ワインマンと小さな生き物
夢を描くフォルテ・フェリーチェは嫌な事や、悲しい事、とても辛くどうしたら良いかわからない時や人生に疲れたなど、そんなあなたの心を少しでも小さな生き物でクスッとした笑いを電車や自宅、職場や学校などで少しでも描けたら。そんな想いで捧げます。
さぁ!夢を描くフォルテ・フェリーチェ始まるよ!
11月末日雪の降る寒い夜、ワインマンはいつものように野菜などの品物を片付けていると隅っこの方で物音がした。彼はて?何か?と思い、近くまで寄ってみる。
そこには小猿のような小さな生き物がタオルに包まれてスヤスヤと寝ていた。
彼はおそるおそる近寄っていくと何かは目をパチリと開けて「こんにちは」と彼に言った。
彼は戸惑いながらもちいさな声で「こんにちは」と言った。
「君は、その僕の店に何か用かい?」と聞く。
すると生き物は「ミルクをひとしずく欲しいかも知れないんです」と彼に言った。
「えっ?あっ、ミルク?」
「はい。ミルクをほんのひとしずくもらえた方が良いかも知れないんです」
小さな生き物はそう言うとまたスヤスヤと寝息を立て始めた。
彼は戸惑いながら店の奥にある冷蔵庫からミルクをとりだし小さな生き物の近くに寄った。
「ああ。ちょっと。ね、なんと言ったらいいか。ボク。ミルクだよ」
すると小さな生き物はまたパチリと目を開けると「ありがとうございます」と言って口を小さく開けた。
「えっと、ほんの少しで良いのかね?」
「はい。必ずほんの一雫でお願いします」
「えっ?必ず?」
「はい。必ずひとしずくでお願いします」
彼は何故ひとしずくなのか、それ以上あげたらどうなるのか気になりながら、そっと瓶を傾けると一雫を小さな生き物に垂らした。
ピチャッと言う音と共に口の中に入ったミルクを小さな生き物は口の中でモゴモゴすると目を瞑り味わうように飲み込む。
「えっとあの、何というか。大丈夫かい?」
「・・・ありがとう。おやすみなさい」
そして小さな生き物はまたスヤスヤと寝息を立て始めた。
「ちょっと!ちょっと!」彼は優しく小さな生き物を揺すると「起きて!起きて!」と言った。
するとまた目をパチリと覚まして「ああ・・・」と呟く。
それから「あと一雫貰っていいですか?」と言うとまた口を小さく開けた。
「ああ。いいとも」
彼はまた慎重に瓶を口に傾けると、瓶を持っていた手をシュッと小さな腕が掴み、瓶を口に近づけて、ガブガブと飲み始めた。
「え?あ?エエエエー!」
彼は戸惑いながら叫ぶが、瓶の中はすでに空っぽになっていた。
小さな生き物はゲップをすると
「ありがとう」
と言ってまたスヤスヤと寝息を立てる。
彼は瓶を暫く見つめたあと、「ちょっと、ちょっと!起きて!」と小さな生き物に促した。
するとめんどくさそうに目を開けて「どうかしましたか?」と言った。
「いや、どうもこうもないよ。君は何と言うか、何者なんだい?」
「ボク?ボクはなんでしょうね?」
「えっ?君自身わからないのかい?」
「はい・・」
小さな生き物はそう呟いた後少し間をあけて「多分パンダだと思うんですが」と言った。
「いや、パンダではないと思うよ。きっと。なんと言うか、耳はパンダみたいだけど、目とかなんか違うし、喋るし、尻尾も違うし、茶色いし、どちらかと言うとサルのような・・・」
彼は不思議そうにみると小さな生き物をジロジロみた。
「じゃぁ猫かも知れないですね」
「猫は違うんじゃないかね?では君の名前は何と言うんだい?」
「名前?名前は・・・あったかも知れないし、無かったかもしれないんです」小さな生き物はそう言うと少し俯いた。
「そうか。君は記憶喪失と言うわけだな」
「記憶喪失?」
「そう。記憶喪失だ。記憶喪失と言うのは、何か大きなショックがあって自分の事を何も思い出せなくなってしまう病気だよ」
「僕は病気なの?」
「そうかも知れないね。でもきっと思い出せるさ。ただ名前が無いと不憫だから思い出すまで何か名前をつけよう」
「うん。僕に名前をくれるの?」
「そうだね。名前をつけよう。君は何かお気に入りの物とか好きな食べ物とかないのかい?」彼はそう言うと暫く考える。
「僕はパンダが良いな」小さな生き物は愛らしい目で彼を見つめた。
「パンダは名称ではあるけど名前ではないんだよ」
「じゃぁダンパはどうでしょうか?」
「ダンパ・・・いや、それはパンダを逆に読んだだけじゃないか。それではなんか違うと思うよ」
「違うのかぁ」
小さな生き物はまた少し俯くとボヤいた。
彼は困った顔して、腕を組み2、3分考えた後、
「じゃぁ、どうだ?ロドリゲスって名前なんか強そうで良いじゃないか!」と言った。
「・・・いい・・・良いと思います。なんだって良いと思います」
小さな生き物は投げやりに呟くと現実逃避の様に眠りについた。
「ちょっ!ちょっと!ちょっと!すぐに寝ちゃうんだから。申し訳ないけど、ここで寝られると困るんだよ!起きて!ロドリゲス君!」
彼はそう言うと今度は少し強めに揺する。
「ああ。痛い・・・痛い」強めに揺すられた小さな生き物は少し嫌な顔しながら目を覚ました。
「申し訳ないんですけど、僕は今眠いんです。何か用なんでしょうか?」
「いや、えっ?用?用と言うか、ここは私の店の中だからここで寝られると困っちゃうんだよ」
「どうして寝られると困るんでしょうか?」
「いや、普通困るでしょ。ロドリゲス君を私は何者かまだ全然知らないし、私が居なくなった後、野菜とかをもし君に食べられたらお客の売り物にならなくなって困っちゃうじゃないか!」
「そうですか。でも大丈夫です。僕、葉っぱぐらいしか基本食べないんです。キャベツとかも勿論好きですし、トマトとかも好きですけど、お金とかも無いですし、葉っぱだけ食べれれば満足なんです」
ロドリゲスはそう言うと、舌をペロッと小さくだした。
「い、いや。今キャベツとか好きとか言ってたし、ミルクだって飲んだでしょ。寧ろ逆にそう言われると益々1人でここに置いとく訳にはいかないよ」
彼は不安な表情でロドリゲスを見る。
「そうですか。困りましたね」ロドリゲスは俯く。
「いや、いや。こっちが逆に困るよ!明日も朝が早いんだ。まだ小さな子だけど、出て行ってもらわなきゃ。本当に困るんだよ」
「僕まだ赤ちゃんだから歩く事が出来ないんです」更にロドリゲスは俯いた。
「いや、えっ?いや、赤ちゃんなの?喋ってるけど、赤ちゃんなの?」
「はい・・・まだ多分0歳だと思います」
「いや、0歳で喋るのもおかしな話でしょ。まぁ君自体が不思議な生き物だから何とも言えないんだが・・・いやはやどうしたものか。警察に連絡でもするのが一般的か?しかし、警察も掛け合うかどうか・・・」
彼はボソボソと自問自答していると、急に小さな生き物が怯えたかのようにブルブルと震えだした。
「警察・・・警察だけはきっと辞めた方がいいと思いますよ。きっと。多分なんと言うか、僕みたいな生き物が存在する事を真に受けるとは思えないですし、あ・・・あの、あれですよ。きっと警察に笑われるのがオチですよ。変な八百屋さんって」
「そうかね。それはそれで困るが、しかし、いつまで経っても君にここにいられるのも困るしな。ちょっと電話して警察に相談してみようかと思う。君は動けないだろうから、逆に警察が来てくれれば君をきっと安全な場所に連れてってくれるだろうし・・・」
「あっ!あれ?あっ・・・あっ!立てる!おじさん僕立てるよ!ミルクもくれたし、もう大丈夫だよ!おじさん!」
そうロドリゲスは
思い立ったかのように急に立ち上がると元気を彼にアピールした。
「おお!こりゃ凄い!立ったのか!凄いな!元気も出て良かった!」
「はい!おじさんありがとうございます。ミルクもくれて名前まで付けてくれて、本当に感謝しますし、長い時間居させてくれてありがとうございます。今度何かお礼させてください!歩けるようにもなったし、これでおいとましますね」
ロドリゲスはオドオドしながらタオルをギュッとお腹のポケットにしまい込んでそそくさと立ち去ろうとした。
「いやいや、大丈夫だよ!君が元気になってくれさえすれば、本当にこっちも助かるしね。ただ、それにしたって住む家とか記憶失くしちゃわからないだろ?夜道も危ないし、私が警察に相談して安全な場所に連れてってもらおうと思うが、どうかね?」
ワインマンは心配そうな顔しながらロドリゲスに聞いた。
「大丈夫です。ありがとうございます。心配なさらないでくださいな。僕、成長が人より数十倍早いから夜道だって怖くないし、おじさんからもらったロドリゲスって名前が身体に届いたのか、凄く強くなった気がしますので、ありがとうございました!」
ロドリゲスは早口で一気に喋ると急いで閉まりかけのシャッターの方へ走りキャベツを1つサッと取って猛ダッシュで出て行った。
「あっ!えっ!?ドロボー!!!」
ワインマンは叫ぶと彼の後を追いかけようとしたが、既に彼の姿は闇夜に消えて行ってしまった。
ワインマンは暫く唖然としながら明日の朝の事を考え、「ふぅ」と溜息を吐くとやるせない気持ちで店の片付けに戻った。
第1話 終わり。