9)地獄を見た日
尿路結石ができやすい体質だと判決を受けた後、何年か定期的に通院をした。不思議なことに、あんなに短期間で何度も繰り返したはずの結石は一度も見つからなかった。
油断していると時々「これはまさか!?」というような違和感や腹痛をおぼえたが、市販の痛み止めを飲む程度でおさまった。本当に気のせいだったのかも知れないし、小さな石が生まれては自然と排石されたのかも知れない。尿路結石と上手く付き合えるようになってきたのかと誇らしくさえあった。
これはもう大丈夫だ、と通院も終了した。
そして更に数年経ったある日。忘れもしない一月の末のことだった。
夕方からほんのりと腹部が重かった。二日前に食べたメガカレーと豚丼のコンボが今頃効いてきたかと、無駄なチャレンジ精神を後悔していた。
帰宅後、トイレに籠るもどうやら食べ過ぎが原因ではないらしい。市販の痛み止めを飲み、横になるが落ち着かない。もちろんすぐに尿路結石は疑ったが、痛み方が違う。時間とともに激痛に変わり、とりあえず近くの実家に連絡をし、病院に行く事にした。この時すでに一人で立って歩けない状態。
夜間救急窓口に電話をかけ、紹介された病院に行くと外にまで人がごった返していた。待合室にいられそうもないので、順番が来たら呼んでもらえる様お願いした。車の中でのたうち回り、その際に尻でエアコンのスイッチ等押しまくり、まさに地獄絵図。
ようやく順番が来て診察してもらうと「うちじゃ検査できません」「ここまで痛いなら救急車呼ばないと」と言われた。
な、なんだってーー。電話でここ行けと言われて来たのに、あんたら鬼か。
紹介状を書きます、と言いながら紹介先の病院へ電話をかけ始める先生。
「**歳、女性、アッペ疑い」と聞こえた。アッペ=盲腸。私、盲腸なの?盲腸ってこんなに痛いの?尿路結石より痛いんですけど。
痛み止めの注射とか座薬とかやってもらえませんか、原因がわからないにしても、なにとぞなにとぞ…と食い下がるも駄目だった。そして盲腸かも知れないという説明をされないまま紹介された大学病院へ。
盲腸+腹膜炎の疑いと言われ、ストレッチャーでガラガラ移動。まだ寒い季節。身体の前後に貼ったカイロと腹巻が検査の邪魔をする。放射線技師のお姉さんがカイロを剥がしてくれ、看護師さんが持っていてくれた。申し訳ない。
腹部CTの結果「尿路結石です」。
またか!!!またアイツか!!!久々に現れたと思ったら物凄い暴れ方しやがって。
点滴では効かず、座薬を懇願して入れてもらったが効果なし。痛みでパンツを上げることもままならない、下半身に毛布をかけた私を当直担当の医師が三人で心配そうに見ていた。
「ここまで来ると座薬も効かないんですよね」と最後の手段、点滴に強い薬を入れてもらうと、少しずつ意識が遠のいた。薬って、すごい。
この日、痛みに苦しんだ時間は過去最長の七時間だった。