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私の爆弾  作者: 如方りり
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5)はじめての入院

 二十代半ばの初夏。私は膀胱炎のような症状と高熱を出して病院に行くと、腎盂腎炎と診断され、そのまま入院することになった。生まれて初めての入院。

 そして主治医から信じられない言葉を聞いた。

「腎臓に石がありますね」。

 またアイツか!

 結石は、腎臓にある間はあまり痛みがない。それが尿管に出てくると、通り道を傷つけたり塞いだりして激痛を伴う。だからか全くアイツの存在に気付かなかった。私がのんびりしている間に腎臓で新たに生まれていたなんて。

 しかも腎盂腎炎になったのは、異物である結石が腎臓にある事が原因の一つかも知れないとの事だった。今回の入院中に石が出てしまえば良いが、出なければまた破砕の設備のある病院に転院しなくてはいけない。

 数年前あんだけ苦しんだのに、漢方茶を継続しなかった自分を呪った。ひょっとしたら尿路結石は、一度排石すると痛みの記憶も消されてしまう作用があるのではなかろうか。


 お腹に爆弾を抱えながらの入院生活。続く高熱で頭がかち割れるように痛い。

 同室の老婆は小銭を数えるのが癖なのか四六時中ちゃりちゃりとした音をさせているし、隣の小児科病棟からは面会時間の終了とともに一斉に泣き声が聞こえる。高熱と頭痛が落ち着くまでは少しの物音も耐え難かった。


 夜間に一度だけ我慢ができず、朦朧とした頭でナースコールを押した。座薬を使いましょう、という事になりベッドの上で横向きなって可愛い看護師さんに尻を捲られる。

 ちなみに今まではよっぽどでなければ病院でも自分で座薬を入れていたが、この時は尻に手を回す動作すらできなかった。恥ずかしいとか言ってられん。

…。

「あれ?」

…。

 わかりましたよ、今。あなた、穴を間違えましたね?

 ぐったりしながら無言でいる私に「ごめんなさい」と必死で掻き出そうとする看護師さん。無常にも座薬は体温で溶けてしまう。きっとこんな失敗は初めてだったのだろう。慌てて医師に確認しに行った彼女は戻ってきて申し訳なさそうに言った。

「膣でも少し吸収されるので、全く効かないわけじゃないみたいです。でも今一回使っちゃったから、あと四時間くらいは入れなおしできないので暫くこのまま様子を見て下さい。」

 お、お前さん。なんてことをしてくれたんだ…!

 その夜は辱めを受けた上に次の座薬を使えるまで数時間苦しむ結果となった。


 何日か点滴を続けていくうちに熱は下がり頭痛も軽くなったが、どうやら今度はアイツが動き始めた。あの痛みだ。そして最悪なことに月に一度の試練、生理痛がやってきた。

 父親は、ベッドの上にうずくまり低いうなり声をあげる娘を見て明らかに怯えていた。もはやエクソシスト。驚かせてごめんね。


 ようやく二週間ほどで退院が決まり、新しい服と久しぶりのメイクで病院を後にした私。


 …とうとう石は出なかった。


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