8)Stone Screen
退院時に“Stone Screen”なるものを渡された。見た目は丸く平べったい手のひらサイズのもので、蓋をあけると折り畳み式のカップになっている。底が網でできていて、これで石を採取するらしい。名前はカッコいいけど、ただの尿漉し器だ。しかも、外出先でも使用するらしい。
破砕手術で石は粉々になっているはずなので、体内に残った砂を採取して病院に持っていき、病理検査に出して成分を解析すれば私の結石の原因がわかるという事だった。何かほかの病気が引き金かも知れないし、特定の食べ物が石の生成を手伝っているなら控えなければならない。
ただ、外出先でも使用するというのはやっぱり面倒くさい。駅のトイレでも会社のトイレでも、例の装置を取り出して尿をする。使い終わった後は何か獲物がないか目を皿にして確認した後、洗って次のチャンスまで保管する。
砂は意外とすぐに採取できたが、こんな小さなかけらで検査ができるのか?と不安になり、次の外来予約の時まで必死に集め続けた。七つ集めたら願いごとが叶うとか特典があるならば喜んで採取するのに。
わずかな砂つぶを病理検査に出した後も、私は独自に尿路結石について調べていた。数年前これでもかと言うほどネットを漁り、あらゆる病院のサイトや経験者の投稿を読んだが、医学は日々進歩しているので新たな情報があるかも知れないと思っていた。
ところが特に有益な情報はなく、どれだけ痛み苦しむかという内容のみで予防法などについてはほぼ触れていない。水分をたくさん摂ることと、シュウ酸カルシウムの多く含まれるほうれん草は気を付けよう、というような控えめなアドバイス。そんな、手洗いうがいをすれば風邪の予防になります、みたいなレベルじゃこちとら安心して生活できないのに!
漢方のお茶を途中でやめたくせに、楽して結石予防しようと考える私がいた。
検査の結果、私の結石の原因は「体質」だった。
「え、ほうれん草とかは…」
「よっぽど毎日大量に食べるんじゃなければ気にしなくて大丈夫ですよ」
ほうれん草が食べられなくなるのも悲しいが、何か対策はないのか!?
「予防法とかは…」
「水分いっぱい摂って、定期的にレントゲンで新しい石が出来てないか見ていきましょう」
ガーーン。
体質って。そんな。
しばらくして私の父もついに結石を体験した。私の痛み方を見ていたのですぐに結石を疑って病院へ行き、失神するほどの苦しみは免れた。羨ましい事に排石促進の薬や破砕手術なしで自然と排石できるタイプだった。もちろん痛みはあるので発作時は座薬を使用するが、スポンジの入ったプラスチックのケースに出てきた石をコレクションしている。記念メダルか。まさか七つ集めようとしているのか。だとしたらズルい。
後からわかった事だが、うちの家系は結石持ちが多かった。近しい血縁者の三十歳以上の男性は全員、経験者。
私は女性で唯一の、そしてトップの再発率と二度の手術を行った英雄だった。