で?」
「うんコアラが競馬で」
「そうなんだー・・・」
ジーンは最早何をどう信じて良いのかわからなかった。
「コアラ億万長者になったんだ・・・」
「ううん。結局コアラお金持ってないから予想だけしてたの」
「ああ。そう・・・」
「そう!でもめっちゃこの花効果あるわーって言うてた」
「へぇー・・・まぁうん。ありがとう。幸せになれるならもらっとく」
「うん!幸せになれるよ!じゃあ僕はこれから行脚だからさようなら!」
「えっ?ああ。さようなら」
小さな生き物はそれから直ぐに走り出して何処かへ行ってしまった。
ジーンは時計を見ると既に学校は始まっていた。
「やべ!遅刻!この花幸せになれないじゃん!ジプシー戻るぞ!」と言ってジーンは急いで自転車に戻った。
それから数十分後、公園で男は身体の揺れを感じ目を覚ますとすぐさま起き上がり、ファイティングポーズをした後、周りを見渡した。
「ん?・・・あれ?・・・えっ?どうなったんだ?」
「うん?ああ。大丈夫かぃ?」公園の清掃員らしき老人が男に聞いた。
「えっ?ああ!えっ?はぁ、いや、えっーとあの小さいクマいませんでした?」
「いんや、誰もおらんかったよ。ワシが来た時は。お前さん1人じゃて。それより大丈夫かぃ?なんか倒れておったからわしゃ死んどるんかと・・・」
「え?あっ、あっ。はい。大丈夫です。身体はなんとも寧ろ胸筋がピンピンしてるぐらいなんで・・・あれー?おかしいな。確かに子グマが・・・」
男は不思議そうに思いながらも「ご迷惑おかけしました」と言って土で汚れた身体を手で払った。
「病院とか行かなくても大丈夫なんかい?倒れとったから・・・」
「いえいえ!胸筋が大丈夫だと言ってるので!心配しなくても大丈夫ですよ!ありがとうございます!ワッハッハ!」と男は清掃員らしき老人に手を振りながら来た道を戻って行く。
清掃員は「それなら良かった。ヒッヒッ」と笑うと「さてと戻りますか」と呟いてどこかに消えていった。
END